第130章:凛と蓮〜呪縛の名と、秘密の共有〜
白く柔らかなコットの中で、二つの小さな命が身を寄せ合うようにして静かな寝息を立てている。
触れれば壊れてしまいそうなほど小さなその手をそっと握ると、確かな温もりと脈立ちが、私の指先を通して心臓へと伝わってきた。
「……そうだ。名前、つけてあげなきゃね」
私は、ベッドの傍らに静かに立つ彼を見上げた。
どんな時でも私の盾となり、すべてを投げ打ってこの絶対的な安全圏を守り抜いてくれている、長谷部誠。私の、たった一人の騎士。
「南条凛と、南条蓮……どうかな?」
口に出した瞬間、心臓がチクリと痛んだ。
【南条】。私を鳥かごに閉じ込め、すべてを支配しようとしたあの男、南条隼人の姓。
憎くて、恐ろしくて、逃げ出したくてたまらなかった男の血が、この子たちには確実に流れている。南条の戸籍に入らなければ、この子たちが一生日陰の存在として生きていくことになってしまう。だからこその、痛みを伴う決断だった。
「男の子が蓮で、女の子は凛なの。……泥の中でも強く気高く咲くように。どんな運命にも、凛と立ち向かっていけるように」
私の震える声に、誠さんは悲しげに目を伏せ、けれどすぐに力強く頷いてくれた。
「……素晴らしいお名前です。蓮坊っちゃまも、凛お嬢様も、かすみ様の強さと優しさを受け継いだ、素晴らしいお子様に育つことでしょう」
その言葉に少しだけ救われた気がして、私は小さく息を吐き出した。そして、ずっと気になっていた一番重要なことを彼に尋ねた。
「ねえ、誠さん。あけみさんと、薫さんには話したの? 私が、ここで極秘で出産したこと……」
南条財閥の強大な監視網を掻いくぐり、私を助けてくれる数少ない味方。
誠さんは静かに一歩前に出ると、私の不安を拭い去るように、優しく確かな声で告げた。
「はい。先ほど、お二人のみが知る極秘の回線を通じて、無事にご出産された旨をお伝えいたしました。あけみ様も薫様も、涙を流して喜んでおいででしたよ」
「そう……よかった……っ」
「お二人は『今はとにかく、かすみと双子の安全が第一。南条隼人の目はこちらで全力で誤魔化すから、安心して身を隠しなさい』と仰っていました。……南条の耳には、決して入れさせません」
誠さんの頼もしい言葉と、あけみさんたちの愛情に触れ、張り詰めていた糸がふっと緩んだ。
けれど、窓の外に広がる黒々とした夜の闇が、まるで南条隼人の冷酷な瞳のように私を見下ろしている気がして、私は無意識に、コットの上の凛と蓮を庇うように手を伸ばしていた。
131章に続く




