第3章-44 医師と裁判所
ー医師/コウ視点ー
ゼロユイ達と別れたあと、セキのいる裁判長室までやってきた。
鈴を鳴らす。
「セキさん、コウです。お邪魔しますよ。」
扉を開けると、室内で書類を整理しているセキがいた。
「…また来たのか。
最近、来る頻度が多くないか?」
セキはヤレヤレといった顔で、書類を机の隅に寄せた。
「今回は何のようだ?」
「来る頻度が高いのは、セキさん自身がお分かりではないですか?」
穏やかに笑ってみせる。
セキのテーブルに、錠剤が入った2つの紙袋を並べた。
「前回の血液検査の数値があまりよくありませんでしたからね。
補助として、栄養剤と睡眠薬をお持ちしました。」
「そうか。それはご苦労だった。」
セキは栄養剤だけを取り、睡眠薬を突き返してきた。
「睡眠薬はいらん。
眠っては仕事が進まない。」
「残念です。」
睡眠薬を受け取りポケットにしまった。
客用のソファーに腰掛けセキを見る。
「話は変わりますが……。
今日、とても興味深い子とお会いしました。」
セキは再び書類を整理しはじめた。
「コウが興味を持つとは珍しい。
どんなやつだ?」
「僕の注射器を割り、道具を床に散らかし、逃げて、また謝りに戻ってきた小さな子供です。」
セキはフッと笑った。
「相当な愚か者だ。患者か?」
「いいえ、僕の新しい助手です。
しかも、ガイさんの診察中の話です。」
セキの笑いが消え、眉間に皺を寄せた。
「コウ、何をそんな呑気な顔をしている。
別の助手を使え。そのうち全て壊されるぞ。」
「いいえ。僕はまた使いたいと思っています。
とても気に入ってしまったんです。」
「…理解できん。」
呆れるような表情に再び笑ってしまう。
セキは本当に素直だと思う。
「そうでしょうね。
僕も自分に戸惑っています。
さて、そろそろ失礼しますね。
薬はしっかり飲んでください。
夜寝る前に2錠ですよ。」
裁判長室を出ようとすると、セキに呼び止められた。
「コウ、待て。」
「なんでしょうか?」
振り返ると、セキは栄養剤の袋を開けていた。
「子供じみた真似をしたな。」
セキが袋の中身を見せてきた。
栄養剤には、うっすらと睡眠薬の色素が混ざっている。
「おや、バレてしまいましたか。
もちろん、飲んでくれますよね?」
セキはフッと笑った。
「まあ、良いだろう。
たまには騙されてやる。」
「それは何よりです。
貴方の健康が一番ですから。」
お互いに笑い合う。
セキはしっかりと袋を閉じ、栄養剤を引き出しにしまった。
「もう行け。また何かあれば来い。」
「あなたがしっかり食べて、充分に寝てくれたら、来なくて良いんですけどね。」
皮肉を言い、裁判長室を出た。
通路で監査から戻って来たレイと会う。
「レイさん、お疲れ様です。」
声をかけると、レイは笑顔になった。
「あれ、コウさん。
今日は何かあったのですか?」
「セキさんに、いつもの小言を言いに来たんです。
レイさんは、セキさんと一緒に住んでいますよね?」
レイが首を傾げる。
「はい。そうですが、何かありましたか?」
「明日の朝、セキさんが遅く起きても責めないであげてください。
先ほど、睡眠薬を受け取ってくれましてね。
ゆっくり寝かしてあげたいんです。」
「えっ?セキ様が……睡眠薬を?」
レイの目が丸くなる。
「フフッ、そうなんです。
では、僕はそろそろ病院にもどるので失礼しますね。
レイさんも体に違和感があればすぐ言うんですよ。」
「は、はい。ありがとうございます。」
頭を下げるレイに軽く手を振った。




