第8章:お嬢様の恋煩いと、納屋家の緊急家族会議!【前編】
青藍高校の学園祭から、一夜明けた次の日の朝。
納屋財閥のお屋敷にある、かすみのふかふかなベッドの中。かすみはシルクの掛け布団を胸まで引き上げ、天井を見つめながら、大きくて深い、お上品なため息をこぼしていた。
「はぁ……。拓人さんからのあのお告白……私、どうお返事すればいいのかしら……?」
目を閉じれば、きらめくイルミネーションの中で自分の手をぎゅっと握りしめ、「結婚を前提にお付き合いしてください」と真っ直ぐな瞳で告げてきた拓人の顔が鮮明に蘇る。思い出すだけで、かすみの顔はマジ卍で火炎放射器のように熱くなってしまう。
さらに、その後にかなり怒りながらやってきて「俺が一番最初に守ったんだ!」と顔を真っ赤にしていた海斗の不器用なステップも頭をよぎり、かすみの心臓は朝からドラムの連打のようにドキドキと鳴り響いて止まらなかった。
完全に恋の嵐に巻き込まれたかすみは、何とかドレスからお着替えを済ませ、トトト、と軽い足取りで大食堂へと向かった。
白亜の長いダイニングテーブルには、父・薫と、いつも優しく微笑む母・あけみが並んで優雅に朝食をとっていた。かすみは自分の席に座り、お上品にスープを一口口に運んだ後、意を決して二人の顔を見つめた。
「あの……お父様、お母様。……実は、昨日の青藍高校のダンスパーティーで、私、貝森拓人さんに告白されてしまいましたの」
「おや、それはかすみもモテモテだね。若い頃のあけみを思い出すよ」
薫お父様はトーストを齧りながら、まだ余裕の笑みを浮かべている。
しかし、かすみが頬を薔薇色に染めながら続けた次の言葉で、大食堂の空気は一瞬にして凍りついた。
「それが……ただの告白ではなくて、『結婚を前提にお付き合いしたい』って、とっても情熱的に言われてしまいましたの。……私、どうすればよろしいかしら?」
ブッッッーーーーーーーッッッッ!!!!!!!
薫お父様が、口に含んでいた最高級キリマンジャロコーヒーを、文字通り大噴水のように派手に吹き出した。
「け、けけけ、結婚前提だとォォォォォーーーーーッッ!!!!!??」
ガタアァン! と椅子を派手にひっくり返し、薫お父様はツブツブの瞳(?)をこれでもかと見開いて大パニックを起こす。
「貝森拓人……! ああのスーパールッツの貝森財閥の小僧か!? 泥臭い大衆スーパーの跡取りの分際で、我が納屋財閥の宝であるかすみにプロポーズなど1億年早すぎる!! 認めん、お父様は絶対に認めんぞ!!」
「まぁまぁ、あなた、落ち着いてくださいな。かすみちゃんがそれだけ素敵な男性に想われているなんて、私はとってもエモくて素晴らしいことだと思いますわよ?」
お母様のあけみは、コーヒーを浴びたテーブルをナプキンで優しく拭きながら、いつも通りウフフとマイペースに微笑んでいる。
「あけみ、君はのんきすぎる! かすみ、その男の手はお父様が国家権力で(以下略)」と、お父様が髪を振り乱して大騒ぎしている斜め後ろ――。
銀のトレイを握りしめた執事・誠が、前日からの嫉妬の業火が限界突破した結果、もはや表情が完全に般若のようになって直立不動で佇んでいた。誠のメガネの奥の瞳は完全にハイライトが消えており、いつでも貝森財閥を更地にするための書類を取り出せるよう、背後に怪しいオーラを漂わせている。
お嬢様の「普通の恋」は、ついに納屋財閥の家庭内をも揺るがす、史上最大の緊急家族会議へと発展していくのだった――!
中編に続く




