第111章:朝の異変〜告げられる現実〜
翌朝。
窓から差し込む柔らかな朝日で目を覚ました途端、私はかつてないほどの激しい吐き気に襲われた。
「う、くっ……!」
口元を両手で強く覆う。胃の奥底を直接鷲掴みにされて、乱暴に裏返されるような強烈な不快感。
昨日の料亭の化粧室で感じたものとは、比べ物にならないほど重く、ひどい吐き気だった。
胸焼けと眩暈が同時に押し寄せ、ベッドから起き上がることすらできない。
(なに、これ……。気持ち悪い……っ)
私は冷や汗を滲ませながらシーツを強く握りしめ、震える指先でベッドサイドのナースコールを力任せに押し込んだ。
「……っ、先生……! 来て、ください……!」
インター越しに掠れた声で絞り出すと、すぐに廊下から慌ただしい足音が病室へと近づいてくるのが聞こえた。
「奥様! いかがなさいましたか!」
バンッ、と勢いよくドアが開き、昨日私を診察してくれた医師と看護師が駆け込んでくる。
「吐き気が……ひどくて……。ただの過労じゃ、ないんですか……?」
荒い息を吐きながら訴える私を見て、医師は素早く脈と顔色を確認した。
そして、ふと何かを察したように動きを止め、カルテへと視線を落として少しだけ表情を険しくした。
「……奥様」
「は、はい……」
「昨日の血液検査の結果も踏まえまして……念のため、さらに詳しい検査をさせていただいてもよろしいでしょうか。産婦人科の領域も含めて、です」
――産婦人科。
その単語が静かな病室に響いた瞬間、私の心臓がドクンッと嫌な音を立てて大きく跳ねた。
ただのストレスや過労ではない。医師のその目が、無言で残酷な可能性を告げている。
自分が今、誰の妻であり、どのような状況に置かれているのか。その重すぎる現実がフラッシュバックし、私は得体の知れない恐怖に全身が粟立つ思いだった。
112章に続く




