第93章:暴かれた自由帳〜帝王の低い問いかけと逃げ場のない絶望〜
「私の自由帳……見てない、よね……?」
すがるような思いで、震える声を絞り出した。
心臓が肋骨を突き破りそうなほど激しく打ち鳴り、手足の先からスッと血の気が引いていくのがわかる。部屋の空気はひんやりと冷たく、息をするのすら苦しかった。
南条隼人は、手にしたノートを見下ろしたまま、表情を一切崩さなかった。
怒鳴ることも、声を荒げることもない。ただ、底知れぬ漆黒の瞳が、かすみを静かに射抜いていた。その「静けさ」こそが、何よりも恐ろしかった。
「……青藍高校での、あのくだらないパジャマパーティーのことか?」
「えっ……」
「それとも、貝森拓人にほっぺたにキスをされたことか?……学園祭で一緒にダンスを踊って、あいつから告白されたことか?」
淡々と、だが確実に、かすみの最も大切な『宝物』が、隼人の口から残酷に暴かれていく。
隼人の冷酷な声が鼓膜を打つたび、かすみの脳裏にはあの日の温かい記憶がフラッシュバックし、それが今、ドロドロの絶望へと塗り替えられていくのを感じた。
「あ、ああ……」
息ができない。喉がヒューヒューと鳴る。
どうして。どうしてそんなことまで。文字にしたためただけの、私だけの秘密だったはずなのに。
「……あのお揃いのペアリングも、まだ持っているのか?」
「ちが、ちがう……っ」
首を横に振ろうとしたが、身体が石のように固まって動かない。
逃げ道は、もうどこにもなかった。
隼人はすべてを完全に把握していた。かすみが誰にも知られないように、心のいちばん奥底に大切に大切に隠していたはずの、拓人との甘い思い出のすべてを。
ペラ、ペラ……。
静寂に包まれた部屋の中で、隼人が無慈悲に自由帳のページをめくる音だけがやけに大きく響く。
やがてその手が止まり、彼は最後の一文に目を落とした。かすみが泣きながら書き殴った、あのページだ。
隼人は地を這うような、恐ろしく低い声でそれを読み上げた。
「『大好きだよ、拓人』……か」
その瞬間、かすみの世界から完全に色が消え去った。
心臓を直接素手で鷲掴みにされ、ギリギリと握り潰されているような錯覚に陥る。立っていることすら限界で、膝がガクガクと震えた。
隼人はゆっくりとノートから目を離し、パニックで凍りついたかすみを真っ直ぐに見据えた。
逃げることなど絶対に許さない。その黒い瞳がそう告げていた。
絶対的な支配者の、有無を言わさぬ冷たい声が、逃げ場のない部屋に響き渡る。
「……まだ、貝森拓人が好きなのか?」
今だにかすみお嬢様は拓人さんが好きなんです、




