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謂れのない罪をでっち上げられたので、取り敢えず王太子殿下の性癖バラしておきますわね?  作者: 塵芥


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35/38

『35』


 ユリウスは内心で小さく笑みを浮かべると、終演に向かって指揮を取り始めた。


「もう一人の犯人ですが、それは――」


 その瞬間、会場で誰かが唾を飲み込む音が微かに響く。


 緊張が張りつめ、もしかしたら自分が犯人だと言われるんじゃないか……。そんな不安を抱える者たちもいる。


 ユリウスはサッと周囲を眺めると、小さく息を吸い込み犯人の名を口にする。


「ベリタスさんを装っていた、こちらの男性ですわ」


 その言葉と同時に場内では、困惑が伝染するように広がっていく。


 だが、それを認めない男が一人。



だが、それを認めない男が一人。


「いやいや! 何故、私を犯人という体で進めているんだ⁉」


「彼の言い分は聞くに堪えないと思いますので、無視させていただきますわね。まず。こちらの犯行は、短絡的なパバート様には不可能なものになっております。それに、私の部屋にこのようなものが――」


 彼女はそう言うと、自身の部屋に置かれたメッセージを読み上げる。


「“赤き目の悪魔が棲まう塔の崩落と共に、神もこの世を去る”パバート様、貴方はこの意味が何か、分かりますか?」


 それを聞いたパバートは、ベリタスを装った男――ノクスへと視線を向ける。その目には、どういうことだと責め立てるような苛立ちが込められていた。


 だが、彼はパバートの怒りに応えるつもりはないらしい。

 腹を抑えたまま彼と目すら合わせない。


 そんなノクスの態度に、万事休すと悟ったのか、パバートは小さく口ごもる。


「それは……」


 瞬間、ユリウスが再びアーティファクトを掲げ、冷ややかな声音で語りかけた。


「お答えできないようですし、ノクスさんの件に触れていきましょうか」


 ユリウスはそう言うと、自身の従者に再びアーティファクトを手渡し、起動するように命じた。


「まずは、何故ノクスさんがベリタスさんに成り代われたのか――それはこちらのリストを拝見すれば一目瞭然ですわね」


 彼女の説明と同時に、空中にはルクス・ルナエ・トゥリスの人身売買オークションのリストが浮かび上がる。


 そこには、ノクスという文字の横にフィユートという名前が。


 その名前で画面を停止させると、ユリウスは説明を続けた。

「この男――ノクスは、元々美しいピンク色の髪を持つ平民でした。しかし父が盗みで処刑され、母も過労で早逝。その後も不運は重なり、彼は五年前、人売りに捕まりオークションでフィユート家に買われたのです。貴族となったフィユート家ですが、平民出身ゆえに貴族社会において低く見られていたようですわね。その鬱憤を彼に向け、過酷な仕打ちを繰り返した。その精神的苦痛は彼の美しい髪を白く変えてしまうほど」


 ユリウスの口調は、いつまで経っても冷静そのもの。


 しかし、それが周囲にどう映っているかなど、彼女にとっては取るに足らないこと。


「パバート様の動機は至極簡単。私に性癖を暴露された挙句、トワ様という新たな婚約者を私が提示したことで、その小さな自尊心が傷つけられたからでしょう? これがただの推論だと思いたいのですが……貴方のことですもの。真実なのではありませんか? しかし、未だに悶絶されている彼の場合――残念ながら、彼のような幼稚な理由ではないのでしょう」


 ユリウスは一度、自身の席へ戻ると、ローズコングティーが入ったカップを手に取り、喉を湿らせてから言葉を続けた。


「彼の父はアトラ・シパリオンという平民の盗人でした。彼はとある貴族の屋敷に侵入し、金品や装飾を盗み出したのですが――

 それが原因で処刑されています。その刑を執行したのがトワ様。本来ならば、パバート様の性癖が皆様に知れ渡ったあの社交場で、トワ様に父を殺した罪を償うよう交渉する予定だったのでしょう。事前に差出人不明という形で脅迫めいたメッセージを添え、招待状を送っていました。

 その話を聞いた後すぐに従者を使って筆跡を確認させたところ、彼の筆跡と類似しておりましたから間違いありませんわ」 そこまで言うと、ユリウスはトワに視線を送った。


「ああ。内容はこの通りだ」


 トワは小さく頷き、“赤目の悪魔様――あなたにお尋ねしたいことがあります。もし参加の意思がない場合は、あなたが葬った罪を世に告発いたします”とメッセージに書かれていた内容を口にした。


 それを聞き終えると同時にユリウスは、再び推論を語り始める。


「しかし、何らかの事情で計画が狂ったのでしょう。経緯は定かではありませんが、彼はベリタスさんに成り代わる必要に迫られた。そのため、大根役者のような演技でその場を乗り切ろうとしたようですが――

 まさかそこで行われたのが、パバート様の性癖暴露。そんな予想外の展開に衝撃を受け、演技を放棄してその場から立ち去ってしまった。そして冷静さを取り戻した後、改めてトワ様との接触を試みましたが……会場に戻った頃には、すでにトワ様は不在。

 さらには、その直後に私とトワ様の婚約発表を耳にしてしまった。それが決定的な動機となり、胸に抱えていた復讐心に火をつけたのです。しかし、一人で行動を起こすのはあまりに不利と判断した彼は、偶然にもパバート様がルクス・ルナエ・トゥリスに入り浸っているという噂を耳にした。そこで――」


 そこまで言うとユリウスはあえて声を低くし、不敵な笑みを浮かべた。


「変態王太子という通り名を付けられ、自暴自棄になっていた彼を言葉巧みに誘導し、隠れ蓑として利用しながら、トワ様への復讐を実行しようとしたのでしょう。彼は短絡的で未熟なお人ですが、腐っても王族の人間。トワ様への接触も安易にできて尚且つ、その頭の悪さからいづれトワ様を貶めた後、勝手に自爆してくれる。その間に自身は雲隠れする、という算段だったのでは?」


 その一言で、騒然としていたざわめきはピタリと止まる。

「駒として利用されていることにも気づかず、あなたは見栄とプライドだけで行動し、大掛かりな事件に加担した。そして、自身が犯人だと疑われぬよう、関係のない令嬢たちまで巻き込み捜査の目を欺こうとした」


 その言葉に、パバートの顔が蒼白になっていく。しかし、彼女は自業自得と言わんばかりにやわらかな微笑みを浮かべ、言葉をさらに続ける。


「ですが、パバート様が彼の計画を狂わせました。本来であれば、パバート様の私怨しかない復讐を遂げた後、その罪をトワ様に着せて、犯行が明らかになる前にお二人の関係を絶つ。

 そういう意図だったはずです。しかし、私だと思い込んでいた相手が身代わりだと知った瞬間、パバート様は逆上し、独断で手を出してしまわれた。その結果、彼女に深刻な傷を負わせ、再び私の屋敷へ向かわざるを得なくなった。同じ屋敷に二度入るなど、リスク以外の何物でもない。だからこそ、計画が破綻した時点で、彼はパバート様を切り捨てることにしたのでしょう」


 ユリウスは一瞬だけ言葉を止め、再び静かな声で続ける。


「……ああ、安心してくださいませ。彼女は療養中です。ですが、貴方がたが行った罪を覆すことはできませんのよ」

「は? さきほどから大人しく聞いて入れば、この私が利用されていた⁉ そんなわけがないだろ! 何をデタラメなこと――!」


 呆気にとられるパバート。しかし、ユリウスは淡々と話を進めていく。


「はあ……何を阿呆なことを仰っておられるのでしょう? まあ、いくら貴方が否定しようとも、犯人であり、なおかつ利用されていたのは紛れもない事実ですわ。諦めてください」

「だから、この私が利用されるわけがないと言っているのだ!」


「では、パバート様がこちらの男性を利用した、と?」


「ああ、そうだ!」


 瞬間、ユリウスが密やかな笑みを浮かべる。それと同時に、会場は静まり返り、非難に満ちた視線が一斉に彼へと向かう。


(貫くような白眼視。まあ、当たり前ですわよね。短絡的思考は身を滅ぼす。彼にとっても立派な教訓になったことでしょう)


 ユリウスは内心で呆れを覚えると同時に、嘲笑をまとった表情で静かに言い放つ。


「ふふっ、自白なさいましたわね……。ですが、あなたが利用された事実は変わりませんわ」


「ち、違う! そんなわけないだろ! 私を誰だと思っている! 私は、次期王になる人間だぞ!?」


「お可哀想に。客観視というモノを教えて頂けませんでしたのね……」


 ユリウスは皮肉交じりに扇子を開くと、くすり。せせら笑い、説明を続けた。


 そして、冷然とした優雅さでノクスへ一歩近づき、最後の言葉を放つ。


「さて、ベリタスさん――いえ、ノクスさんでしたか。貴方は彼と違って、罪を認めて償う予定はございますか?」

 

 余裕ある彼女の問いが、鋭い刃のように場に響いた瞬間――


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