第1章-17 名乗りの約束
サクが僕の口から手を離した。
少し咳き込みながら、必死で呼吸を整える。
「苦しかった……。」
受付の方をから、
「レイ様じゃなかったら、どうなっていたことか……」
と、ひそひそ話しているのが聞こえた。
サクがしゃがみ込み、僕に説明を始めた。
「いいか、今のはお姉さんじゃなくて、お兄さん。男性だ。
副裁判長といって、この国で二番目に偉い人なんだ。」
サクの言葉に、体が震えた。
「あ……謝りに行かなきゃ……。」
レイの歩いて行った方向へ向かおうとしたが、サクに服を掴まれ、ぐいっと引き戻される。
「心配するな。今は忙しそうだっただろ?
だから、あとで俺から謝っておく。」
サクは申請書を拾い、再び見せてきた。
「それより、今は名前をどうするか決めないと。そろそろ思いついたか?」
改めて申請書を見る。
ぽっかりと名前だけが空いた申請書が、自分のように思えた。
「……ごめんなさい。思いつかないよ。」
申請書から目を離す。
サクはやれやれといった顔で申請書をくるくると丸め、ポケットに入れた。
「分かった。
じゃあ、これは明日までの宿題にしようか。
俺が明日出勤だから、その時に受理する。」
僕はサクを見上げた。
「……良いの?」
「もちろん良い。
だけど、名前はちゃんと考えるように。約束できるか?」
「うん。約束するよ。」
サクと指切りをした。
「よし、じゃあ今日は俺の社宅に泊まっていけ。ついでに飯も作ってやるよ。」
「えっ?社宅に泊まったら、ガーディさんみたいに怒られない?」
サクは軽く笑う。
「ちゃんと申請すりゃ大丈夫だ。ガーディはそこんとこ抜けてるんだよ。
ほら、行くぞ。まずは買い物に付き合ってくれ。」
「ありがとう。」
サクと並んで裁判所を出た。
バッグの中で、フクロウが背中に頬ずりしたような気がした。




