二分のギルド 6
ダンジョンに残されたライム達と同じようにモニカたちも修業が始まった。ゲイルたちはライム達に全てを託すため武器や防具、アイテムを集めに。
「・+・+」
アッキーが意識を取り戻すとスカルベは空を飛んでいた。低空ではあるが地上からでは攻撃ができない場所。スカルベが高い上空へいかないのはモンスターがいるからだろう。
「ううっ、くっ」
体を起こすと腹が痛んだ。修業の最中だった、トドメを刺されなかったのはそのおかげ。周囲を見回すと武器と盾がそこに置いてある。
「うぁっ!」
空にいたスカルベが、すぐそこに立っている。
「!?」
スカルベが見つめるもんだから、アッキーは自分の行動を振り返った。だが何もしていない。
「行くぞ」
「はぁぃ」
また防御スキル、ガードの練習再開である。
「ボフッ!バシッ、ガガッ」
アッキーはスカルベの連続攻撃をガードで防いだ。
「自分でガードしろ」
スカルベから指示が飛んだ。
アッキーのガードは一方的に受けるといった感じ。アッキーはスカルベが来る方向に盾を据え、盾の隙間から覗き方向を調整していた。
「カ!」
「――――」
スカルベが、また消えた。アッキーは周囲(平行に)三百六十度、斜めに360度、上に180度見回す。
「はあっ!」
誰もいない、はずなのに前面に倒される、一旦地面に膝が付くとアッキーは無防備になった。すぐに起き上がらるが、既に押された場所には誰もいない。自分の目を疑う、さっきより素早く動かしたが見つけることができなかった。
「うっ」
背後に重心を置いて背後対策はとるが、まさかその背後から攻撃を受けるとは思ってもみなかった。
「お前は足を動かさず体だけ動かすが楽をするな、足も使え。体格で癖をつけるな」
「はっぃ」
「では行くぞっ!!」
前から左回り360度確認、そして右に戻ればこれまでと同じ。そこで左360度回りして一周し、右を見るふりをして左に90度回る。
いない!!だが、そのまますぐに上空を見た時だ、資格の右端に緑の鱗が入った。白黄色の空に緑色が混ざることはない=スカルベの体!
「タタタッ」
その体が見えた場所から遠ざかるように移動し距離をとる。
「考えたな、自分の位置を変えればこちらも条件を変えなくてはならないと。だが接近戦には強いお前は素早さが遅い。なら速く動いて攻撃だ!!」
「ん!?」
盾をしまって、斧を出すアッキー。
「それで受けれると・・破れかぶれか」
アッキーは癖を意識し足を動かし全体を見回す。それも素早くスキル振回を使い、
見つけた!
スカルベをとらえた。動く視界の中の緑色の伸びる影が一ヵ所。武器を持つことで振回のスキル発動条件を満たした。普通に足を動かし回るよりは、ずっと早い回転。
スカルベが速攻する!!
急いで盾を出しカードするアッキー。
「・・・カタッ」
遅い、アッキーの胸にスカルベの手があたっていた。首を傾げるアッキー、
「もう一度、目で捉えろ」
寸前の所でアッキーに攻撃をせず止めたスカルベ。
「はぃっ」
少しずつだがアッキーは進歩していた。
「アクアウェーブ、レインコール、アシッドレインは使用可能だけど、ウォーターガンとウォータースプラッシュの二つは唱えられないのね。苦手な魔術は練習するしかない、さあウォーター二種の練習開始!」
楽しそうにシャティはモニカに言う。
「わかりました~」
「ウォータースプラッシュ」
日頃、試して唱えるウォーターガンを避け、ウォータースプラッシュから練習を始めたモニカ。
「・・・・!?」
何も起こらない。もう一度詠唱するが、
「ウォータースプラッシュ」
反応なし、発動の兆しすらない。
「ウォーター、ウォーター、ウォーター、ウォーター、ウォーター・・」
何十回、何百回ウォータースプラッシュを詠唱をしても丸みを帯びた水が地面に現れず、声だけが魔力消費されたように掠れていった。当然魔術として成立していないから魔力の消費もない。
「はあはあはあ、何でぇ何で発動しないのよぉ・・」
「相反する魔術で火が得意だから水が苦手になるの?そして火の精霊に好かれれば、水の精霊には嫌われるの」
モニカが呟いてシャティの方を見ると、
「・・・」
首を横に振っていた。
「これならどぉよ」
と詠唱する。
「ウォーターガン!!」
何も現れず・・。
モニカはこの日、水魔術の練習で終わった。
「ヒーリング!!」
「淡い靄が見えますけど、形にして表現できません」
ビショップスタッフから黄色の光がフィアにおりた。その黄色の光を注ぐ者は小さくて手から光を零して癒していた。
「私も一緒よ、見えたのならそれでいいんじゃない?」
「そうですね」
和気藹々とした雰囲気、爽やかなフィアとカタリナ。
その日修業が終わると、街に戻り夕食、体を洗い宿屋で眠った。
四日目以降、
ファーストを売ったゲイル達が街の護衛と外のモンスター退治、リコルチェの治療をする中、早くも新しく装備品が作られた。すぐに武器屋で売られていたが一つ何万Goldもするレア物でファーストを売ったゲイル達でさえ、その値段に引いた。
しかし、家一軒以上の値段でもゲイル達はロンドナイフ、蝶紋の錫、紅蓮マントを手に入れた。ファーストのガラス玉の割れた破片で作られたマントは縫い込める一着分だけらしい。
「これでは装備品が足りないな」
「武器と防具とアイテム、三パターンを八セット揃えなきゃいけないんでしょ」
「ダンジョンは素材が落ちないし」
「モンスターから髪をとっても消えるからな。でも武器や中の鉱石、他で消えずに持ち帰れるものが稀にあるだろ」
デメグラムは戦士ながら魔術師並みの賢さだ。
「リコルチェはどう思う?」
「ごめんなさい、思い出すと頭が痛くぅて・・」
過剰なストレスが原因か、頭の血管が浮き出る。
「その話はやめよう」
ゲイルは話を止めた。
ブルーオーシャンが戻ってから街の図書館にはこう記されている。
『ダンジョンに行く冒険者は五階層以上には行かないこと』
『上位十位以内でも十階まで』
『十一階層からは想像を超える敵が出現、絶対入らないこと、死が待つ場所』
モニカは、シャティが魔術書に基づいてお手本を示した。実技と筆記が揃うから習得スピードが桁違いに上がった。
「魔術は失敗すると仲間の命を失うことがあるから、そうならないためにも余裕を持って使うのよ」
「余裕ですか」
モニカは朝からずっと魔術を練習した。言われたら、すぐに魔術を詠唱し放つ。そして魔術と魔力消費が合っていたら次へ行く、出来なかったら同じ魔術を練習する、それを毎日続ける。
カタリナを見守るフィア、どこからかヒビアゲルがやってきた。
「おおフィアさん、探していました!」
「どうしたのヒビアゲル」
「用がありまして、そこの彼女は?」
「カタリナよ、力の存在を感じる練習をしているの。それより魔術師の私がヒーラーに教えてるなんておかしでしょ」
ヒビアゲルに説明するフィア。
「いえ、それで霊は見えるようになりましたか?」
「少しだけ」
「それはよかった、見せてもらえますか?」
「はい、それではいきます」
「ヒーリング!!」
「むうっ」
ローブで目を覆うヒビアゲル。
「まだ光が弱いようですな、さあもう一度」
「弱い?」
「輝きで威力は変わりませんが、霊神がより具現するのです」
「へぇ~」
フィアとヒビアゲルは少し離れた。
「ヒーリング!!」
「ヒビアゲル、あなたのより輝いていない? 」
「むっ、輝いているというより濃い色があるのかもしれません」
「濃い色・・・カタリナはお姉さんを探しているそうよ」
「その思いが届いているのかもしれません」
ダンジョンに残った三人は、
ゆっくりと休み休み俺は剣を振るったがヴィンスさんは何も言わない。同じナイトでも理解してもらえた。
「はぁっ・・・」
間違いなくナイトだろう。
「はぁぁっ」
そして、今に体力もついてくるはず。
「はぁっ・・・」
何回も気を失い起こしてもらう。
「やあっ、やあっ、やあっ、やあっ、や・」
とうとうエルドラの鞘を持つ手が止まった。そしてしゃがみ込み休んでいる。腕が上がらないのか、動作だけでも大変だからな。
「ヴィンスさんは一定の速さでずっと素振りを続けている。ヴィンスさんだけの修業といっても、もはや過言ではない。
昼食をとり、午後を過ぎて落ち着かなくなった。
「どうしたんですか?」
俺は手を止めたかったので尋ねた。
「今日で食料が全てなくなってしまう」
「え~っ!!」
エルドラがわめく。
「うえぇ!!」
俺も唖然とした。いっそ、テントさんに開拓してもらえばいいんじゃないかと考えたがダンジョンマスターは間違いなく破壊するだろう。
それでもゆっくり本当ゆっくりと剣を振り、修業をした。修業が終わると食事、就寝、あっさり三日目が終わる。
その翌日食事なしで練習。自分たちではこの崖は降りれないので待つだけ、ただ信じて待つしかない。体力温存のため修業をやめればいいのに修業をするヴィンスさん。
「お前たちは休んでいろ、俺は食事なしで構わない」
昼過ぎに話声が下から聞こえてきた。ホパーのギルドである。嬉しかった、彼らは恰好良く俺の目に映った。
「おお、ホパー待っていたぞ」
ヴィンスさんが汗と灰で汚れきった体で抱きついた。
「うゎあ、やめて下さい。わっかりましたから!」
抱かれるまま上を見て叫ぶベスコ。
「何だ、どうした?」
「ヴィンスさん、体がくさいんですもん」
「カラッ・・・」
「ん、そこに誰かいるのか?」
崖の底、少し下った岩の階段に隠れている人がいた。こちらに存在が知られたので上がって歩いてくる。
「はじめまして・私ぃイラストマイガと言う、ちょっと男と汗が苦手な魔術師です」
何か地味でたどたどしい話し方だ。
「こいつと二人できたんだ。あとの仲間は下だ。これまでもいたが、そこに隠れていてさっ」
「そんな遠慮するな、ほらこい」
ヴィンスさんは寂しかったのか誰にでも親しくする。
「えええ、えーーーーーっ!!」
イラストマイガはジャンプして灰地の中を逃げていった。
「どうしたんだ?」
「だから男が苦手だって」
「おーい、イラストマイガー!!」
ベスコが走り追いかけていく。
「はぁはぁ、それより皆さん体を洗いましょぉ」
イラストマイガは体を洗うことを勧める。
「そうだな」
そういって移動したヴィンスさん、俺たちもついて行く。
「どうしたら、そんな臭くなるんです」
「修業だ」
「んぅうんん、いいから体を洗って」
レインコールの雨だ、俺たちは体と服を洗った。
焚火を用意しているベスコ。
「木々もバッチリ拾ってきたぜ!」
「ありがとうございます」
体と服を乾かす三人。
「よぉーし、これを受け取れ」
「報酬ですね、それではこちらもこれを」
「ドサッ・・」
布袋の荷物を受け取った。
「帰ったらすぐにまた来ます。少なくとも四日後になるかと」
「コホン、助かったぞ」
「ありがとう」
「お、俺は飢えで死ぬかと」
はにかみ手を振るベスコたちは崖をフロートで下りて行った。エルドラも手を振ってお見送り、エルドラ腕上がるじゃん。
それから何度も食料を運んできた。一緒に木々やサンドタオルなど生活必需品も持ってきてくれる、俺たちは素振りを毎日行った。
十日目、毎日が疲れと飽きと寂しさの中で気が重くなる。剣を振り下ろした時は良いがそれ以外は項垂れてくる。
色んな人、物、音、光、空気、匂いのない環境の中で修業をしていると、静けさで気が滅入る。好奇心がわくこともなくつまらない毎日。バイトなら揚げ物があってスパイシーな匂いがして、ピンポーンとかピッとか音が鳴って光って数字が表示された、懐かしいなぁ。有機的なものが絶たれた、このフロアが怖く重く暗かった。
「ライム、しっかりしろ」
そう言われても元気が出ない。
「僕つまんない」
「エルドラまで困ったなぁ」
顎に手をやりヴィンスは困っていた。
「同じ修業ばかりだが、毎日やればものになる。それを信じてあと二十日頑張れ!!」
ヴィンスさんは俺たちを応援した。
「うーんーん」
俺は下を見て首を振った。
「僕もこれ以上はできない」
「帰れないぞ」
そうだ、俺とエルドラは止める事を諦めた。つまりやるんだろうけど・・。
二十日目、
「よく頑張った」
「俺二十日もよく続いたなと思います。あと十日やってみようかな、そんな気持ちが起こってきました」
終了間近になると俺は心が変わった。
「僕ももう少し素振りしていいかなと思う」
「やる気が出るのは俺は嬉しいぞ。お前たちの指導者だからな」
ヴィンスさんが笑って喜んでいる。それも何か怖い。
三十日目の朝が来た。
「やったー、一カ月頑張れました」
「やればできると信じていたぞ」
「僕も三十日間出来た、うわぁ~あぁ」
駆けずり回り喜んでいる。
そういえば振る音が変わってきた気がする。それとエルドラが動いて一度斬ってしまいそうになったが、目で見えたから剣を止めることが出来た。剣を振り下ろすと剣の動きを目で追うのでそれより遅く、大きく、色がはっきりとして目立つものはよく見えた。動体視力が鍛えられたからなのかもしれない。
「もう戻るんでしょう?」
「いいや」
目を合わせないヴィンスさん。
「ならヴィンスさんと戦う修業ですか?」
「僕もヴィンスさんと戦いたい!!」」
「そうだな、素振りだ」
「ドテッ・・」
前のめりになり、こけてしまった。
「何で何でヴィンスのおじさん」
体を揺さぶるエルドラは駄々をこねた。
「そうだな、修業だからだ。エルドラはどう思う?お前は俺より強いか?」
「強いよ、ミノタウロスを倒したから」
「そうだな、攻撃力と速さならな。だが体力や忍耐、精神力といったステータス以外のものでは俺は負けはしない」
「う~ん、必要ないんじゃない?」
「お前はもっと強くなる。それからライムと対戦してやってくれ。先にライムとは俺が戦うがな」
「僕もう疲れちゃったよ」
「俺も、一度戻りたいな」
「ダンジョンマスターは弱点を突くだろう。それが弱点だと俺は思うぞ」
「う~ん」
この出られないフロアでエルドラは戸惑っていた。
「----」
どうなるんだろう俺たち。
「我慢してくれ」
そして素振りの修業の日々が続く。
修業の日々をもっと深く詳細に描きたい。修業があって強くなるから難しい。




