第133章:這い寄る毒牙〜長谷部病院内の裏切り者〜
南条財閥の高層階。分厚い遮光カーテンが引かれた薄暗い重役室で、南条隼人の直属の部下が、革張りのソファに深く腰掛ける隼人に向かって恭しく頭を下げた。
「……かすみお嬢様、無事に子どもが産まれたそうですよ」
部下の報告に、男は手元のグラスの氷をカランと鳴らし、不気味に口角を歪めた。
「ああ。しかも『双子』だって聞いたかな? 隼人様もさぞお喜びになるだろう。我々にとっても、南条の血を引く強力な手駒が二つも増えたのだからな」
「ええ。ですが、これからどう動きますか? 噂では、長谷部ホールディングスが所有する、セキュリティが最も強固な特別療養病院に匿われているとのことですが……」
部下の懸念に、男は鼻で笑った。
長谷部誠という優秀な番犬が、愛する女と双子を守るために張り巡らせた絶対の安全圏。並の人間であれば、そのセキュリティの壁の分厚さに絶望し、手出しを諦めるだろう。
「案ずるな。長谷部の坊ちゃんは、自分が築き上げた『鉄壁の要塞』を過信しすぎている」
男はグラスをテーブルに置き、喉の奥で楽しげな笑い声を漏らした。
「どんなに外側の壁を厚くしようと、内側から鍵を開けられれば何の意味もない。……なんと、あの長谷部ホールディングスの病院内に、すでに我々の『スパイ』が潜り込んでいるのだからな」
「……スパイ、ですか?」
「ああ。かすみお嬢様のすぐそばで、白い衣を着て、あの親子の様子を逐一報告してくる優秀なネズミがな。先ほど、長谷部の極秘回線に非通知で電話をかけ、揺さぶりを入れられたのも、そのネズミの手引きによるものだ」
男の冷酷な声が、部屋の空気を一段と冷たく染め上げる。
南条隼人の執念は、すでに厚い壁をすり抜け、かすみたちのすぐ足元にまで這い寄っていた。
「さあ、狩りの準備を始めようか。あの完璧な執事・長谷部誠が、すべてを奪われて絶望に顔を歪める瞬間が……今から楽しみでならないよ」
134章に続く




