第95章:消された痕跡と、執事へのすがり〜真実を教えて〜
南条隼人が静かに部屋から出ていってから、私の胸はずっとギリギリと締め付けられるように苦しかった。
『貝森拓人は結婚してるよ』
その言葉が、呪いのように頭の中で何度もリフレインする。
拓人が、結婚した……?
本当なの? ねぇ、嘘だと言ってよ。あんなに優しく笑いかけてくれた拓人が、私以外の誰かと家族になっているなんて。そんなこと、絶対に信じられない。
翌日。私は震える指でスマートフォンを握りしめ、ベッドの中で検索画面を開いた。
『貝森財閥』
『貝森拓人』
キーワードを入力し、すがるような思いで検索ボタンを押す。
けれど――。
「……えっ? どういう、こと……?」
何度リロードしても、何度検索ワードを変えても、全く出てこない。
日本でも有数の名門であったはずの貝森財閥の企業情報も、拓人の名前が載っていたはずの過去の記事やSNSの痕跡も。何もかもが、不自然なほど綺麗に消し去られていた。
まるで、最初から『貝森拓人』という人間なんて、この世界に存在しなかったかのように。
背筋に、氷のような悪寒が走る。
南条隼人は、単に彼らを追い詰めただけじゃない。社会的な痕跡ごと、この世界から『消去』したのだ。
私は恐怖でガタガタと震える身体を引きずり、部屋に静かに控えていた執事の誠の元へ駆け寄った。
「ねぇ、誠……!」
冷たい無表情で佇む誠の腕を両手で強く掴み、私は必死に叫んだ。
「何か知ってるんでしょ!? あいつが……南条隼人が、何を考えているのか教えてよ……! 拓人は、貝森家は、一体どうなっちゃったの!?」
私の悲痛な叫びが、静まり返った豪奢な部屋に空しく響き渡った。
96章に続く




