第28話 二分のギルドそれぞれの修業
十階層で一晩野宿した三ギルドは、二つに分かれる。一方十階層に残ったライムたちはヴィンスの指示の下、基本から修業を開始した。
ゲームの方でモニカさんはリーダだった。次に会う頃にはモニカさんがテリーヌのリーダーになっていたりしてw。
「こらライム、ぼけっとするな!お前は唯一ダンジョンマスターに勝てる男かもしれないんだぞ。今日から俺の技術を全てお前に叩き込むぞ」
考え事をしていた俺に活を入れるヴィンスさん、厳しそう~。
「よかったね、お兄ちゃん」
エルドラが俺の方を見て言う。このガキは人の事だと思って。俺は、ヴィンスさんのやる気のある顔を見て抵抗不可避を悟る。
「それでヴィンスさん、修業は何日位やるんでしょうか?」
「それは俺の方で調整する、お前は修業だけに専念しろ」
「はいぃ」
どれくらい辛い日々が続くのだろうか。
「ライム、お前は剣の型を練習だ。まだ攻撃する時、剣の重さに体がついていかないようだ。剣を振ると体がもっていかれるから正確に技が入らない。この前の修業が全然活かされていないのは、まだ修業が足りない証拠だ!」
「はいっ」
ヴィンスさんは戦いに慣れていた。そんなナイトに俺はマンツーマンで再び教わるわけだが、ダンジョンマスターに唯一勝てる男だなんてプレシャーがかかるな。
「こうやるんだ、俺と同じ型をやってみろ!」
ライムの隣に立って真剣に言うヴィンスさん。
「はいっ」
俺はヴィンスさんと同じように剣を構えた。
「これでいいですか?」
「そうだな、ここは引いて。ここは、もっと背筋を伸ばせ!」
と体の首やら背中やら足やらに手を当てる。
「よし、そのまま素振りを始め!」
「はっ!はっはっ!はっ!はっ!」
一定のリズムで基本の(斬)キから修業が始まった。
「ライム、腕だけでなく体も動かせ」
「はい?手だけではないんでしょうか?」
「足を前にだし剣を振り下ろす。剣を上げ後ろに下がり、また前に出て振り下ろす。この繰り返しだ!」
「はいっ!はぁーっ!はぁーっ!はぁーっ!はぁーっ!はぁーっ!」
基本の歩もあるようだ。
「もっと顎をひいて剣をしっかり持つ!重心は移動するんだ!」
「はいっ!ふぅふぅはぁ~っ。はぁーっ!はぁーっ!はぁっ!」
「今度は剣が振れていない」
剣か、俺の頭の中では剣を振ることを考えていたので、てっきり振ったと思い込んでいた。
「はい。せぃあーっ!せあっ!せぃっ!せあーっ!」
「うむ、まだ気合が足りんぞ!」
ヴィンスさん、気合いだけでは出来ませんって。
「まだまだ!おっ、そうだ忘れてた、俺がお手本を見せないとな。エルドラもほら、一緒にやるぞ」
「う、うん」
エルドラも焦った。まさか自分も修業になると思っていなかったみたいだ。これじゃーどっちが上位のギルドか。年齢による経験はヴィンスさんの方が遥かに上だ。
―――それから何時間かして、
「はあっ、もう出来ない!!」
疲れからか俺の腕はかたくなり、修業を妨げた。
「ああっ!せぃあー!」
限界でも腕を足を動かす、ここで止めたらダンジョンを攻略できない気がするから。
「ねぇ~、ライム兄ちゃん」
「な、なんだよ」
「僕ねぇ、ここでさー毎日、悩んでいたんだ」
とエルドラ。
「どうしたエルドラ?」
何か緊急の話か?
「・・」
ちらっとヴィンスさんの方を見て話をやめたエルドラ。
「ライム、腕は止めるな!」
「はい。せいぇっ!せいっ!せぇっ!」
それから、ずっとこの練習が続いた。
―――
もうダメ~、限界だ。全身汗だくで火照り、力がぬけて出てこない。完全に体力を消耗したようだ。
「なら、ここいらで昼食にするか」
助かった~、酸素不足で意識を失うかと思った。
昼食はいつも水分をとる。チェルルという黄色い液体だった。瓶にフィアと書いてある、手作りのジュースだ。なるべく手を使わないで飲む。
ん~、これは未熟なチェリーの香りかな、味は少し甘く、塩みと苦みもあった。
エルドラは元気だった。ドラゴンエルフだったら疲れないのか汗もそれほど流していない。ヴィンスさんは体を屈伸しながら、まだ動いているw。
「ヴィンスさん、午後からも同じ修業ですか?」
と俺が尋ねると、
「嫌か?なら俺と一度組んでみるか。その後は、また素振りだ。これを毎日続けるぞ」
「僕は見学してていい?」
「エルドラは見学で構わん、だが素振りはエルドラもライムと一緒にやってもらうぞお」
「え~、面倒くさそう」
「サボりはだめ・だ!」
「・・・・ちぇっ」
「鞘で打ち返すが、俺からは手を出さない、さあどこからでもいいかかってこい!」
自然体でヴィンスさんは立っている。
俺は鞘を持って構えた。ここにヒーラーはいない、鞘で攻撃しても致命傷は負わないと思うが万一に気を付ける。
背後から仕掛けるか、マントが死角の役割を果たすはずだ。
「せぁああっ!ダダダダダッ・・」
「パシィィッ!ブンッ!・・・・・・カッカッカッン!」
背中に回り振り下ろした鞘は俺の手を抜け飛ばされていた。何とまあ、背中にも目がある様に的確に返されたぞ。
「武器(鞘)はしっかり持て!気合を入れるため声を出すのは良いが、自分の居場所を教えているようなもんだぞ」
「気をつけます!」
「もう一度だ、どんな手を使ってもいいぞ。汚い何てことは、まだ考えるな」
汚くてもいいのなら、俺の得意な方法で行かせてもらう。鞘で叩くんだから目に入らない様にすればいいだけ、
「うりゃあっ!」
「だから・・」
「バサッッ!」
俺はヴィンスさんに砂を一握り投げつけた。さっき鞘を拾いに行った時、掻き集めた砂で風化した岩から簡単にとれた。
「おまっ・・うわっ!」
目つぶしを喰らったヴィンスさん、目が見えない。
「ブンッ・・」
俺は鞘をヴィンスさんの頭上から肩に振り下ろした。
「バシィーン!!――――――カタッ!カラララッ・・」
「ええっ!?」
完璧に決まったと思ったのに、また鞘を弾かれた!
「古い手だなライム、俺も昔よく使ったなあ。戦闘で砂を投げるのはいいんだが、それだと地形によっては使えない。砂を投げ、鞘を振る、攻撃するのが見え見えなんだよ。せっかくの一刀だ、棒に振るようなことはするな。俺ならもう一手加えるか、間を置いて攻撃する」
行
間が重要らしい。
「ヴィンスさんはどうやってかわしているんですか?」
「それは空気の流れだ。人間には癖が呼吸がある、その流れが分かると、お前もかわせるようになるぞ。お前は攻撃前に息を吸う、そして攻撃後に吐く」
「は、はは」
それで勝てなかったのか。
「さあ、続けて打ってこい」
「いきます」
それから・・・。
「らあっ!らっ!たあっ!うあっ!」
考えられる限り、あらゆる方向から、攻撃を繰り出したがそれでもかわされた。それならと技を使い、さらに鞘を持つ位置を変える。
しかし、その攻撃は全てかわされたのだった・・。
「はぁっはぁっはぁっはぁっ、何で当たらないんだよ」
「たぁ~っ!とぉっ!やぁっ!」
「ライム、そんな棒読みだと一生俺に当たらんぞ」
俺の攻撃は単調で読みやすいってことか?
「はぁ~、だめか。はぁっはぁっはぁっはぁっ」
俺はバテて地面に伏した。
「お前は、まだ俺に触れることすらできないからエルフとの戦闘はお預けだな。
風の流れみちだ、その風が遮られ止まったり温度や流れる風の変化、それを体で感じ取れれば、まずは合格だな」
ガサツそうなヴィンスさん、実は風流で繊細なのか。
「風の流れみち・・」
「はっはっは!初日からできるやつはいない。今は俺の姿だけ見ればいい」
これが初日ではない、慰めにもならず俺は落ちこんだ。
それからつまらない素振りを始めた。またこれを何時間もするのか、その先に何があると言うのか。
仕事でも毎日レジを開けたり操作したりお金を取り出したりして早くなったな。考えなくても動けるというか癖になっていて早くなるのだ。無意識行動や条件反射というものか、俺は言われたことを信じて、いつ終わるか分からない素振りをする。
――――。
「ライム」
「・・・」
剣を振るう力に全てを注いだから声が出ない。
「黙ったまま聞いていろ。こうやって基本的な修業をするだけでも、実はレベルは上がるんだ」
「本っか!!」
声が出ない、そんなことがあるんだ。
「俺がデメグラムと戦闘さながら修業をしていた時、攻撃ダメージが増えることに気づいた。ダメージが増えたのなら、どうなっているのか調べたら偶然上がることを知ったんだ」
「ヴィ、ヴィンスさん。それってメニューで確認できますか?」
「もちろんだ」
更新で起こった設定なのか?ゲームでも修業をすると経験値が入るものがあるなと思った。
「修業中のどこで経験値が入るのかは俺も知らん、まとまって入ることもあるしな。それを知るのは至難の業だろう」
「モンスターを倒すのと、皆さんと修業、どちらが良いですか?」
「その選択の答えは簡単。お前はモンスターと十分に戦ってきたから俺達と修業をする方が良い。基本の型を身につければ応用ができる。剣でも狙った場所に当たらなければ威力が半減する」
「はぃ」
弱点や急所が分かっても、きちんと当たらなければ意味がないから基本をしっかり身につけることが大事だろう。
それに俺の前にはヴィンスさん、さらにはエルドラがいる。この2人と戦うのはフロアボスに挑んでいるのと同等である。
「ライム、まずは素振りだ。それが終わった、お前が身につけたい技を練習する。分からないことがあったらナイトの俺が身に付くまで教える」
「はいっ」
ゲイルさんが使った光球斬りはオリジナル技、礫を投擲する目つぶしは邪道技で環境に左右される。残るは素振りか・・。
「はあっ!はぁーっ!はっ!」
「続けて」
「はいっ」
やるべきことがたくさんある、俺がどうなるかで違ってくるんだ。
「はぁっ!せあっ!たぁっ!ふっぬっ!はぁっ!」
そしてヴィンスさんが一度用を足しに行った時に、俺はエルドラに話しかけた。
「さっきは話しかけてやめなかったかエルドラ?さてはお兄ちゃんと遊んでほしいんじゃないか?」
まだ親元を離れるには早すぎる、淋しいから俺に甘えたい・相談したいのではないかと思った。
「僕、不安で」
「ほら、こっちにこい」
俺は手を差し出した。
「でもエクセアの皆と出会えて、ちょっとずつ不安がなくなっていった」
こないのか?そうか、こないか。俺は子供に好かれないタイプらしい。
「ライム兄ちゃんたち、他に同じ世界の人は見つかった?」
「見つかったぞ、カタリナ一人だけだが」
最初から街にいたが、俺たちは気づかず殺されかけた。
「ふぅーん・・」
「そう聞くのは、お前も探したいのか?」
「探す方法が見つからないんだもん」
「異世界人は知られたらまずいからな」
お前は賢い!どちらの世界の人にしろ千差万別十人十色だ、気にするな。
「じゃあ何で悩んでいるんだ?」
エルドラの表情は曇っていて、まだ落ち込んでいた。
「僕、スカルベさんに言おうと思ってるんだ」
「それは危険だ」
俺はエルドラの肩を掴んだ。
「だ・・・めぇ~?」
ゆっくりと見上げるエルドラ。
「だってだぞ、モンスターみたいに捕まって檻の中に入れられるかもしれないんだぞ」
エルドラの目は、ドラゴン族かエルフのものだが幼い子供の目をしていた。
「そんなことしないよ」
エルドラは子供でメンタル面で弱いのかもしれない。生まれ持った精神年齢はこちらに来ても引き継がれるから。
「お前は信用できるだろうが、俺たちは疑念がある。お前が言うと他の奴も探すだろ」
「そうかな~」
「せめてダンジョンを全て攻略するまで待ってくれ」
子供はダメと言っても言うことを聞かない。
「わかったよ」
ふて腐れることはなかったが、ちょっと不満がある答え方だった、エルドラは頬を膨らませた。
「さあエルドラ、ヴィンスさんが戻ってきたぞ」
「修業だね」
「そだった」
また、修業の時間だ。話していて気づいたんだが、エルドラは俺と二人で話す時“ライム兄ちゃん”と呼んで呼び捨てにしない。密かに俺を慕っているんじゃないかと思って嬉しかった。
「どうだ、お前達やっていけそうか?」
「いけません!これまでの負担の二倍ありますよ~!!」
「ふははっ、頭で余計な事は考えるな。ただどう振るかだけでいいんだ」
「僕はできるよ、楽チン楽チン♪」
頭の後ろで手を組むエルドラ。体重が軽いのかな?
「エルドラ、ちょっと体を持ちあげさせてほしい」
「いいよ」
俺はエルドラの脇の下に手を入れ持ち上げた、結構体重があった。エルドラは小麦のような子供の匂いだった。
「僕どうだった?」
「一緒だった」
「うむ」
そして、また修業再開した。
「さーて暗くなってきた頃だし、今日は初日、これくらいでいいだろう」
はぁー、もう死ぬ~・・・。
「おいライム、しっかりしろ~」
俺を手で撫でるヴィンスさん、やめて動かさないで~。
「ライム、起きろ!」
といって伏した俺の体に馬乗りするエルドラ。お前絶対後でお仕置きだ。
「パタリッ・」
顔が地面についた。
「あっ、死んだ・・ 」
夕食の時間の事、
「これからここで修業をするわけだが一日の感想を聞かせてほしい」
「一日素振りで自分の体力がわかりました。これから続けられるか分かりませんが、よろしくお願いします」
「おいおい、もう根を上げるな。エルドラはどうだ」
「僕は楽しかったな」
「言ってくれるなぁ」
「他はないか?」
ない。
もう誰も喋りたくないと思う、掛け声だけでも何百を超え何千も言った気がする。
「ないなら食べよう!」
「はーい!」
俺たちは夕食後休憩、軽いストレッチをして就寝の準備をする。スプレッドクローズの上にサンドタオルを敷く。みんな置いていったのでたくさんの毛布があった。
「最後の修業は明日まで疲れをとることだ。いいか・・・グーグーグー」
「早っ!もう寝たのか?」
「おやすみライム」
「お休みエルドラ」
この二人とこれから何日もここで一緒に寝るんだろうな。
はっ!!?これは女のサンドタオルじゃないか?こんな貴重なものが!うっしっしぃ、あ~いい香りだ、これ一体誰のタオルだろう。俺の頭を悩ますかと思われたが疲れた体は睡眠を選択した、スゥ・・・・。
基本は文武両道、ヴィンスさんがライムに体で教え、その中で基礎的なことを話します。




