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謂れのない罪をでっち上げられたので、取り敢えず王太子殿下の性癖バラしておきますわね?  作者: 塵芥


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『3』

ユリウスではなく、ベリタスだった。


 一瞬、彼女の目には涙が浮かんでいたように見えたが、すぐに冷たい光を宿し言い放つ。


「いや、無理だから。なにこれ、普通じゃないでしょ……」


 その声はやけに低く、瞳にはかつての甘さや憧れは微塵も残っていない。軽蔑と嫌悪を滲ませた視線は、まるでパバートを突き放すような棘を宿していた。


 だがそれだけでは終わらせないと言わんばかりに、ベリタスは冷た言葉を投じる。


「私、皇太子殿下がこんな“変態”だと思いませんでしたわ! こんな屈辱耐えきれません。婚約の件は丁重にお断りさせていただきます!」


 冷たく言い放つと、彼女は両腕を抱えながら、まるで穢れたものから逃げるように踵を返す。


「いや、べリタス! ちょっと待ってくれ、誤解だ!」


 パバートは慌てて手を伸ばそうとするが、ベリタスの視線は、まるでゲテモノを見るような不快が滲んでいる。


「近づかないでこの変態!」


 瞬間、周囲の貴族たちが再びざわめき始め、密やかな囁きが広がっていく。


「まさか皇太子殿下が……」


「あんなものを晒されたのです。普通の神経をしていれば、この世界でやっていけないでしょうね……」


 完全に孤立したパバート。だが、地獄はまだ終わらない。


性癖暴露という打撃に加え、ベリタスの拒絶という痛烈なカウンター。その結果、彼の身体は明らかに場違いな反応を示していた。


 ユリウスは、それを目にし嫌悪感たっぷりに眉根を寄せる。


(穢らわしいですわね)


 場違いな“それ”がピンと張り詰め、一斉に向けられる驚愕の視線。


「まさか、あのような屈辱的な内容で⁉」


「嘘……ですわよね?」


 貴族たちの間に、明確なドン引きの空気が流れる。


 それはもう、取り繕いようのない致命的な“証拠”


 一方で、パバートはソレを隠そうと必死だが、その動作が逆に不自然さを際立たせていく。


 どう考えても、ここから挽回する手立てはない。彼女は冷静に状況を見定めながら、扇を閉じた。


(ふふっ。かなりお下品ではありますが、滑稽ですわね。こんな時、なんというのでしたっけ。確か――)


 ユリウスはそこまで思考すると、口角を僅かに上げ小さくポツリ。


「……ざまあ」


 嘲笑じみたその言葉。だが、それはパバートには届かない。

 しかし、問題が一つ。


「ユ、ユリウスお前は私のことを見捨てたりは――」


 多分だが、彼はベリタスに捨てられるとは思っていなかったのだろう。パバートの考えることなど何ひとつわからない。


 ――いや、わかりたくもないのだが、きっとユリウスに恥をかかせ、自分は高みの見物をしようと目論んでいたところ、まさかの彼女に嵌められてしまった。


 それは即ち恥でしかない。だからこそ、これはただの茶番だと周囲にアピールしたかったのだろうが――ユリウスは呆れ果てた。


(……まったく、この男の厚顔無恥さには、呆れを通り越して感心すら覚えてしまいますわね)


 これほどまでに醜態を晒したというのに、懲りるどころか厚かましく縋りつくなど想定外。


「はあ……仕方ありませんわね」


 その言葉でパバートの瞳に一瞬だけ希望の光が宿る。


「ユリウス、お前だけは私を見捨てないと信じてい……」


 だが彼が言い終えるよりも早く、彼女は近くにいた男性の腕を取って、優雅に微笑んだ。


「私、この殿方に一目惚れしましたの。ですから婚約破棄でよろしいですわ」


だが、それは表面のみ。内心では酷く辟易としていた。


(……ほんと面倒ですわ)


 この国では、女の言い分が通りにくい。ユリウスのような高貴な令嬢ですら、婚約破棄を成立させるには、次の相手を示す必要がある。


(ひとまず、お相手は適当ではありますが、後ほど理由を付けて正式な婚約にもっていかなければ問題ないでしょう。予定通り、これでこの茶番も終演ですわ)


 内心で、安堵の息を漏らしながら、くすりと不敵な笑みを浮かべる彼女。


 すべてはユリウスの思惑通りのはず――だった。


 しかし、彼女は致命的なミスを犯してしまう。


ユリウスが選んだ次の相手は――黒髪に赤い瞳を持つ冷酷な悪魔、トワ・レイヴン。


彼はこの世界でも非常に珍しい、赤目を持つ大貴族でありながら、不穏な噂が絶えない存在。


 ユリウスは腕を取った相手を確認しようと視線を上げ――内心で苦々しく呟いた。


(これは……少々よろしくないですわね)


 背筋に冷たい汗が伝うのを感じながら、彼女は眉根を寄せたい衝動を抑え、トワを訝しげに見つめた。


 瞬間、会場の空気が凍りつく。ざわめきが波紋のように広がり、貴族たちが息を呑む気配が肌を刺した。


「まさかの赤目の悪魔に一目惚れだと⁉」


「そんなことがあるのか⁉ いや、あのユリウス様がなんの考えもなしに言うとは思えない」


「きっと本気なんだろう。ここは応援するべきなのか?」


 誰もが驚愕しながら声を潜める中、トワは冷たい視線をユリウスに向ける。


「お前、私が誰かわかっているのか?」


 その声は低く、隠しようのない不快感が滲んでいるように思えた。


 だがユリウスはユリウスである。


 彼女はにこやかな笑みをトワに返すと、何の迷いもなく彼の靴先を軽く踏みつけた。


「知りませんわ。ですが、話くらい合わせていただけませんこと?」


 そんな彼女の態度に、トワは小さく呆れたような息を洩らすと、ぶっきらぼうに言い捨てる。


「はあ――。そういうことらしい、諦めておけ」


 それを聞いたパバートは、この状況が自分にとって不利だとようやく察したのだろう。引きつった笑みを浮かべ、負け犬のようにそそくさと会場を後にした。


(……一応これで一件落着、でいいのかしら?)


 ユリウスは小さく息をつくと、チラリとトワへと視線を送る。


 そんな彼もユリウスを見つめていたらしく――視線が交わったかと思うと、トワは微かに唇を歪め耳元で囁いた。


「近いうちに改めて話をしよう」


 その淡々とした低い声に、ユリウスは思わず息を詰める。


(この私が、まさかこんな失態を犯すだなんて……)


 彼女は内心で小さく唇を噛むと、そそくさと会場を後にするトワの背中を見つめるのだった。


 ◇


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