第153章:盗まれた夜〜壊れかけの自由な約束〜
夕暮れが海面をオレンジ色に染め上げる頃、子供たちの遊びも終わりを告げようとしていた。
しかし、凛と蓮は湊くんと百合くんの手を離そうとしない。四人の小さな手は、まるで離れたら二度と会えないと知っているかのように、ぎゅっと握り合っていた。
「ママ、ねえママ……」
蓮が私の服を引っ張った。その瞳には、初めて見るような強い輝きが宿っていた。
「今日ね、湊くんちにお泊まりしたい! ……明日も、ずっと一緒に遊びたいんだ」
凛も私の顔を覗き込み、キラキラした目で懇願する。
「いいでしょ? お勉強なんて今日はもうおしまいにして、ずっと一緒にいたいの!」
私の心臓が、キュッと音を立てて縮んだ。
「お泊まり」。その甘美な響きは、普通の子なら当たり前の日常。でも、南条家においてそれは「脱走」にも等しい大罪だ。隼人がこれを知ったら、どんな怒り狂うか……。想像しただけで、背筋に冷たい氷柱が突き刺さる。
でも。
目の前には、あやめさんと湊くん、百合くんの温かな笑顔がある。
そして、何より凛と蓮の、帝王学では決して見ることのできなかった「心からの笑顔」がある。
あやめさんは私の不安を見透かしたように、優しく微笑んでくれた。
「かすみさん、もしよかったら……。今夜、あの子たちを預かってもいいかしら? たまには、あなたも一人でゆっくり星でも眺めて、息抜きをしたらどう? 私たちが責任を持って、明日まで面倒を見るわ」
「あやめさん……」
私は迷った。
これを承諾すれば、私は今夜、一人で南条隼人の元へ戻らなければならない。子供たちがいないと知った隼人が、私をどう問い詰めるか。殺気立つ彼を、たった一人で受け止めなければならない。
でも、この子たちが一生味わえないかもしれない「友達との一夜」を、私が奪っていいはずがない。
私は深く息を吸い込み、震える唇で、小さく頷いた。
「……お願いしてもいいかしら? 一晩だけ。……本当に、一晩だけなら」
「やったー!」
子供たちの歓声が、波音にかき消されるように響いた。
彼らは私に抱きつき、そのまま湊くんたちと駆け出していく。
遠ざかるその背中を見送る私の手は、まだ少し震えていた。
この夜が明けた時、私たちはどんな運命と向き合うことになるのだろう。
子供たちの夢を奪うまいと決めた、母親としての小さな反逆。その代償がどれほど大きなものか、私はまだ知らないふりをして、ただ静かに星を見上げていた。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




