第2章-25 与えられたもの
僕とサクは学校に到着した。
教員の案内で、僕はサクと共に学校の廊下を歩いていた。
これから、寮の部屋に案内してくれるという。
「あの……サクさん。お仕事戻らなくて大丈夫?
普通なら、寮まで付き添わなくて良いんでしょ?」
教員に聞こえないように、こっそりと聞くと、サクも小声で返してきた。
「心配するな。
今日は事務スタッフも多いし……それに、こんな仕事をサボれる口実は滅多にない。」
冗談のような、本気のような笑みに、僕も少しだけ笑った。
教員の案内で、寮の門を潜る。
教員は、一番奥にある部屋に鍵を差し込み扉を開けた。
室内に入って驚く。
家具は子供用に小さめに作ってあるが、広さや設備は、ガーディやサクの社宅と変わらない。
「凄い……ここに住めるの?」
教員は頷き、ゆっくりと説明を始めた。
「そうだよ、ゼロユイ。
ここに住んで、料理や掃除とかを覚えてほしいんだ。
もちろん、読み書きとかも学校で教えるからね。」
「うん。でも、できるかな?」
教員は笑顔で答えた。
「大丈夫。
分からなければ一緒にやるし、不安なら職員室や相談室がいくつかあるから、そこに聞きに来てくれて構わない。」
教員にこくりと頷いた。
サクは黙って見守っている。
「さあ、まずは荷物を置いてトイレに行って来なさい。
そのあと、君の簡単な能力テストもするよ。」
「うん!」
僕は急いで寝室に入り、扉を閉めた。
広いベッドが置いてある。
部屋の隅にバッグを置き、フクを優しく取り出して布団の上に載せた。
フクは虹色の羽を咥え、少し不安そうな顔をしている。
「大丈夫。すぐ戻るから。待っててね。」
そう言い、部屋から出ようとした時、バサリと音がした。
振り返ると、フクは窓に移動して外を見ていた。
窓の外には、この世界で最初に見上げた光る木が、遠くで七色に光っているのが見えた。
「フク……今度、また一緒にあそこに行こうね。」
僕はフクの背中を撫でると、急いで教員とサクの元に戻った。
サクが教員に話している。
「サクさん、許可証を読みましたが……本当にゼロユイは読み書きができるんですか?
生まれたばかりでしょう?」
「ええ、ほとんど教えなくて良いかと。
飛び級ですよ。絶対にね。」
サクはそう言うと、僕に向き直った。
「俺はそろそろ仕事に戻るよ。
頑張れよ、ゼロユイ。またいつか。」
「うん。サクさん、またね。」
僕が手を振ると、サクもひらひらと手を振って裁判所に戻っていった。
「さあ、ゼロユイ。今から学校を案内するよ。」
教員に手を引かれ、学校の教室をいくつか通った。
僕と同じくらいの子供達が、椅子やソファーに座って授業を受けている。
テーブルの配置はバラバラで、教員は一つの教室に二〜三人で教えていた。
読み書きや計算以外にも、絵本の読み聞かせをしたり、粘土で何かを子供と一緒に作っている教員もいる。
別の教室では、年上の子供が法律やお金の使い方、仕事の種類などを学んでいた。
教員が小さな個室に入った。
室内はこぢんまりとしていて、少し硬そうなソファーとテーブル、大きな本棚が置いてあった。
「さあ、座って。」
教員に促され、ソファーに座った。
「さて、始めようか。
裁判所からの許可証によれば、君には読み書きの学びは必要ないと書かれているね。」
教員は少し間を開けた。
「……だが、こちらとしては、本当にそうなのか確かめないといけない。
君のような小さい子供に、読み書きが必要ないなんて信じられないんだ。」
教員は本棚から一冊の資料とペンを取り出し、僕の前に置いた。
「これは入学して、一番最初に受ける簡単なテストだ。解けるかい?」
ペンを手に取り資料を見た。
内容も文字も簡単なものばかりだった。
さらさらと記載していく姿に、教員は目を丸くした。
「まさか……じゃあ、これはどうだ?
計算問題も入っているが……解けるかい?」
新しい資料を出されるが、これも何も悩まずにペンを動かした。
全て書き終えると、教員は資料を奪うように取り上げた。
「……信じられない。
君は、どこで……いや、こんな小さな子供が……。」
教員は瞬きを忘れているのか、目が開きっぱなしになっている。
「先生。僕、このテストより、新聞の方が内容が面白くて好きです。」
「……は?」
教員は言葉すら失ってしまったようだった。




