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謂れのない罪をでっち上げられたので、取り敢えず王太子殿下の性癖バラしておきますわね?  作者: 塵芥


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28/34

『28』


 六日後。


 青々と澄み渡る空に、高く舞う鳥たちの影が小さく落ち、爽やかな風が頬を撫で――真実を暴くには申し分のない、絶好の告発日和。


 そんな中、ユリウスは普段より少しだけめかしこんで準備を整えると、馬車へ乗り込んだ。


 向かう先は、王宮。


 理由は至極簡単。トワと結んだ協力関係の期限となる今日、王家主催のお茶会へと向かうため。


 とはいえ、建前上の婚約者はトワ。王宮へ向かう前にユリウスはレイヴン家に足を運んだ。


(今日が協力関係最終日、ですわね……)


 複雑な感情を抱えつつも浮き足立つ気持ちを抑えきれず、ユリウスの胸はソワソワと落ち着かない。レイヴン家の門前に到着すると、そこにはいつもと変わらない重厚な空気が漂っていた。


 一方のトワも、門の向こうに彼女を見つけると、いつも通りのゆったりとした歩調で近づいてきた。


「ごきげんよう、トワ様」


「ああ、今日は晴れてよかったな」


 そんな会話を交わすトワもまた、普段より少しだけ身嗜みを整えていた。


 髪の流れも綺麗に整えられ、衣装も微妙に気品が増している。

 

 あまり見ることのない彼の正装姿。


 ユリウスは、微かに顔を綻ばせる。


 しかしトワは、どこか不機嫌そうに、まるで拗ねた子供のような問いを投げかける。


「――ところでお前、何故そんなにめかしこんでいるんだ?」


 その声音には、いつものポーカーフェイスは影を潜め、自分でも制御しきれない感情が滲み出ているよう。


(どうしてそんなにムッとされていらっしゃるのかしら?)


 ユリウスは内心で首を傾げつつも、自然な挨拶の延長としてさらりと返した。


「淑女たるもの、身嗜みには気を使わねばなりませんから。特に王族からの招待となればなおさらですわ」


 トワは彼女の返答に、理由の分からない苛立ちを覚えつつも、“そうか”とだけ返して視線を逸らした。


 だが、その態度がユリウスの悪戯心に火をつけたらしい。


「私にめかしこんでいると言いながら、トワ様だって十分気合いを入れていらっしゃるではなくて? もしかして、本当の婚約者でもお探しになるおつもりなのかしら?」


 皮肉交じりの言葉を放ちながらも、それを口にした途端、ユリウスは胸の奥にズキッとした痛みを覚えた。


(私とトワ様は偽りの婚約者。それを分かっていながら、悲しいなどと思ってはダメよ)


 自分にそう言い聞かせるが、痛むものは痛む。


 彼女は俯きがちに胸元を押さえ、熱いものを必死に堪えた。

 一方のトワも、彼女の変化にすぐ気づく。


(さっきまで悪戯っぽく笑っていたのに、急にそんな顔をするな。……調子が狂う)


 彼は胸にざわつく違和感を覚えつつも、その理由を掴めない――いや、本当はもうとっくに気づいていた。


(……今日で三ヶ月。ユリウス、お前は俺の事をどう思っているんだろうか? お前は俺のことなど興味ないのだろうか?)


 一瞬過ぎる複雑な感情。だが、三ヶ月という期限を決めたのは自分。


(今回のお茶会で、真相が暴かれることになるだろう。そうなれば、俺とユリウスの関係は今のままでは終わりを迎えてしまう。とはいえ、こいつは以前、二度目の婚約破棄など許さないと言っていた。最悪、それで縛り付けるという手も――俺は何を考えているんだ)


 トワは自分の中に芽生えた独占欲を必死に押し隠すように、わざと素っ気ない態度で言葉を放つ。


「うるさい、お前には関係ないことだろ」


 瞬間、二人の間に奇妙な空気が漂い始めた。


 それを察したのか、レイヴン家の従者が二人を馬車へと誘導するように、声をかける。


「そろそろ出発致しますので、馬車の方へどうぞ」


「……ああ、分かった。では行こうか」


 トワは自然な流れでユリウスに手を差し出す。


 ユリウスからすれば、彼からのエスコートなどとうに慣れていたはず。


 なのに――今日に限って、彼女の手は微かに震えていた。


(トワ様は、私のことなどどうでも良さそうですわね……。二度目の婚約破棄……きっと、私はこの先独身を貫くことになるのでしょう。独身貴族――滑稽ですわね)


 ユリウスは胸の奥に疼く小さな痛みを押し殺すように、静かに彼の手を取った。


 その手はひんやりと冷たく、まるで血が通っていないのではと錯覚しそうなほど。それでも微かに伝わる彼の温もりが、彼女の胸をじんわりと熱くしていく。


 馬車に乗った二人は、しばし無言で車窓に目を向ける。


 微かに桃色に染まる二つの頬。


 そんな様子を見守りながら、従者は扉をパタンッと閉じ――馬車は静かに王宮へと走り出すのだった。


 ◇

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