第115章:止まらない貢ぎ物〜南条家の刺客と優雅な偵察〜
納屋財閥の屋敷に身を寄せてから、数日が経った。
絶対に安静にするという条件付きで、私は静かで穏やかな時間を……過ごせるはずだった。
「かすみ様。本日も、南条様からお品物が届いております」
控えめなノックと共に客間に入ってきたメイドが、恭しくワゴンを押してくる。
その上に山のように積まれているのは、見ただけで目が眩みそうな高級ブランドの箱の数々だった。
「はぁ……今日は何なの?」
私がため息まじりに尋ねると、メイドは一番大きなベルベットの箱を開けた。
「本日は、森野海斗社長のブランドの新作ジュエリー一式でございます。南条様から、『屋敷で退屈しているだろうから、好きに選べ』との伝言を承っております」
「……あの人、本気なの?」
煌びやかな宝石の輝きに、私は頭痛を覚えてこめかみを押さえた。
私が納屋邸に戻ってからというもの、毎日のように南条隼人から常軌を逸した量のプレゼントが送られてくるのだ。昨日は最高級のシルクのドレス数十着、その前は予約が数年待ちのショコラティエのスイーツの山。
(ねぇ、誰か教えてあげてよ。そんなプレゼント、贈らなくても大丈夫だって……)
彼なりの気遣いなのか、それとも所有物を繋ぎ止めるための執着なのか。相変わらず、彼の考えていることは極端すぎて疲れてしまう。私のお腹には今、ひっそりと彼との子供が息づいているというのに。
私がジュエリーの箱をそっと閉じさせた、その時だった。
「かすみ様! 申し訳ございません、急なお客様が……!」
別のメイドが血相を変えて部屋に飛び込んできた。
納屋の屋敷に、アポ無しで乗り込んでくるような無礼な客など限られている。嫌な予感がして立ち上がった私の耳に、よく通る華やかな声が届いた。
「ごきげんよう、かすみさん! 急にごめんなさいね。どうしてもあなたとお茶会がしたくて、来ちゃったわ」
「虎之介さんに、可憐さん……」
部屋に優雅な足取りで入ってきたのは、南条家の身内である南条虎之介と、その妻である可憐だった。
二人はにこやかな笑みを浮かべているが、その目は部屋の隅々や私の顔色を鋭く観察しているように見える。
(……お茶会なんて嘘だ。絶対に、隼人から様子を見てこいって言われて来たんだわ)
南条の強大な力は、私が逃げ込んだこの安全な鳥かごにまで、確実に手を伸ばしてきていた。
私は自分の下腹部を庇うようにそっと手を当てながら、完璧な「南条の妻」の笑みを貼り付けて二人を迎え入れた。
116章に続く




