第123章:明かされた素顔〜長谷部の御曹司と、絶対安全な揺りかご〜
別荘での静かな夜が明け、柔らかな朝の光が差し込む頃。
私は身支度を整え、誠さんの運転する車で山を下りていた。
「今日は、病院で検査を受けていただきます。……お腹の赤ちゃんの状態を、正確に把握しておく必要がありますから」
「うん、ありがとう。でも、南条や早瀬の息がかかっていない病院なんて……」
「ご安心ください」
誠さんはハンドルを握りながら、バックミラー越しにふっと穏やかな笑みを浮かべた。
「これから向かうのは、長谷部ホールディングス系列の総合病院です。そこの特別VIP病棟を貸し切りましたので、情報が外に漏れることは100%あり得ません」
「……えっ、貸し切り?」
総合病院のVIP病棟を丸ごと貸し切るなんて、いくら誠さんが南条の執事として有能でも、個人の権限でできるレベルを遥かに超えている。
戸惑う私を見て、誠さんは少しだけ申し訳なさそうに目を伏せた。
「……申し遅れました、かすみ様。私のフルネームは、『長谷部 誠』と申します」
「長谷部……」
その名前に、私はハッと息を呑んだ。
長谷部ホールディングス。南条財閥すらも容易には手出しできない、この国の経済を牛耳る巨大グループの一つ。
「嘘……じゃあ、誠さんは……」
「ええ。長谷部一族の人間です。……なぜ私が身分を隠し、南条隼人の下で執事として潜り込んでいたのか。その理由は、また後日ゆっくりとお話しいたします。今はただ、私が持つすべての力を使って、あなたと赤ちゃんをお守りすることだけを信じてください」
南条家の完璧な執事は、長谷部の御曹司だった。
あまりの衝撃に言葉を失っている間に、車は巨大な要塞のような長谷部総合病院の地下専用エントランスへと滑り込んだ。
そこから先は、まさに「長谷部グループの威信」を見せつけられるような光景だった。
院長をはじめとするトップクラスの医療チームがずらりと並んで私を出迎え、一般の患者とは完全に隔離された超豪華なVIP専用フロアへと案内される。
最新鋭のエコー検査室。
モニターに映し出された、小さな小さな命の鼓動。
「……順調ですよ。とても元気な赤ちゃんです」という医師の言葉に、私はポロポロと安堵の涙をこぼした。
診察を終え、最高級の調度品で揃えられた控え室に戻ると、誠さんが温かいハーブティーを差し出してくれた。
「……誠さん」
カップを受け取りながら、私は彼の顔を見上げた。
執事としての冷たい仮面を脱ぎ捨てた彼の表情は、とても優しく、そして底知れぬほど頼もしかった。
「本当に……ありがとう。私、今すごく安心してる」
「勿体なきお言葉です。……かすみ様が心穏やかに過ごせるなら、私はこの長谷部の名も、これまでのすべてを懸ける覚悟はできておりますから」
そう言って微笑む長谷部誠という男の底知れぬ愛情に、私はただ深く、温かい感謝を抱きしめていた。
124章に続く




