第149章:結婚の鐘と、小さな約束〜父なき子の証明〜
その日は、どこまでも抜けるような青空だった。
長谷部ホールディングスの御曹司・長谷部誠と、高倉家の令嬢・麗子の結婚式。日本中が祝福の鐘の音に包まれる中、私は納屋財閥の冷たい自室で、届いたばかりの小さな小箱を静かに開いた。
中に入っていたのは、繊細な細工が施された二つのベビーリング。
私が信頼を寄せている森野海斗社長に、密かに製作を依頼していたものだ。
「……やっと届いたのね」
私は小箱を抱きしめた。南条の跡継ぎとして、隼人から与えられた高級な品々とは違う。これは、私が母として、凛と蓮に贈る、最初の……そして最後の私だけの贈り物。
隼人から与えられた戸籍も、南条財閥の権威も、私にとっては空っぽなもの。
でも、この指輪だけは違う。誠さんと私の血を引いて生まれた、正真正銘、私たちの愛の証だから。
私は凛と蓮の小さな指に、そっと指輪を通してみた。
眠る双子の寝顔を見ていると、胸の奥で燻っていた悲しみが、静かに涙となって溢れてきた。
「……ねぇ、凛。蓮」
私は二人の柔らかな頬を撫でながら、震える声で語りかけた。
「大きくなったら、きっと聞くでしょう? お父様はどこにいるの、って」
誠さんが生きているのに、「いない」と教えなければならない。
それは、私たちがこの残酷な世界で生き抜くための、残酷な嘘。誠さんを長谷部家の人間として生かし、隼人の怒りから守るためには、誠さんが二人の父親であることを、永遠に歴史から消し去るしかなかった。
「その時は……お父様はいないのよ、と言うしかないのね」
本当はすぐ近くにいるのに。私たちを愛しているのに。
私の身勝手な決断で、この子たちから父親を奪い、誠さんから我が子を奪った。
遠くで、結婚式の賛美歌が聞こえるような気がした。
誠さんが、別の女性に永遠の愛を誓っている。
私は指輪をはめた二人の小さな手を、自分自身の胸にしっかりと押し当てた。この温もりだけが、私と誠さんが確かに愛し合ったという、たった一つの、誰にも見えない形ある証拠だった。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




