第131章:不吉な着信〜安全圏を侵す見えない恐怖〜
静まり返った特別療養室に、突如として無機質な電子音が鳴り響いた。
ピリリ、ピリリ――。
心臓がドクンと激しく跳ね上がる。それは、長谷部ホールディングスが極秘に手配した、絶対に安全なはずの私の専用端末からの着信音だった。
震える手で画面を見ると、そこに表示されていたのは見覚えのない「非通知」の文字。
あけみさんや薫さんからの連絡であれば、設定された偽装名が表示されるはずだ。こんな正体不明の着信が、強固なセキュリティに守られたこの回線に届くはずがない。
「……っ」
恐怖で全身の血の気が引き、私は咄嗟にベッドの傍らに立つ彼を見上げた。
「ねぇ、誠さん……誰か、わかる? やたらと出たらまずいよね……?」
声が震えてしまうのを止められなかった。コットの中で眠る凛と蓮を庇うように、無意識に両手で覆い隠す。
もしこれが、南条隼人の手の者だとしたら。あの執念深く恐ろしい支配者が、すでにこの場所のシッポを掴みかけているとしたら――。
誠さんの顔から、先ほどまでの穏やかな表情が完全に消え失せていた。
その瞳は氷のように冷たく研ぎ澄まされ、私を守る絶対の「盾」としての鋭く危険な光を放っている。
「……かすみ様は、そのまま双子のお子様から離れないでください。私が対応します」
誠さんは私の手から静かに端末を受け取ると、画面を鋭く睨みつけた。
彼の大きく頼もしい背中を見つめながら、私は息を殺して祈るしかなかった。どうか、あの男ではありませんように、と。
誠さんの長く美しい指が、一切の躊躇なく通話ボタンを押した。
「……はい」
静寂に包まれた部屋の中で、誠さんの低く冷ややかな声だけが響く。
電話の向こうの相手を探るように、彼は数秒間沈黙した。そして、微かに眉根を寄せ、声のトーンをさらに一段階、地を這うような低さへと落とした。
「――何の用だ。ここは貴様が軽々しく踏み込んでいい領域ではない」
その底知れぬ怒りを孕んだ誠さんの声に、私の背筋にゾクリと悪寒が走った。
132章に続く




