第4章-54 フクと人命
僕は院内を駆け回っていた。
医師が道具を落とせば、即座に消毒液で拭いて手渡した。
研修医が道具に悩んでいれば、必要な道具を指さして教えた。
医師達は最初、僕に戸惑っていたが、だんだんと協力を受け入れてくれた。
一人の医師が僕に声をかけてきた。
「ゼロユイ、さっきの血液パックの場所を覚えてるかい?
全ての血液型を1箱ずつ持って来てくれないか。」
「分かったよ。」
僕は頷くと、一目散で倉庫へと走った。
倉庫の扉を開き、血液パックを探す。
「えっと、これと、これ。
あれ?もう1種類がない……あ、あの箱だ。」
箱に手を伸ばした時、何かが窓を叩く音がした。
「なんの音?」
窓を見ると、窓ガラスを嘴で叩くフクがいた。
「フク!?」
思わず手を止め、窓を開けた。
「ピィッ」
フクはフワリと窓から入ると、僕の足元にとまった。
血液パックを棚に置き、フクを抱き上げる。
「フク……まさか、僕を探しに来たの?」
フクはピッタリと体をくっつけてきた。
羽はとても冷たく、足の力は弱々しかった。
「ごめんね。
いきなり居なくなって怖かったよね。
ここまで来るの大変だったよね。」
温めるようにしっかりと抱きしめる。
だが、血液パックはまだ届けていない。
「どうしよう。」
フクを見ると、嘴で僕の服の裾を咥えていた。
離す気配はない。
仕方なく、血液パックを1つ手に持ち、フクの顔をしっかりと見た。
「フク、あのね。
ここはたくさんの傷ついた人を助ける場所なんだ。
僕はこれから、これをその人達に持って行かないといけないんだ。
終わったら帰らせてもらえるように頼むから、ここで待ってて欲しい。」
フクは裾を加えたままフルフルと首を横にふった。
「お願いフク。すぐに終わるよ。
僕が行かないと死んじゃう人が……。」
フクはじっと僕を見つめ裾を離した。
翼を広げ窓から飛び立ってしまった。
「待って!!」
窓に向かって手を伸ばす。
「フク!フク!!」
名前を呼んでもフクは戻って来なかった。
しばらく呆然と立ち尽くしたが、血液パックを抱え倉庫を出た。
「フク、ごめんね。すぐ帰るよ。
そう、これを届けたら帰る、帰るから。
だから、お願い。無事に寮に戻って。」
息を切らしながら病室に戻った。
箱から出した血液パックを次々に医師に渡した。
「あの、先生。急いで帰らな……。」
帰宅したいと切り出そうとした時、別の医師から指示が飛んできた。
「ゼロユイ、このトレイの中の道具を消毒してくれ。直ぐ使うから、急いで!!」
「えっ?」
呆然としながら、トレイと消毒液を受け取った。
トレイの中には大量の道具が入っている。
「そんな……。」
部屋の隅のテーブルで道具を消毒していく。
だが、トレイには、医師や看護師たちが次々と使用済みの道具を入れていった。
どんなに急いでも、一向に減らなかった。
「フク、帰れない……帰りたいよ。」
ギュッと目を瞑った時、新たな患者が運び込まれた。
患者が大声で騒いでいる。
「現場に戻せ!私は軽傷だ!!
あいつは足を失っても、匍匐前進で救助を行っているんだぞ!!
今すぐ戻せ!
部下に仕事を押し付けて逃げる隊長などどこにいる!?」
目を開けると、ガイが担架に乗せられていた。
暴れないように縄でしっかりと縛られている。
片腕は抉り取られたように裂け、血がとめどなく溢れていた。
医師達が数人でガイの体をベッドに移動させている。
「早く鎮静剤と輸血を!かなり錯乱している。」
「鎮静剤、もうありません!」
「なら、麻酔でも良い。早く落ち着かせろ!」
医師が叫ぶ中、ガイの目が僕を捉えた。
だが、その目は焦点が定まっていないのか、揺れているように見える。
ガイが更に叫んだ。
「おい!なぜ子供がいる!?
子供を働かせては法律違反だ!
とっとと家に返せ!報告書をまとめねば!!」
ガイの体に麻酔の管が繋がれていく。
「おい!聞いているのか!?
早くあの子供を学校に返………。」
麻酔薬が流され、ゆっくりと瞼が落ちていった。




