第9章:突撃!初めてのファミレス大騒動編【前編】
「……ここが、ファミリーレストラン……!」
自動ドアをくぐり、ソファー席に腰を下ろした納屋かすみは、胸の前で自由帳をぎゅっと抱きしめながら、キラキラと目を輝かせていた。
いつもなら背後にピタリと控えているはずの過保護な執事・誠の姿はない。「今日は絶対に納屋財閥には帰りませんわ!」という強い覚悟を胸に、かすみは目の前に広がる未知の世界を見つめていた。
「お嬢、本当に大丈夫なのかよ? 誠の野郎が今頃血眼になって捜してるんじゃねぇか?」
海斗がツブツブの瞳(?)に本気の心配をにじませながら、長ランの襟を小さく正した。
「心配ありませんわ、海斗さん。今日はお父様たちに私の本気を見せる日なのですもの。それより……あのカラフルな冊子は何かしら?」
「あ、これ? メニューだよ。かすみちゃん、何でも好きなの頼んでいいからね〜?」
拓人が首のヘッドホンを少しずらし、メニューを開いてかすみの前にそっと置いた。
そこには、きらきらと輝くハンバーグ、とろ〜りチーズのドリア、色鮮やかなパフェの写真が所狭しと並んでいる。かすみは思わず「まぁ……っ!」と口元を両手で押さえた。
「なんて美しくて、美味しそうなお料理の数々かしら……! 選びきれませんわ!」
「だろ!? よっしゃ、まずは約束通り、俺らがドリンクバーの神髄ってやつを教えてあげるよ!」
チャラ男コンビの大翔と凌駕が、待ってましたと言わんばかりに立ち上がった。
「かすみちゃん、ファミレスのドリンクバーってのはさ、ただの飲み物置き場じゃないんだ。このボタンを押すと、冷たい炭酸が魔法みたいにブワーッて出てくるわけ!」
「そうそう、しかも『カルピスとメロンソーダを混ぜる』みたいな、自分だけの最強オリジナル魔改造ドリンクも作れちゃうんだぜ!?」
「魔改造……!? 飲み物を混ぜ合わせるなんて、まるでお薬の調合のようですわ……! 行ってまいります!」
かすみは大翔と凌駕に優しくエスコートされながら、初めてドリンクバーのマシンの前へ。
おそるおそるガラスのコップを置き、メロンソーダのボタンを白手袋の指でポチッと押すと、鮮やかな緑色の液体がシュワシュワと勢いよく注がれた。「まぁぁっ! 楽しいですわ!」とはしゃぐかすみのピュアな姿に、大翔も凌駕も「可愛すぎて無理……」と胸を押さえて悶絶している。
かすみが特製の「メロンソーダ&カルピス」を嬉しそうに席へ持ち帰ると、いよいよお料理の注文タイムが始まった。
やってきた店員さんに、男子たちがそれぞれの個性を爆発させたお料理を頼んでいく。
「俺は漢らしく、1ポンドの鉄板ジューシービーフステーキ! ライスは大盛りだ!」(海斗)
「僕は無駄なカロリーを計算し、栄養バランスを考慮して、若鶏のグリル〜カポナータソース〜と彩りサラダを」(碧)
「あ、俺はね〜、マヨコーンピザと、デザートにチョコレートパフェ先出しで〜」(拓人)
三者三様の、まったく違うジャンルのお料理がテーブルの上にズラリと並んでいく。かすみは自分の前に運ばれてきた、熱々でチーズがグツグツと音を立てる「特製ミラノ風ドリア」をスプーンでそっとすくい、ふーふーと息を吹きかけた。
「皆様のお料理も、とっても個性的で美味しそうですわね! それでは……人生初のファミレスお料理、いただきますわ!」
かすみがドリアをパクリと口に運んだ瞬間、その濃厚なホワイトソースとチーズのハーモニーに、パッと顔が至福の笑顔に染まった。
お屋敷の高級料理とは違う、どこか温かくてジャンキーな美味しさに、かすみのドキドキは別の意味で最高潮に達するのだった。
しかしその頃、ファミレスのガラス窓の向こうの暗闇から、無数の不気味な赤い光(納屋財閥の監視ドローン)が、一斉にこのテーブルをロックオンしていることに、まだ誰も気づいていなかった――。
中編に続く




