第124章:支配者の弱音と交流会の記憶〜男たちの密談〜
深夜の高級ラウンジ。
VIP専用の個室に漂う紫煙と、グラスの中で氷が溶ける微かな音だけが響いていた。
俺の向かいのソファには、早瀬ホールディングス社長、早瀬碧が優雅に脚を組み、琥珀色の液体を傾けている。
納屋かすみが本邸から姿を消し、あけみ達が匿っていたはずの別荘からも忽然と姿を消した。
長谷部をはじめとする裏のルートまで徹底的に探らせているが、まるで煙のように足取りが掴めない。俺の妻だというのに、俺の権力がまったく届かない場所に彼女は隠れてしまった。
苛立ちと、胸の奥を抉られるような喪失感。
俺はグラスの酒を一気に煽り、目の前で静かに微笑む男を睨みつけた。
「……早瀬。お前、確か高校の時からあいつと知り合いだったそうだな」
「ええ。彼女とは、古い縁がありましてね」
早瀬は銀縁メガネの奥で目を細め、余裕の笑みを崩さない。
「俺の記憶が正しければ、お前が通っていた『青藍高校』は男子校で、かすみは『サファリア女学院』だったはずだ。どこで接点があった?」
俺の問いかけに、早瀬はふっと楽しげに口角を上げた。
「サファリア女学院と青藍高校……由緒正しき両校の生徒同士が親睦を深めるための、特別な『交流会』ですよ。そこで、私は彼女と出会ったんです」
交流会。お嬢様学校と男子校の、限られた特権階級だけが参加を許される閉鎖的な空間。
俺の知らないかすみの少女時代。その異常な青春の一部を共有しているこの男に、俺はどこか薄暗い嫉妬を感じずにはいられなかった。
「……なぁ、早瀬」
気がつけば、俺は柄にもなく自嘲気味な笑みをこぼしていた。
「かすみはどうしたら、俺に心を開いてくれるんだ? ……教えてほしいですよ」
「南条社長……?」
早瀬が少しだけ意外そうに眉を動かす。
無理もない。南条財閥の当主である俺が、他人に頭を下げて女の扱いを聞くなど、異常なことだ。
だが、権力で縛り付け、金でどれだけ着飾らせても、彼女の心だけはどうしても手に入らない。彼女が逃げれば逃げるほど、俺は狂いそうなほど彼女を求めてしまうのだ。
「ほんと……こんなこと、他の人間には絶対に言いませんけどね」
俺はテーブルに身を乗り出し、真っ直ぐに早瀬の目を射抜いた。
「早瀬碧さん。……あんたも、かすみのことが好きなんですか?」
支配者としての仮面を捨て去り、ただ一人の女に狂わされた男としての、むき出しの問いかけ。
個室の空気が、一瞬にして冷たく張り詰めた。
早瀬はグラスをゆっくりとテーブルに置くと、その知的な瞳の奥に、ぞっとするような暗い炎を
125章に続く




