第100章:給湯室の告白〜彼が嘘をついた理由〜
南条隼人の秘書としての業務は、息が詰まるような緊張感の連続だった。
ただでさえ心が死んでいるのに、幸せそうな夫婦たちを見せつけられたことで、私の心身は完全に限界を迎えていた。
体調が優れず、私は逃げ込むように給湯室の冷たい壁に寄りかかっていた。
目の前には、私を心配して追いかけてきてくれた執事の誠がいる。
彼の顔を見た瞬間、もう強がる余裕なんて1ミリも残っていなかった。
「ねえ、誠……」
私は、ずっと胸の奥に閉じ込めていた真っ黒な絶望を、ポツリポツリと吐き出し始めた。
「私ね……貝森拓人と如月あやめが結婚して、子供がいたのを知ってしまったの」
誠の目が、わずかに見開かれる。
「男の子だった。拓人の顔にそっくりで……『湊』って呼ばれてたよ。無邪気で、本当に……子供、かわいかったよ……」
思い出すだけで、胸が刃物でえぐられるように痛い。堪えきれなくなった涙が、ぽろぽろと零れ落ちた。
「でもね、一番ショックだったのは……拓人が私の顔を見た瞬間、『親戚の子供なんだ』って言ったことなの」
震える両手で顔を覆い、私は泣き崩れた。
結婚していたことよりも、子供がいたことよりも。私の前で、あんな情けない嘘で事実を隠そうとしたことが、私の心を何よりも深く、残酷に殺したのだ。
「ねぇ、誠……どうして? どうして拓人は、あんな嘘をつくの……?」
その悲痛な問いかけに、誠は何も言わず、ただ痛ましそうに私を見つめていた。
101章に続く




