第151章:潮風と秘密の逃避行〜束の間の夏休み〜
南条財閥の重厚な門を抜け、私たちは車を走らせていた。
隼人が仕事で屋敷を空けるわずかな隙を狙った、人生で初めての「母親としての逃避行」。
辿り着いたのは、穏やかな波音が聞こえる海辺だった。
海風が私の頬を撫でる。
これまで南条の屋敷で感じていた、息の詰まるような冷気とは違う、温かくて自由な風。
近くのカフェのテラス席で、私は凛と蓮に冷たいジュースを渡した。
「凛、蓮。今日は初めての旅行なんだよ」
そう微笑みかけると、二人は顔を見合わせ、堰を切ったように本音を漏らし始めた。
「お勉強、嫌い……」
「帰らなきゃダメ? もう少しここにいたいよぅ」
南条の書斎で毎日叩き込まれる、帝王学という名の英才教育。小さな彼らの肩には、あまりにも重すぎる荷物だ。駄々をこねて、私の服の裾をギュッと掴むその手には、抗えない運命から逃げ出したいという純粋な叫びが込められていた。
「大丈夫よ。今日は、お勉強のことなんて忘れましょう」
私が優しく抱きしめた、その時だった。
「あら、かすみさん?」
聞き覚えのある声に顔を上げると、そこには如月あやめさんの姿があった。彼女は二人の子供、湊くんと百合ちゃんの手を引いて、私たちに微笑みかけていた。
「偶然ね! こんなところで会うなんて」
あやめさんの優しい笑顔に、私は少しだけ肩の力が抜けるのを感じた。
湊くんと百合ちゃんは、すぐに凛と蓮に駆け寄った。
「ねえ、一緒に遊ぼう!」
あやめさんの子供たちが誘うと、凛と蓮の顔がパッと輝いた。
普段、隼人の監視下で孤独に英才教育を受ける二人には、同年代の友達と遊ぶという経験すら贅沢なものだったのだ。
「いい? 行ってきなさい」
私が送り出すと、四人はすぐに打ち解け、砂浜を駆け回って笑い声を上げた。
波打ち際で楽しそうに貝殻を探す子供たちを見つめながら、あやめさんが私の隣に座った。
「子供たち、すごく楽しそう。……お勉強のことは、少し忘れさせてあげたいわよね」
あやめさんの言葉に、私は深く頷いた。
隼人は知らない。この海辺のカフェで、彼らが「南条の跡継ぎ」ではなく、ただの無邪気な子供に戻っていることを。
この秘密の時間だけは、誰にも邪魔されたくない。私は、遠くで笑う凛と蓮を、ただ祈るような気持ちで見つめていた。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




