第189章:病室の孤独、そして麗子の冷徹なる決断
けたたましいサイレンの音に揺られながら病院へと運び込まれた高倉麗子は、激しい痛みに耐え抜き、ついに新しい命をこの世に送り出した。
産室に響き渡ったのは、元気な産声だった。
「おめでとうございます、可愛い女の子ですよ」
助産師に抱き上げられた我が子を視界に収めた瞬間、麗子の目から熱い涙が溢れ出た。小さくて、本当に愛らしい、自分自身の血を分けた女の子。
だが、そんな奇跡のような感動の瞬間に限って、一番そばにいるべき夫の長谷部誠の姿はなかった。
「誠さん……どこにいるのよ……」
麗子は疲れ切った身体で、誰もいない隣の椅子を見つめ、ぽつりと呟いた。会社が倒産し、家族が崩壊したとはいえ、我が子の誕生の瞬間にすら立ち会おうとせず逃げ出した夫への怒りと、底知れない虚しさが胸を支配する。
胸に抱いた我が子の温もりを感じながら、麗子の心には「これからどうなるの?」という、言葉にならない不安が押し寄せていた。
しかし、麗子はただ泣き寝入りするような弱い女ではなかった。
誠が失踪し、長谷部家が破滅したこの最悪の状況の中で、彼女はすでに冷徹なまでの「決意」を固めていた。
(私は、実家に戻るわ――)
長谷部財閥の邸宅へ帰る気など、麗子には毛頭なかった。すでに倒産してしまった長谷部ホールディングスにしがみついていても、これからは借金と泥沼の生活が待っているだけで、何一つ良いことなどない。この子を守るためにも、もうあそこを頼るわけにはいかなかった。
そして何より、あの身勝手な義父母の存在が、麗子の決意を決定的なものにしていた。
(あの長谷部重光と玲子夫妻のことよ……。会社がダメになった腹いせに、誠さんの代わりに私を、そしてこの子をまた見下すに決まっているわ)
男の子ではなく女の子が生まれたことすら、あの二人なら「長谷部の跡取りにもならない」などと難癖をつけて、自分たちを執拗に責め立てる道具にするはずだ。おじさまの前であれほど醜く責任をなすりつけ合っていた冷酷な人間たちが、自分たちを温かく迎え入れるはずがない。
「もう、長谷部家には指一本触れさせない」
麗子は我が子を愛おしそうに抱きすくめながら、その瞳に強い光を宿した。夫に見捨てられ、婚家が破滅した絶望の夜。それでも麗子は、長谷部一族との完全な決別を選び、母として自らの足で歩き出す道を、冷酷に選択したのだった。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




