第1章-7ガーディの兄
寝室の扉の向こうから、ガーディと聞き覚えのない男の話し声が聞こえてきた。
フクロウに布団をかけ直し、静かに扉の前に立つ。
二人の会話に聞き耳を立てた。
「ガーディ、安心しろって。
子供服なら学校に頼めば何とかなる。
今日は休みだから、俺が取りに行くよ。」
「ありがとうございます。
やはりサクは頼りになります。」
男の低い声が響く。
「しかし、深夜に裸で放り出すなんて……親は何を考えているんだか。
ガーディが助けなきゃ、どうなってたか……。」
「確かにそうですね。
ですが、子供は突然生まれるものですし、何か事情があったのかもしれません。」
「事情ねえ……どんな事情があるにしても、放置して子供が死ねば親は処刑対象だ。
それに、バッグを渡す理由も分からない。」
短い沈黙が流れた。
「そういや、ガーディ。
バッグの中身は見たのか?」
「見ていません。
他人のバッグを覗くのは気が引けます。」
「ガーディらしいな。」
話し声を聞きながら、僕は扉を離れ、布団に潜り込んで眠るフクロウを抱きしめた。
耳に残った言葉の数々が、何度も頭の中を巡る。
理解が追いつかない。
ただ、怖かった。
「突然生まれるって……何?
僕のせいで誰かが死ぬの?
僕……戻ってこない方が良かったの?」
自分の声が震えていた。
電子世界では、こんな感情を知らなかった。
扉を軽く叩く音がした。
「起きてますか?」
ガーディの声だ。
僕はフクロウの羽に顔を埋め、じっと声を抑えた。
「……まだ寝ているみたいです。」
声が遠ざかっていく。
フクロウから顔を離した。
「君は……小さいね。」
スヤスヤと眠る姿を見て、ぽつりと呟いた。
それに応えるかのように、フクロウは小さな足を伸ばし、
「ホウ」
と息を吐いた。
「それなのに……あんな大きな鳥たちと……。」
僕は深呼吸をして、毛布を羽織った。
震える手で、扉をそっと開ける。
「お……おはよう……。」
顔だけ出して挨拶をした。
ソファーにはガーディと、向かい側に男が座っている。
ガーディが振り返る。
「おはようございます。よく眠れましたか?
今日は私の兄が来ています。」
男はソファーから立ち上がり、手を差し出してきた。
「初めまして。サクだ。
裁判所で事務の仕事をしてる。」
ガーディの鎧姿とは違い、間違いなく人間だった。
20代半ばか30手前くらいだろうか。
背は高く、声は落ち着いていて、目元に笑い皺がある。
柔らかそうなダークブラウンの髪がふわりと揺れた。
「事情はガーディから聞いたよ。大変だったな。」
「あ……ありがとう。」
伸ばされた手をそっと握り返した。
初めて握った人間の手は、とても温かかった。




