第1章-11 警備隊長
掴まれた手首は痛くないが、引っ張ってもびくともしない。
フクロウはまだ男を威嚇しているが、僕の腕の中にしっかりと収まっている。
「ほら、お前も座れ。」
「う…うん。」
僕は男の手を外すのを諦めて、男の横に並んで座った。
男はフクロウを一瞥したあと、視線を僕に戻した。
「質問は山ほどあるが、まずはお前さんは誰の子なんだ? 生まれたばかりのようだが。」
腕の中のフクロウを見ながら答えた。
「僕って、そんなに赤ん坊に見えるの?
他の人にも生まれたばかりだって……。」
男は不思議そうな顔をして、まじまじと見てきた。
先ほどのような威圧感はほとんどない。
「赤ん坊? それは知らないが、生まれたばかりの子は皆、お前さんくらいの見た目だ。
俺も生まれた時はそのくらいだった。」
「へっ?」
男は話し続けている。
「そもそも突然生まれるから、いつでも親が手続きできるように、裁判所には必ず誰かがいる……おっと、お前さんにはまだこの話は早いか。」
「突然……生まれる?」
思わず目をパチクリさせた。
フクロウも真似するように目をパチパチしている。
「なんだ、自覚がないのか。
そうだ。ある日、目の前に子供が現れる。
それが“生まれる”ってことだ。
お前さんにも、誰か大人が近くにいただろ?
それが親だ。」
完全に言葉を失った。
揶揄われているようには見えないし、感じなかった。
「親を覚えてないのか?本当に特殊だ。
そもそも、その奇妙な鳥も何だ。
お前さんに懐いているようだが、親からもらったのか?」
返事に困っていると、玄関がノックされた。
「ガーディ、俺だ。開けてくれ。」
サクの声だった。
立とうとすると、男は手を強く引いた。
「俺が出る。ここを動くな。」
男は僕から手を離し扉を開けた。
サクと男の目が合う。
サクは即座に背筋を伸ばし、優雅に礼をした。
「おはようございます。ガイ隊長。
日頃ガーディがお世話になっております。
ガーディに何かご用でしょうか?」
ガイと呼ばれた男は腕を組み、サクを見下ろした。
「確か……お前はサクだな。
お前こそ何故ここにいる?
事務員の寮は離れているだろう?」
「俺のことをご存知でしたか。
ガーディは俺の弟です。よく会いに来ております。」
「ああ、知っている。優秀だと評判だ。
そうか、ガーディの兄だったのか。」
サクは「光栄です」と言いながら、僕を見た。
サクと一瞬だけ目が合った。
「ガイ隊長。失礼ながら、その子は今からお着替えがございます。
中に入れていただけませんか。」
「なんだ? お前の子か?」
「違います。
深夜に裸で放置されていた所を、ガーディが保護した子供です。
光の木の広場で発見したそうです。」
「なん……だと?」
ワナワナとガイの体が震え始めた。
その振動で、あたりの空気まで震えているようだった。
「……子供を放置しただけでなく、あの木や鳥の前でなど、何と罰当たりな……この子の親を見つけたら、速攻叩き切ってやる。」
サクは軽く息を吐くと、ガイの前に跪くようにしゃがんだ。
「ガイ隊長。この子供は俺とガーディが責任を持って手続きさせます。
どうか、お任せくださいませんか。」
サクはガイを真っ直ぐに見上げた。
ガイはしばらく考えたあと、サクの肩を軽く叩いた。
「良いだろう。
その子供と、凶暴な鳥はお前達に任せる。
サク、ガーディにその子の親が分かり次第、俺に伝えろと言ってくれ。
あと、ガーディに出勤したら俺の元に来いと伝えろ。」
「承知いたしました。」
ガイは一度だけこちらを振り返った。
ガイに見られ、体が震えた。
フクロウは鼻息を荒くしている。
「この程度で怖がるな。
それにしても、不思議なコンビだ。」
ガイは鼻を鳴らし、部屋を出ていった。
サクはガイを見送ると、笑顔で僕に振り返った。
「お待たせ。さあ、着替えようか。」
僕はフクロウを抱きしめたまま、コクリと頷いた。




