二分のギルド 9
三年の修業が終わり最後の試験が始まる。そしてアッキーとモニカはさらに二分することとなった。
「一緒に半漁人を狩ろう?」
フレンドリーな声とは言い難かったが、いかにも楽しそうな台詞(言葉)である。現実的に言えば戦闘なので苦しく怖いものとなるが余計な事は言わずに誘うと、
「半漁人?」
「オアシス湖の例の化物だな」
「私たちもお手伝いします」
「はい」
「待てプリンシパルとバルバラ!俺たちはアシュリーとセイロンの供養がある。敵は強い、どうするかは話を聞いて決めたい」
「・・・」
アッキーがスカルベの顔を見るが何も言わないスカルベ、全部アッキーが考えろと言う事なのか。
「作戦なんだけど僕たちは前衛攻撃、皆は後衛援護をする」
アッキーは知っているゲーム用語を組み立てて作戦を述べた。
「お前達が倒すんだな」
「うん。コホッはい」
「それでいいのなら手伝おう」
エウロは立ち上がりアッキーの手をとった。
「っ!」
「共に戦う冒険者よ、勝利をつかもう」
そして誓いあう。
アッキーは恥ずかしいのでスカルベの方を見ると、こちらを見ていないスカルベ。何でこういう場面は誰も見ようとしないのか。
「今、支度してくるね」
プリンシパルが言うとバルバラもついていった。
「思い出すな」
エウロが言った。
「・・」
アシュリーとエウロさんが生きていた昔のことを考えているのか。
「いいわよ」
「私も行けます」
「では、行くか」
準備が整った、オアシス湖へ向かう。
モニカたちは昼過ぎにツリーシードに着いた。この街の店のハーブティーが美味しいのでエルフたちは喜んでいる。
休憩も束の間、すぐに森の中に入る。途中モンスターが出現、新しく覚えた魔術を使ったが失敗に終わる、ミスをカバーするためシャティとフィアが弓で倒す。
「練習ばっかりだと、実戦で魔術使えなくなっちゃうのかな」
「それは誤解よ、緊張したんじゃない?」
とシャティ。
「そう?」
「そのための練習です」
とフィア。
「そう・・・よね」
モニカは渋々頷く。
「ところで私たち、ツリーシードでどんな試験をするんですか?」
モニカが不思議そうに尋ねた。
「簡単よ」
「怪しい場所を調べるだけ」
「怪しい場所!?」
それからツリーシードに移動した。森に入ると少し湿り気があったようだ、ゆっくりと草木のある道を進む。主な道は踏み荒らされていて通路になっている。
「はー心がすーっとする」
「う~ん」
手を広げ大自然の力を浴びるシャティとフィア。
「私は自然が多いけど、モンスターもいるから苦手よ」
「私もちょっと」
「私たちは自然が好きだけど、他が嫌いということもない。こういう場所の方が慣れていて動きやすいだけ」
とフィア。
「そこ何か怪しくない?」
「葉がたくさんあります」
「あんまりそういうのは触らない」
とシャティ。
「関係ないでしょ」
モニカは楽天的だった。強い冒険者がいると心強かった。葉っぱをとってみる、そこだけ土が違う色。
「掘ってみるわね」
ステックで掘るとはとんでもないので手で掘ってみた、
「土の中がもぞもぞと動いているわ」
「ピニョ・・ボファッ!!」
小さなシャドースネークが次々と地面から這い出してきた。声をかける間もなく皆、逃げ出していた。
「ぜぇぜぇぜぇ~」
「はあはあはあはあ~」
「だからそういうのは触らないでって注意したのに」
「せっかくだから調べてみようと思って。次は大丈夫、同じ失敗はしない、そうだドローシラさんに会いに行きましょう」
「森の化物と言われた人ね、探しましょう」
シャティがフロートを唱え空に浮かんだ。風はなく辺りを見回すと木々があるだけで視界は緑一色、だから空からは探せない。その時リングブレスレットの音が鳴る。
「チリリン!!」
「いるわ!三本の大きな木の近く」
全員が走る、シャティも下りてついていく。鈴の音がした場所に着いたら、既にドローシラはいなかった。
「はやい、どこに行った?」
とシャティ。
「ドローシラが!」
カタリナが指さす、その方向からドローシラが襲い掛かってきた。
「ウバババアァ!」
「いやああっ!」
カタリナに顔をこすりつけてくる、嫌がるカタリナ。
「きゃあ~、誰か押さえて」
カタリナを離し、シャティに襲い掛かるドローシラ。シャティは手をかわし、魔術を唱えた。
「ワールウィンド!」
旋風に飛ばされ体が空中に上がる、空中でも暴れるが、空振りに終わり力が奪われるだけ。
「あっ」
「ドサッ!」
ドローシラは空中から地面に落ちた。
「ウババウババッ!」
「正気を取り戻していない」
ドローシラが跳びかかったのでかわすと地面に倒れた。フィアはワールウィンドを唱えた。空中に飛ばされたドローシラは地面に叩きつけられた、しかし地面は草むらでクッションの役割を果たしたのか、力を思う様に奪えず暴れ出す。
最終的にモニカが魔術を唱えた。
「耳を閉じて!」
「スリーピングスター!!」
「ウバカアァ・」
眠りに落ちるドローシラ。
・
・
・
「―――」
森にずっといたら気づかない、というのは間違いで森の中によく居たら気づく。
「それで・・この森は朝と昼と夕で違う場所があるの?」
「木が違うとか?」
「木は元々違う、最初は光球の関係かなって思っていたの」
とドローシラが言う。
「違う場所を調べる試験なんですね」
「いいえ他にもある」
「ここで話すより、街に戻って整理しましょう」
街に戻り夕食をとる。話を整理すると怪しい場所で何か起きたことが分かった。そこで夜になってからその場所に向かうことにした。ドローシラは啜る様にスープを飲んでご飯を食べる。余程お腹が空いていたらしい、ほとんど噛まず飲み込んでいた。
「この場所、木の葉の色が違う」
月明かりでは、森の中を満遍なく照らせないのでファイヤーボウで松明を灯した。
「ほんとだー」
「色が違う」
葉の色が青青蒼青青青青。
「駄目どこを探しても何も見つからない」
「ちょっと可哀想だけどモニカ木を折って、枝から特有の香りがする」
「折るってとるの?」
「私がやるわ」
ドローシラが木の枝を折った。
―モニカは“夜の蒼の枝”を入手した―。
その日は街で一晩泊まった。
翌日、朝食を食べ森に向かう。ドローシラは狂うことなく、ずっと大人しかった。笑みを零しご飯を食べていたので顔を見合わせる一行、あまりにも美味しそうな顔をしていたからおかしかったようだ。
「朝はここ」
ドローシラが言う。
木の葉の色が緑緑碧緑緑緑緑。
「葉が違うわよ」
「ここの枝も持ち帰りましょう、ドローシラお願い」
「わかったわ」
―シャティは“朝の碧の枝“を入手した―。
皆と離れてカタリナはモニカに話しかけた。。
「あの葉、月桂樹に似てますね」
「緑と深緑なんてどこにでもあるわよ~」
光球がちょうど真上、昼になる。
「ここよ」
ドローシラが案内された場所に木か草かわからない枝の塊が地面から生えていた。
「みんな、お願い」
ドローシラが引き抜こうとすると、全てが抜けてしまうので一旦待ったをかける。折ろうにもグニャッとなってなかなか折れず、みんな困ってしまった。
「これは、もう使い物にならない。諦めましょう」
「中まで腐ってる」
「は・・・い」
「試験合格!!楽勝ーかな」
「やったね」
街に戻ると、すぐ武器屋に加工を依頼する。この街では木を素材としたものが多く武器は武器屋が加工を行っていた。
「徹夜で弓を作ってほしいの。手間賃は、はずむわ」
「お引き受けしましょう」
夕暮れドローシラと夕食を食べる。食べ終わるとすぐにドローシラは、みんなに話しかけた。
「お世話になりました。これ以上一緒にいると迷惑をかけるから出ていきます」
と言ってドローシラは走って出ていってしまった。その可哀想な後ろ姿を皆見ていた。
翌朝、朝食をとる前に武器屋に行くと弓が出来上がっていた。
「お待ちの品が出来ています」
と武器屋の店主が言う。
「ありがとう、これは加工賃と武器の代金」
「頂きます、これで結構です」
「何、二人の装備品だったの?」
「そうみたいですね」
―アポロンの弓とアルテミスの弓を手に入れた―。
「半漁人いないじゃない」
バルバラが愚痴ると、
アッキーはドキッとした。何か自分のせいのような感じがしたからだ。大きな図体だが小心者でハートが弱いアッキー。ノミの心臓とは言わないが。
「アッキー、そこで立っていろ」
スカルベは、アッキーを餌にして半漁人をおびき寄せる作戦を思いついた。アッキーはオアシス湖の水辺で立ってみた。
「・・・・」
「・・・」
「姿を出さないな」
そこで遅い昼食をとることにした。時間にしておやつの時間だろう。
「さあ、どうぞ!」
プリンシパルがオアシス湖の蒸留した水とギラギラ豆を全員に配る。
「俺はいい」
「何言ってるの?エウロは体力をつけるためもっと食べなさい。亡くなった二人のために」
「2人分もか」
「恨んで出てくるわよ」
「あれから、食欲が出ないからな」
エウロの顔が引きつる。それでも仲間に歩み寄る・目を向ける・気持ちを伝えるために顔を反らさずバルバラとプリンシパルを見た。
「いつも半漁人は出ないのか?」
スカルベがエウロ達に尋ねる。
「何回も出たわ」
「そして商人の被害者が出ている」
「いるにはいるか」
何時間経っても商人はこない、そこでその日は諦め夕食をとって早めに眠った。翌朝の朝食後、アッキーが商人に扮しオアシス湖へ行った。
「安心してくれ、俺たちが後ろで援護する。絶対に死なせない」
「うんっ」
水草を採るアッキー。水を汲むスカルベ。その背後の草に隠れるエウロ、プリンシパル、バルバラ。
アッキーは湖を背にして水草を採った。
「パシャリ」
「ジャボンッ!!」
機を狙っていた半漁人は、少し顔を出してスイスイスイとアッキーに近寄った。そしてアッキーの足首を掴んで湖に引き込んだ。アッキーの体重が重いため手間取る半漁人、それでも水の中に連れ込めば半漁人に有利に働く。
「おい!!」
「ぶくぶくぶく」
アッキーが湖の中に沈んでいく。
「彼、沈んでいるわよ」
「その前に助ける」
後方からは、あまり水の中の様子は見えなかった、反応が遅れた。
「うぶぶぶぶぶっ」
両手で水をかくアッキーは巨体であるから沈むように見えた。だがその脂肪が味方し浮き袋の替りをはたした。
「浮く浮く浮く―」
そういって足掻くもがく。アッキーは修業で体重が減ったことを後悔した。
「スィ――――‥」
人魚のリトルが水の中頃まで泳いで来ていた。
「何だあれは?」
「もう一匹いるわ!」
「あれ人間じゃない?」
水の底から水面に浮かび上がってくるチグハグの波のシルエット、それが調和のある形に変わっていく。
「私が半漁人をおびき寄せるわぁ、奴を倒して」
水面から顔を出した女性がそう言い、水中へ潜って行く。
とりあえず、その話に従うアッキーたち。
半漁人の行く手を阻むよう水中で回り邪魔するリトル。
「邪魔をするな人魚」
「あなたの邪魔なら私の味方よ」
「ならお前が死ね」
「人魚を追いかける半漁人」
アッキーは泳いで水面に上がった。半漁人は、まだこない。
「パシャパシャリ」
「水の上に敵を出せ!!」
アイスウォールを放つプリンシパル。半漁人が氷の壁の上にのり上げるように氷が張った、正にほんの小さな氷島。
「おまえたち、この俺が陸で動けないとでも思ったか!!」
半漁人は、人間の言葉を話す。
アッキーが斧を振り下ろした。
「援護する、遠慮なくやれ」
スカルベが言う。
「ハシャン!」
口から水鉄砲をとばす半漁人、
「ずっ!!」
アッキーは視界が奪われた!
それを狙って半漁人が攻撃を仕掛ける。
そこに!後方から魔術で応戦したプリンシパル、ファイヤーボウの炎矢が半魚人の体に刺さるが水と粘膜によって火が消えてしまった。
「効かない!?」
半漁人が、後方につぶてをうつ。
「キィン、カン、キィン」
エウロがそれを剣で落とす。
半漁人が手を出す。水中ではないので勢いは殺せた。角も立っているので出してこない。
氷の壁の上では揺れて、盾がうまく使えない。
「体で受けダメージを極力おとせ!」
「バサッ!」
「くうっ!」
「ズオッツ!!」
「くうぁっ!」
アッキーは体で攻撃を受け止める、敵の攻撃から急所を外し、出来る限り鎧で受ける。しかし、かなりの痛手を負うアッキー。
「ガッ!ガッ!バサッ!ドッ!ボゴ!」
顔を狙ってくる半漁人、顔を打たれ前が見えなくなった。アッキーは目が腫れているようだった。執拗に目を狙う半漁人に、仕方なく目を閉じるアッキー。
敵の攻撃力が落ちている、そう思ったアッキーは自分の体に異変を感じた。筋肉がついて防御力が上がったことを知る。
「パワーアクス!!」
「バシュッ!」
目を軽く開け、力をのせた斧を振る。それが半漁人の体にあたると少し切れて、血が垂れていた!通じた!
「パワーキル!!」
「スケェン!」
次は斧の端、三角形の刃を当てる、今度は体の鱗か皮膚のようなものが削げ落ちた。
早く動いて!!そう願いながらアッキーは攻撃後に、湖のリトルを見た。
僕と半漁人の接近戦、この間合いから逃げられると一生、リトルがいじめられる!!!
「ディスクストライク!!」
思いも込めてアッキーは回り、半漁人の体を円盤のようになった斧で打ちつけた。トマホークは自重と遠心力で斬りつけるが、こちらは手による力も持続しているので障害物があっても止まることはない。
「ゴシバシボシ!ズプッシ!!」
そげ落とす鱗と皮膚、斬りつけ血が流れるが倒れない。思いは届かず、
「逃げるぞ!」
アッキー巨体だが力の限り氷の壁から跳んだ。スカルベは素早い飛翔で、逃げる半漁人の足を掴む。
「ズブシャ!!」
半漁人の脳天をかち割る斧の重力と体重の両方が斧に威力としてのしかかる。半漁人はから血が吹き出した。
半漁人は、まだ抵抗をみせアッキーの足を掴んだ。アッキーは思わず斧を落としてしまった、斧が湖の中に沈んでいく。アッキーも引きずられ水の中へ。
スカルベが助けに入る。斧とアッキー、どちらを選ぶかは決まっている。飛翔しアッキーの手を掴んで氷の壁まで這い上げた。
「ぷはっ!ふうふうふぅふう~」
「しっかりしろ、よくやったな」
「お前たちは大丈夫か」
「あんなに抵抗するとは執念よね」
「恐いです」
沈む半漁人、湖の底からさっきの人魚が泳いで水面に顔を出した。
「お久しぶりです」
「さっきの女だな」
「何で水中にいるの?」
「尾よ、尾があって足がないから」
「あ、ああ、あなたたちは」
リトルは自分の事を人魚と忘れていた。
「俺たちは冒険者ギルド、ブルーオーシャンだ」
「安心しろ、お前に危害を加えるつもりはない」
「ええ、何もしない」
「約束します」
「それを聞いて安心しました。そしてよく、あの半漁人を倒して下さいました」
アッキーを見る人魚のリトル。
「いいよ。僕はリトルにいじめられるリトルが可哀想だったから」
「こういって彼の方がボコボコにいじめられているけどねっ」
ボソッというバルバラ。
「そう説得力なし」
「フフ!!」
「そうだ!さきほどそちらの方が斧を落とされましたが、もしかしてこの斧ですか?」
金の斧をもっている人魚。
「僕の斧は灰色の斧だけ・」
「ちょっと見てきます」
リトルは金の斧を置いて水中に潜っていった。
「パシャッ!」
「これですか?」
「それだよ、取ってきてくれてありがとう」
「お礼はいいんです。私は今から湖で自由に生活できるんですから。それと正直で勇敢なあなたに、その金の斧を差し上げます」
「え?これ高価なものだと思うけど・・・」
金色だから『素材が金』の斧だと思ったアッキー。
「構いません、湖の底にずっと置いてあって誰も使わないんですから」
「よかったな」
「うん、ありがとう」
こうして試験をパスしたアッキー。
アッキーは自分の体を見た。まさか自分が半漁人を倒すとは、倒せるようになるとは、夢にも思っていなかった。あの時は三、四人掛かりでやっと互角、それが今は違っていた。
この部分はアッキーが活躍する場目で武器も手に入ります。アッキーはリトルと同じ境遇だったから頑張れたのかも。




