第113章:絶対零度の尋問〜支配者の怒りと、最悪の気づき〜
「……おい、かすみ。起きろ」
凍りつくような冷たい声に、私はビクッと肩を震わせて完全に目を覚ました。
ベッドを見下ろしているのは、怒りで周囲の空気ごと凍らせてしまいそうな夫、南条隼人だった。
普段の余裕ある笑みは見る影もなく、その瞳にはプライドを傷つけられた支配者としてのドス黒い怒りが渦巻いている。
「かすみ、さっきの発言はなんだ。答えろ」
低く、地を這うような声。逃げ場を塞ぐように、隼人はベッドの柵を強く掴んだ。
「百合……? パパ……? 俺の知らないところで、お前はいったい誰の夢を見ていた?」
「ち、違うの、隼人……これは……っ!」
必死に言い訳を探そうとシーツを握りしめた私の耳に、今度は冷徹な執事の声が届いた。
「奥様。私もお聞きしたい。……あの寝言は、いったい何ですか?」
誠さんの声もまた、普段の冷静さを失い、微かに震えていた。彼にとっても、私が隼人以外の「別の男」を想っているなど、到底見過ごせるものではないのだろう。
二人の男が放つ強烈な圧と疑惑の視線に晒され、私はパニックで息ができなくなりそうだった。
どうしよう。拓人との架空の未来を夢に見ていただなんて、絶対に言えるわけがない。
その時――。
(あっ……)
私の脳裏に、先ほど医師が告げた『産婦人科』という言葉がフラッシュバックした。
そして、朦朧とする意識の中で聞いた、もう一つの決定的な言葉がパズルのピースのようにカチリとハマる。
『――おめでとうございます。奥様、お子さんができていますよ』
そうだ。私……子供ができたんだ。
あの激しい吐き気も、すべてはそのためだったのだ。
(嘘でしょ……この状況で……!?)
目の前には、「俺以外の男の子供がいるのか」と今にも爆発しそうな夫。そして冷たい目を向ける執事。
もし今、「私、子供ができました」なんて口にしたら。
間違いなく、この男たちは「パパ」と呼ばれた謎の男の子供だと勘違いする。
最悪のタイミングで思い至ってしまった真実に、私は全身の血の気が引いていくのを感じていた。
114章に続く




