第94章:暴かれた自由帳(後編)〜無言の帝王と、行き場のない愛〜
「……そうよ。『大好きだよ、拓人』。今でも、ずっと好きだった」
もう、誤魔化すことなんてできなかった。
ずっと、ずっと胸の奥底に秘めておこうと思っていたのに。
「あのペアリングもそう。拓人と私がお付き合いしていた、大切な証だから……!」
震える声で、半ばヤケになったように私は叫んだ。
「ねぇ、これで満足でしょ!? 私の、たった一つの甘い青春時代をすべて知れて……!」
肩で息をしながら、涙で歪む視界の先で隼人を睨みつけた。
怒鳴られる。モノを投げつけられるかもしれない。どんな残酷な罰でも受ける覚悟だった。
しかし――。
南条隼人は、何も言わなかった。
ただ、底知れぬほど冷たい漆黒の瞳で私を一度だけ見下ろすと、踵を返し、足音もなくその場から出て行ってしまったのだ。
バタン、と静かに重い扉が閉まる。
残されたのは、圧倒的な静寂と、取り返しのつかないことをしてしまったという恐怖だけ。隼人のあの「無言」が、どんな怒声よりも恐ろしくて、私はその場にへたり込んだ。
――でも、一番残酷なのは。
私がこんなにも命がけで想い続けている貝森拓人は、もうすでに別の女性と結婚して、新しい家族を作っているという……どうしようもない現実だった。
私の愛は、もうどこにも行き場がないのだ。
95章に続く




