第101章:海辺のカフェと純白の嘘〜彼が彼女を忘れた日々〜
納屋かすみがサファリア女子大を卒業し、水面下で南条隼人との縁談が進められていた頃。
貝森拓人は、海が見える小高い丘の町で、一人静かに暮らしていた。
(かすみちゃん……元気かな)
風の噂で、彼女が南条隼人と付き合っているという話は耳にしていた。
「……そうだよね。もう、かなり年月も経ったもんね」
喪失感を紛らわすように、散歩の途中で見つけた綺麗なカフェにふらりと足を踏み入れる。
「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ」
そこにいたのは、如月あやめ。かつてかすみを目の敵にし、権力を振りかざしていたあの高飛車な令嬢だった。しかし、如月財閥は破綻し、父親も秘書も失った彼女の中に残っていたのは、「海が好きだから、お店を開きたいな」という純粋な気持ちだけだった。
「あの……近所に住んでいるの?」
他愛もない会話が弾み、すべてを失いゼロから前を向くあやめの健気な姿に、拓人はいつしか強く惹かれていった。
二人はお付き合いを始め、とてもシンプルな結婚式を挙げた。あやめと一緒にいると、拓人はかすみへの切ない想いを忘れることができた。
やがて、二人の間に男の子が生まれた。
「名前は、『湊』にしよう。あやめが、海が好きって言ってたから」
それが、貝森拓人が見つけた、何よりも大切で守るべき幸せだった。
102章に続く




