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謂れのない罪をでっち上げられたので、取り敢えず王太子殿下の性癖バラしておきますわね?  作者: 塵芥


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『8』

 そこから彼らの関係は、表向きは婚約者。裏では事件の真相を解き明かす協力者(パートナー)となった。


 そんな異質な関係が、皮肉にも互いの得意分野を補い合う歯車のように動き始めていく。


 最初のうちは二人とも、独自のルートで調査を進め、数日に一度の手紙で進捗を報告し合う仲に留まっていた。


 しかしそのやり取りは、いつも淡白で事務的なものばかり。


『ブルー家の御息女が誘拐されたらしいが、どうやらすぐに帰ってきたらしい。とはいえ今回も、例には漏れず記憶が抜け落ちているらしいが』


『情報共有感謝いたしますわ。こちらから提示できるのは、黒薔薇の品種がブラック・バカラということくらいですわね。それから、トワ様が野生動物だと仰った犯人ですが、警備の者に見張らせたところ、どこぞの飼いイタチのようでしたわ』


 そんな必要最低限の情報だけが交わされる。


 だが、そんな二人の関係性に変化をもたらす事件が起きた。


 それは、王都に屋敷を構えるドゥレッツァ伯爵家の令嬢が失踪したというもの。王都では毎年特定の時期になると、貴族同士の結束や政略結婚を目的とした、華やかな社交パーティーが開催される。そのため各地の貴族はこぞって王都に集い、タウンハウスに長期滞在する習慣があった。


 本来ならば、王都の治安維持を担当するトワ一人で十分だったはず。


 しかし、社交界でも特に影響力を持つドゥレッツァ家の令嬢が巻き込まれ、状況は複雑化する。


「伯爵令嬢がトワ様の管轄地で失踪となれば、治安維持を任された貴方に責任がありますわね」


 優雅に扇を広げたユリウスが、まるで全てを見透かすように微笑んだ。


 すると、トワは苛立ちを隠しもせず冷たく言い放つ。


「余計な口出しをするな。そもそもなぜお前がいる?」


 しかしユリウスは動じることなく、まるで自分が主導権を握っているかのように、涼しげな笑みで返した。


「あら、ドゥレッツァ家とユアマシャール家は、古くから縁が深い間柄ですの。お友達が困っているのに、黙って見過ごすわけには参りませんわ」


 二人は一歩も譲らず視線をぶつけ合うが、ユリウスは胸の内で別の考えを巡らせていた。


(ふふっ。トワ様がどんな仕事をなさるのか、お手並み拝見といきましょうか)


 そんな本音を秘めつつも調査が始まる。


 ユリウスは屋敷の庭に証拠がないかを確認し、トワは内部を徹底的に調査する。


 別行動を取りながらも意識しているのは明らか。


(ふふっ、トワ様も私を試していらっしゃりそうですわね)


 そんな二人だったが、当然行き着く先は同じ。


 庭に敷かれた砂利の一部が妙に沈んでいることに気づく。


(……これは、そこそこ高い位置から飛び降りてできた歪みでしょう)


 そして、そこから繋がる部屋を確認すると彼女は二階にある、とある一室へと向かった。


 ◇


「犯人はこの部屋から窓を伝い降り、途中で飛び降りて逃走したようですわ」


 そんな彼女の推理に、トワは一瞬驚いた様子を見せる。


 しかし、すぐさまそれを隠すように咳払いを一つ。部屋の隅から黒薔薇を拾い上げ、彼女に差し出した。


「この黒薔薇、お前はどう思う?」


 その言葉の端々からは、お前にこの異常性が見抜けるか? という挑発が滲み出ているが、彼女はひるまない。


「これは……実に興味深いですわね」


 顎に手を添え、トワのから薔薇の花びらを一枚拝借し、指先で軽く擦る。


「今までと違って、本物の薔薇ではありませんわね。そっくりに造ろうとしたのでしょうが――紙で作られた偽物です」


 赤黒く汚れた指先を彼に示しながら冷静に言い放つと、ユリウスは再び思考に沈んだ。


(これは……インクを混ぜ合わせ赤黒く染めただけのお遊び。ですが紙質は――ある程度まとまった資金が必要になる上質な羊皮紙。このような品のないことにお金を浪費するなんて……まるでトワ様のような方ですわね)


 皮肉を内心で連ねながらもユリウスは、悪趣味としかいいようのないレイヴン邸の調度品を思い返した。


 *


 一方のトワは、ユリウスの鋭さに関心を覚え、口元を手で隠しながら不敵な笑みを浮かべる。


(俺も早い段階で気づいてはいたが……見ただけで勘づき、的確に見抜くとはな。この女、知れば知るほど実に面白い)


 それはどこか挑発が大半を占めていたが、微かな興味も含まれている。


 しかし、ユリウスは彼にまったく興味を示す様子はない。


 淡々とした態度で証拠品の収集を続け、ベッドの下に置かれていた鞭を手に取った。


「あら? トワ様が提示してくださった情報に鞭などございましたでしょうか?」


「いや、これは初出だ。何か心当たりでもあるのか?」


「ええ。この鹿革らしい、しなやかな肌触り――以前パバート様と、とある令嬢が応接室で親しくしていた時に見たものと類似していますわね」


 ユリウスの発言に、トワの眉が微かに動いた。


(パバートか……。やはり俺の推測は当たっていたのか? いや、それにしては出来すぎている。あの王太子は頭の出来が良くない。ならば、協力者でもいるのか?)


 思考を巡らせながら、トワの視線は無意識のうちにユリウスに固定される。その目には警戒ともっとユリウス(この女)を知りたいという好奇心が入り交じっていた。


 その視線に気づいたであろうユリウスは、薄く笑みを浮かべながら、わざとらしく小首を傾げ問いかけてきた。


「あら、私の顔に何かついておりますの?」


 皮肉混じりの言葉の中に漂う、妙な天真爛漫さ。それが演技なのか自然体なのか、トワには判断がつかない。


(……何を企んでいる?)


 一瞬、彼は無意識に彼女の真意を探ろうと視線を強める。だが、すぐにそれが彼女の掌の上で踊らされていることだと気づき、軽く眉をひそめた。


(私を試して実力を測ろうとするか。フッ、かなり下に見られたものだ)


 そんな思考の後、トワは僅かに視線を逸らした。


「まあ。どうやら、ただの視線遊びのようですわね。少し期待しましたのに」


 わざとらしく肩をすくめ嘲笑を浮かべるユリウス。そんな彼女の発言に、トワは鼻で笑うと短く告げる。


「くだらん。やるべきことに専念しろ」


 ◇


 それから数時間後。


 ある程度部屋を調べ尽くしたトワは、自然とユリウスに声を掛けていた。


「次の現場も見てみよう」


 その言葉には警戒心こそ残っているものの、彼女を認め始めている色が微かに宿っている。


(元々、三ヶ月という猶予をつけ、その間にユリウス(この女)の化けの皮を剥がした後、王族に差し出すつもりだったが……あの王族(能無し)どもに引き渡すには、少々惜しい逸材だな)


 内心で彼女を評価しつつも、彼はくるりと踵を返し部屋を後にしようとする。


 しかし――ユリウスの冷静な声が彼を静止した。


「この床に残された足跡、気になりませんか?」


 ユリウスの冷静な声に促され、トワは振り返る。視線の先では、彼女が優雅にドレスの裾を持ち上げ、床を指差しながら屈み込んでいた。


 仕草こそ淑やかだったが、その瞳には、僅かな証拠すら見逃すまいとする執念じみた鋭さが宿っている。


 トワは軽く彼女を一瞥すると、その足跡に視線を落とす。

「泥の跡が二種類ある。これは――」


「中から外へ向かう足跡ですわ」


「つまり、犯人は一人ではないという事だな」


「ええ、そういうことでしょうね」


 彼はそこまで聞くと、顎に手を添え思考の海に沈んだ。


(この事件はやはり単独犯の仕業ではなかったか。そうなれば、犯人の一人はアイツで間違いないだろう。しかし、もう一人は誰だ? そもそも、何故あいつがこんな事件を起こす?)


 彼は理解不能だと言いたげに苦々しく舌打ちをすると、他に見落としがないか目を光らせた。


 すると、ユリウスが皮肉めいた軽口をひとつ。


「こんな単純なことにさえ気づかないとは。トワ様もまだまだですわね。どうぞ、そこで指を咥えて私の華麗なる事件の推理を聞いていてくださいませ」


「うるさい。軽口を叩く暇があるならば、もっと集中しろ」


 短く応じながらも、トワの胸には微かな苛立ちが湧き上がる。だがそれと同時に、その余裕たっぷりな態度を崩さないユリウスに対し、どこか興味を覚えている自分に気づいた。


(なんだ、この妙な胸騒ぎは。俺はあいつに興味を抱いているのか? いや、そんなわけがない。これは警戒心から来る防衛本能の一種だろう)


 トワは自身の中に芽生え始める妙な違和感に、不快感を覚えながらもそっと目を逸らした。


 すると、ユリウスが嘲笑するように勝気な言葉を紡ぐ。


「ふふっ。潔く負けを認めれば良いものを」


 だがその直後――

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