第209章:面影の幻影と、歪む視線
両親に「代わりに縁談に出ろ」とキレ散らかしたものの、南条財閥の跡取りとしての鎖は甘くなかった。結局、隼人は激しい頭痛と苛立ちを抱えたまま、最高級ホテルの格式高いお見合いの席に座らされていた。
窓から差し込む陽光すら鬱陶しい。隼人は運ばれてきた紅茶にすら手をつけず、ただ義務をこなすためだけに、冷え切った瞳で目の前の席を見つめていた。
だが、扉が開き、今日のお見合い相手である令嬢が部屋に入ってきた瞬間――隼人の心臓が、ドクンと大きく跳ね上がった。
「初めまして、南条様。お目にかかれて光栄です」
おっとりとした上品な微笑み、少し伏せられた睫毛の陰影、そして柔らかく結ばれた唇。
それは、隼人が狂おしいほどに求め、今やどこを探しても見つけることのできない、あの「かすみ」の面影に驚くほどそっくりだった。
(かすみ……!?)
一瞬、幻覚を見ているのかと思った。おじさまの手によって完璧に隠され、長谷部家からも跡形もなく消え去ったはずの最愛の女性が、目の前に戻ってきたかのような錯覚。
もちろん、彼女はかすみではない。家柄の良い、どこかの名門の令嬢だ。しかし、その顔立ち、醸し出す儚げな雰囲気は、あまりにもかすみに酷似していた。
隼人は息をすることすら忘れ、吸い寄せられるようにその令嬢の顔をじっと見つめ続けた。
挨拶を返すことも、エスコートの言葉をかけることも忘れ、ただただ、失った極上の蜜の代わりを貪るように、無遠慮で、どこか狂気を孕んだ視線を彼女に突き刺す。
あまりにも露骨で、執拗なまでの視線。
静まり返った部屋の中で、じっと見つめられ続けた令嬢は、頬をかすかに赤らめながらも、戸惑いを隠せない様子で少し身を縮こまらせた。そして、きゅっと手を握りしめ、不思議そうに隼人の顔を覗き込んできた。
「あの……南条様? 先ほどから、ずいぶんと熱心に私をご覧になっていらっしゃいますけれど……」
令嬢は少し恥ずかしそうに、けれど純粋な疑問を口にする。
「……私、どなたか他の人に似ているのでしょうか?」
その声、言葉の響きまでもが、かつて南条の檻の中で怯えていたかすみの声を呼び起こす。
身代わりのように現れた、かすみにそっくりな令嬢。しかし、彼女がどれほど似ていようとも、本物のかすみは今、おじさまや海斗社長、そして貝森財閥の圧倒的な愛に包まれ、子供たちとおそろいの未来を笑顔で描いているのだ。
目の前の幻影に囚われ、歪んだ執着の目をさらにぎらつかせる隼人。
この「そっくりさん」の登場が、自滅の道を突き進む隼人の運命をさらに狂わせていく引き金になるとは、この時の彼はまだ気づいていなかった。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




