第87章:帝王からの通告と消えた婚約者〜貝森拓人の知らない逆襲〜
南条財閥の本社ビル、高層階にある冷たいガラス張りの会議室。
南条の傘下に入り、『スーパールッツ』の立て直しのために膨大な資料と格闘していた貝森拓人の前に、若きCEO・南条隼人が静かな足音を立てて現れた。
「……君の両親も、なかなか容赦がないな」
隼人がふっと冷笑を浮かべながら口にした言葉に、拓人は書類から顔を上げ、怪訝な眉を寄せた。
「何の話ですか?」
「知らないのか? 君の実家である貝森財閥が、如月財閥に対して巨額の損害賠償請求を起こしたんだよ。如月の息の根を完全に止める、徹底的な法的措置だ」
「なっ……!?」
拓人は思わず立ち上がった。
自分がすべてを背負い、一人でルッツを立て直すために南条に頭を下げていた裏で、両親が自ら動き、あの悪女・如月あやめと如月財閥を完全に社会から抹殺しようとしていたなんて、拓人は本当に何も知らされていなかったのだ。
「親というのは、子供が思っている以上に執念深い生き物らしい。……だが、これで君を縛り付けていた如月の鎖は完全に消え去ったというわけだ」
隼人はそう言って、射抜くような鋭い視線を拓人に向けた。
「如月が潰れれば、君はもうかすみに遠慮する必要はない。俺からかすみを奪い返しに来る……そう思っていたんだがな」
「……南条社長、俺はかすみちゃんを――」
「だが、無駄だ」
拓人の言葉を冷酷に遮り、隼人は窓の外に広がる東京の街並みを見下ろしながら、低く、しかし微かな苛立ちを含んだ声で告げた。
「納屋かすみは今、南条の屋敷にはいない」
「……え?」
拓人の目が驚愕に見開かれる。
「あの婚約披露パーティーの最中、彼女は俺の用意した指輪を外して、屋敷から姿を消した。……君が『幸せになってね』などと、くだらない綺麗事を彼女に押し付けたせいだよ」
隼人の言葉が、拓人の胸に鋭い刃のように突き刺さる。
自分がルッツを守るために身を引いたことが、逆にかすみを絶望させ、南条という絶対的な鳥籠からすら彼女を逃亡させてしまったのだと、拓人はその時初めて思い知った。
「かすみは必ず俺が見つけ出す。……君は大人しく、スーパーの立て直しでもしているんだな」
冷たく言い捨てて会議室を出て行く隼人の背中を見つめながら、拓人は激しい後悔と焦燥感に駆られ、拳から血が滲むほど強く、強く握りしめていた――。
88章に続く




