第132章:鳥かごの追跡者〜暴かれた番号と、震える悲痛
通話が切れ、ツーツーという無機質な電子音だけが一度鳴って、部屋は再び重苦しい静寂に包まれた。
誠さんは端末からゆっくりと耳を離し、画面を伏せるようにしてテーブルに置いた。その広い背中は、今まで見たことがないほど微かに強張っているように見えた。
「ねぇ、さっきの電話……誰だったの?」
私の震える声が、静寂を切り裂いた。
コットの中で安らかに眠る凛と蓮を、己の身体で覆い隠すように抱きしめたまま、私は彼にすがりつくように問い詰めた。
「まさか、隼人が……南条隼人なの……?」
誠さんはすぐには振り返らなかった。その沈黙が、私の恐怖を何倍にも膨れ上がらせた。
今までどんな絶望的な状況でも、真っ先に私を安心させる言葉をくれた彼が、言葉を濁している。それが意味する現実は、ひどく残酷なものに決まっている。
「誠さん……。お願い、誠、教えてよ!」
耐えきれずに悲鳴のように叫ぶと、誠さんはハッとしたように肩を震わせ、静かに私の方へと向き直った。その瞳には、私をこれ以上怯えさせたくないという痛切な思いと、底知れぬ焦燥が入り混じっていた。
「……声は、南条隼人本人ではありませんでした。ですが」
彼は一歩、私と双子のコットに近づき、絶対の盾となるようにその身を屈めた。
「間違いなく、南条の直属の部下です。『逃げ出した鳥の居場所は、遠からず割れる。大人しく持ち主の元へ返せ』と……それだけを告げて、一方的に切れました」
頭の中が真っ白になった。
あけみさんと薫さんが必死に目を逸らしてくれているはずなのに。この長谷部ホールディングスが誇る最高レベルのセキュリティに守られた回線に、すでにあの男の執念が到達している。
南条隼人は、私が逃げ出したことも、そしてもしかしたら……この腕の中に新しい命があることすらも、暗闇の中で冷たく見透かし、薄暗い笑みを浮かべているのかもしれない。
「いや……っ、嫌だ。この子たちは、凛と蓮だけは、絶対にあの男には渡さない……!」
恐怖でガタガタと震え出し、過呼吸を起こしかけた私を、誠さんは力強く、けれど壊れ物を扱うように優しく抱きしめた。
「かすみ様、落ち着いてください。奴らはまだ、この場所の完全な特定には至っていません。ただの揺さぶりです」
背中に回された彼の大きく温かい手と、耳元で響く誓いのような低い声だけが、暗闇に沈みそうな私の唯一の命綱だった。
133章に続く




