第129章:産声と双子〜忍び寄る絶対者の影〜
「オギャア、オギャア……!」
白く清潔な分娩室に、新しく力強い命の産声が響き渡った。
全身の力が抜け、霞む視界の中で、私はその愛おしい声を聞いた。一つじゃない。二つの小さな、だけど確かな命の響き。
「かすみ様、おめでとうございます。元気な男の子と、女の子の双子ですよ」
医療スタッフの声と共に、ふんわりとしたタオルに包まれた二つの小さな塊が、私の胸元にそっと抱かされる。
まだ赤くてシワシワで、懸命に泣き声を上げている二人の天使。
「あぁ……っ」
嬉しい。ただ、ひたすらに嬉しかった。
私の子供。私のお腹の中で育ち、今日こうして無事に生まれてきてくれた奇跡。温かい涙が頬を伝い、ボロボロとシーツを濡らしていく。
「かすみ様、よく頑張りましたね。本当に……本当にお疲れ様でした」
ずっと私の手を握り続けてくれていた誠さんが、潤んだ瞳で優しく微笑みかけてくれた。彼の大きく温かい手に包まれ、私はこの上ない幸福と安堵に浸っていた。
――しかし、その幸せなまどろみは、すぐに黒い恐怖によって塗り潰された。
(男の子と、女の子の双子……)
南条の血を引く、新たな命。しかもそのうちの一人は、強大な財閥の跡取りとなり得る男の子だ。
全身の血の気がサッと引いていくのを感じた。胸に抱いた二つの温もりを、思わずギュッと抱きしめる。
あの男が、南条隼人が、自分の血を分けたこの双子を、しかも跡取りの男児を手放すはずがない。
私が出産した事実を知れば、彼はどんな冷酷な手段を使ってでも、私の腕からこの子たちを奪い取りに来るだろう。あの独占欲に満ちた暗い瞳で、「俺の子供だ」と冷酷に言い放ちながら。
「かすみ様……? いかがなさいましたか、お顔の色が……」
異変に気付いた誠さんが、心配そうに顔を覗き込む。
私は震える唇を噛み締め、すがるように彼を見上げた。
「誠さん……っ。隼人が……南条隼人が、きっとこの子たちを引き取ると言い出すわ。奪われてしまう……っ、どうしよう、誠さん……!」
生まれたばかりの我が子を、絶対にあの鳥かごには戻させない。
強烈な母性と、南条隼人という絶対的な支配者への恐怖が、私の心を激しくかき乱していた。
130章に続く




