第104章:仮面のインテリ〜会食の席で明かされる、残酷な偶然〜
朝から体調が優れないまま、私は社長秘書として、南条社長と執事の誠さんと共に高級料亭の個室に控えていた。
向かいの席に座るのは、今日の会食相手である早瀬ホールディングスの次期社長――早瀬碧だ。
「南条社長。本日はお時間をいただき、光栄です」
知的で穏やかな笑みを浮かべる早瀬くんは、青藍高校時代からちっとも変わっていないメガネのインテリ男子だ。
和やかにビジネスの会話が進む中、早瀬くんがふと、世間話のように口を開いた。
「そういえば、先日うちのホールディングスで、海が見える丘に新しいコンセプトカフェをプロデュースしましてね。これがなかなか好評なんですよ」
「ほう。海が見える丘、ですか」
南条社長が、ワイングラスを傾けながら興味なさそうに相槌を打つ。
「ええ。店長を任せているのが、偶然にも私やかすみちゃんの高校時代の同級生でして。……如月あやめさん、というのですが」
ピクッ、と。
私の肩が大きく跳ねた。如月、あやめ……?
「彼女、同じく同級生だった貝森拓人と結婚しましてね。可愛い男の子も生まれて、夫婦水入らずで仲良くカフェを切り盛りしてくれているんです」
――ドクンッ、と。
心臓が、嫌な音を立てた。
(拓人が……結婚……? 子供……?)
「へえ、それは微笑ましい話だ。なぁ、かすみ?」
南条社長が、意地悪く私の顔を覗き込んでくる。
「……っ」
朝から続いていた吐き気が、一気にせり上がってきた。目の前がぐらぐらと揺れる。
拓人が、如月さんと結婚していた。子供もいる。だからあの時、彼は「親戚の子供だ」と私に嘘をついたのだ。今の自分の家族を守るために。
(どうして……どうして、そんなこと……)
私がテーブルの下で震える手を強く握りしめていると、早瀬くんとスッと目が合った。
レンズの奥の瞳は、昔と変わらず優しく穏やかに……私を見て、微笑んでいた。
「かすみちゃん? 顔色が悪いけれど……大丈夫?」
彼が心配そうに声をかけてくる。
私はまだ、何も知らなかった。
目の前で優しく微笑む彼が、拓人たちのカフェの出資者であり、すべてを知った上で私に嘘をつき、あの丘へ誘導した「本当の黒幕」だということに。
とうとう黒幕が登場しましたね。まさかかすみちゃんが好きだった早瀬碧です




