第197章:失われた栄華と、男たちの現実逃避
かすみや子供たちが、溢れるほどの愛と富に包まれてきらめく夏休みの初日を過ごしているその頃――。
それとは完全に切り離された薄暗く、うらぶれた街の片隅で、かつてすべてを持っていたはずの二人の男が、惨めに膝を突き合わせていた。
南条隼人と、長谷部誠。
お互いに、かつては自分たちの手の中に閉じ込め、支配できると思い込んでいた「かすみ」という唯一無二の存在を完全に失った男たちだ。かつての傲慢な御曹司の威光も、完璧を誇った執事の気品も、今の二人からは見る影もなく消え失せていた。
特に誠の凋落は凄まじかった。
あれほど自信満々にマウンティングを仕掛けてきた高倉麗子との離婚は、あっさりと成立していた。用済みになれば容赦なく切り捨てる、それが麗子の冷徹さだった。実家の長谷部ホールディングスは完全に崩壊し、誠にはもう、戻る場所も、迎えてくれる家族も何一つ残されていなかった。
「おい、南条隼人……」
安物の酒をあおり、濁った瞳をした誠が、向かいに座る隼人に絡むように声をかけた。執事としての慇懃無礼な態度は消え失せ、そこにあるのはただの自暴自棄な男の姿だ。
「誰か、いい彼女でも紹介しろよ。お前、実家の圧迫で毎日お見合いさせられてるって噂を聞いたぞ? どうなんだよ、何か進展はあるのかよ」
隼人は不愉快そうに顔をしかめ、黙ってグラスを弄るだけで答えない。その無言の拒絶に、誠は鼻で笑い、自嘲気味に言葉を続けた。
「……ふん、どうせダメだろうね。お前みたいな独占欲の塊が、かすみ以外の女をまともに愛せるわけがない」
誠はグラスに残った酒を喉に流し込み、天井を見上げた。目を閉じれば、かつて自分の腕の中にいたかすみの温もりや、自分が裏切ったせいで冷遇してしまった凛と蓮の、幼い頃の泣き顔が浮かんできて胸が締め付けられる。だが、今の誠には、その過去の後悔と向き合う強さすら残っていなかった。
「なぁ、この誠も……何か新しい恋でもしようかな?」
ぽつりと呟いたその言葉は、誰に宛てたものでもない、惨めな現実逃避だった。
「だってさ……もう、凛と蓮には二度と会えないんだから。あの子たちの父親としての資格なんて、とうの昔に失っちまったんだからな……」
新しい恋をすれば、この胸に空いた底なしの虚しさが埋まるのではないか。そんな甘い幻想にしがみつかなければ、今すぐ正気を失ってしまいそうだった。
誠がどんなに新しい恋を夢見ようとも、隼人がどんなにお見合いを繰り返そうとも、彼らが二度とあの幸福な光の中に戻ることはできない。
すべてを失って路頭に迷い、惨めな愚痴をこぼし合うことしかできない男たちの夜は、かすみたちの輝かしい未来とはあまりにも対照的に、冷たく、暗く、どこまでも虚しく更けていくのだった。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




