第145章:聖域からの決別〜母の犠牲、灰色の帰還〜
シャンデリアの光が、私の目にはあまりにも眩しすぎて、直視できなかった。
長谷部重光の冷徹な視線、玲子の蔑むような口元。ここには、私と子どもたちが安らげる場所なんて、最初からどこにもなかったのだ。
私は凛と蓮を抱き直した。二人の温もりが、今の私を繋ぎ止める唯一の命綱だった。
「……ねぇ。私、納屋財閥に戻るわ」
静まり返ったホールに、私の声が小さく響いた。誠さんが驚いたようにこちらを振り返り、私に駆け寄ろうとする。けれど、私は彼と私の間に、見えない壁を感じていた。
「ここに来てはいけないって、わかったから。……あなたたちを、長谷部ホールディングスの名に泥を塗るような存在にしたくはないの」
私の言葉に、玲子が冷ややかに笑う。
その笑みを見て、確信した。この広大な屋敷は、権力者たちの誇りを守るための城であって、私のような「異物」が踏み入れる場所ではなかったのだ。
「誠さん、ごめんなさい。……あなたを、これ以上困らせたくないの。だから、長谷部ホールディングスの敷居には、二度と足を踏み入れないわ」
誠さんが必死に何かを言おうと口を開くけれど、私は首を振った。
今ここで彼が私を追えば、彼は長谷部家での地位も、親との縁もすべて失う。それは、かすみである私には耐えられないことだった。
(……それに、考えたの)
私は目を伏せた。胸の奥が、氷のように冷たくなる。
誠さんと私の血を引いたこの子たちが、一生、追われる身でいるなんて。それならいっそ――。
「……まだ、南条隼人の子どもとして育てたほうがいいのかもね」
その言葉が、誠さんの顔を絶望で歪ませた。
南条の嫡子として育てば、少なくとも隼人はこの子たちを殺さない。財閥の跡継ぎとして、冷たい黄金の籠の中ではあっても、生き延びることはできるかもしれない。
私の愛情を捨て、この子たちに「南条の血」という偽りの鎧を着せる。それが、母である私が選ぶべき、たった一つの生存戦略なのかもしれない。
「さようなら、誠さん。……もう、私のことは忘れて」
私は重い足取りで、長谷部邸の巨大な門へと向かった。
後ろで誠さんが叫ぶ声が聞こえたような気がしたけれど、振り返ることはできなかった。振り返ってしまえば、私はきっと、二度とこの地獄のような覚悟を貫けないから。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




