第152章:母の選択〜海辺で交わす、小さな本音〜
テラス席に置かれたティーカップから、ふわりとアールグレイの香りが立ち上る。
遠くで凛と蓮が、湊くんや百合ちゃんと一緒に、波打ち際で追いかけっこをしている。あの子たちのあどけない笑い声が、今の私には何よりも眩しく聞こえた。
私はカップを置くと、あやめさんの横顔をそっと見つめた。
「ねえ、あやめさん。……湊くんと百合ちゃんは、どんな感じなの?」
言葉を選びながら、私は努めて平静を装って聞いた。
「やっぱり……帝王学とか、学ばせているの?」
あやめさんは、子供たちの方を優しい眼差しで見つめたまま、少しだけ遠い目をした。
「……もちろん、学びはあるわ。いずれ彼らが背負うもののために、マナーや語学、それに歴史や経済の基礎くらいはね。必要最低限のことは教えているわ」
彼女は私の方を向き、穏やかな笑みを浮かべた。
「でもね、かすみさん。……あの子たちにとって、今は『思い出』を作る時期だと思っているの。どんなに立派な教養を身につけても、心が乾いてしまったら、人は王になれないでしょう?」
「心が……乾く」
その言葉が、私の胸に深く突き刺さった。
隼人が凛と蓮に強いているのは、まさにそれだ。感情を捨て、計算と論理だけで動く冷たい人形を作る教育。
あやめさんの言葉は、私が心のどこかでずっと叫んでいた「母親としての本音」そのものだった。
「かすみさんは、きっと頑張りすぎているのね。子供たちの瞳を見ればわかるわ。……あの子たちは、本当にお母さんのことが大好きなのね」
私は思わず、手に持っていたティーカップをソーサーに戻した。
あやめさんの言葉に、涙がこぼれそうになる。彼女には、隼人の非道なやり方など到底想像もつかないはずだ。それでも、彼女の「母親としての優しさ」が、私の張り詰めた糸を優しく緩めてくれる。
「……いいえ、私はただ……」
私は言葉を濁した。
この子たちを「南条の跡取り」として育てなければ、隼人はあの子たちを不要なものとして排除するかもしれない。あやめさんのような「愛ある教育」を選択する自由が、私にはない。
「いいえ。……凛と蓮には、強くあってほしいだけよ」
私はそう言って笑ってみせたけれど、心の中は嵐のように荒れ狂っていた。
私だって、あやめさんのように育てたかった。
でも、それが許されないのが「南条の母」としての私の宿命なのね。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




