第125章:繋がる記憶〜幼き日の約束と、執事の正体〜
長谷部総合病院のVIP専用病室。
ふかふかのソファに腰を下ろした私は、向かいに立つ誠さんを真っ直ぐに見つめた。
「ねぇ、誠さん。さっきもお願いしたけれど……この子供のことは、絶対に南条隼人に言わないでほしいの」
私がお腹にそっと手を当てて懇願すると、誠さんは静かに頷いた。
「ええ。承知しております」
「あの病室での寝言を隼人が鵜呑みにすれば、きっと私を問い詰めてくるわ。誰の子供なんだって……疑われて、この子まで憎まれたら、私……」
恐怖で肩を震わせる私を安心させるように、誠さんは温かい紅茶を淹れてテーブルに置いた。
その優雅で洗練された所作は、南条家の執事としての彼と何も変わらない。けれど、彼が『長谷部ホールディングス』の御曹司であるという事実を知った今、私の頭の中にはいくつもの疑問が渦巻いていた。
「ねぇ、誠さん。教えてよ」
私は紅茶のカップを両手で包み込みながら、ずっと胸につかえていた疑問を口にした。
「どうして、長谷部の御曹司であるあなたが、南条家で執事なんてしているの? ……それに」
ふと、記憶の糸が過去へと繋がる。
南条家に嫁ぐ前、私がまだサファリア女学院に通っていた頃。いや、もっと前。青藍高校の交流会よりも、さらにずっと幼かった頃の記憶。
「私が幼い頃……あなた、納屋財閥の屋敷にいたわよね?」
私の言葉に、誠さんはピタリと動きを止めた。
いつも感情を完璧に隠している彼の瞳が、ほんの少しだけ、大きく揺らいだように見えた。
「……ご記憶に、ありましたか」
誠さんは短く息を吐くと、窓の外の青空へと視線を移した。
その横顔は、冷徹な執事のものでも、巨大グループの御曹司のものでもない。どこか懐かしむような、ひどく優しい顔だった。
「私が長谷部の名を隠し、南条隼人の下へ潜り込んだ理由。……そして、私がずっと昔から、あなたの傍にいた理由。すべてをお話しする時が来たようですね」
誠さんがゆっくりと私に向き直る。
隠され続けてきた彼の『本当の目的』と、私と彼を繋ぐ過去の記憶の扉が、今、静かに開かれようとしていた。
126章に続く




