第99章:鳥かごの秘書と無自覚な幸福〜誠へのSOS〜
次の日。
私は南条財閥の社長室のすぐ外にある秘書デスクで、パソコンの画面を見つめていた。
昨日、愛のない結婚式を挙げたばかりだというのに、南条隼人の妻となった私は、宣言通り「彼の秘書」としてこの場所に座らされている。逃げ場は、どこにもなかった。
そこへ、社長室を訪ねてきた来客の声が響いた。
納屋あけみと森野薫夫妻、そして南条虎之介と可憐夫妻だ。
「かすみちゃん、なんだかすごく顔色悪いけど……ちゃんとご飯食べているの?」
心配そうに覗き込んでくるあけみの言葉に、私は無理やり愛想笑いを浮かべた。
「私達みたいに、結婚してもずっと恋人同士みたいな感じじゃなきゃだめよ?」
そう言って、あけみは薫のほっぺに、可憐も虎之介のほっぺに、それぞれ「チュッ」と可愛らしくキスをして微笑み合っている。
幸せそのものといった二組の夫婦の姿。それは、完全に心が死んでしまった今の私にとって、目を背けたくなるほど残酷で、まぶしすぎる光だった。
(隼人さんは……一体、何を考えているの?)
社長室の奥で冷徹に仕事を進める彼の横顔を見ても、その真意は全く読めない。私を妻にし、秘書として縛り付けながら、まるで感情のない機械のように私を扱っている。
胸が息苦しくなり、私は「少し席を外します」とだけ告げて、逃げるように給湯室へ向かった。
そこには、南条家に仕える執事の誠がいた。
彼に会った瞬間、ずっと張り詰めていた緊張の糸がプツリと切れ、私はすがるように彼の袖を掴んでいた。
「ねえ、誠……」
絞り出した声は、自分でも驚くほど震えていた。
「私……このままだと、無理だよ。心が、壊れちゃう……」
無言で私を見下ろす誠の瞳に、私のボロボロになった姿が映っていた。
100章に続く




