迷宮ラビュリントス 4
迷宮で罠にかかる三つのギルド一行、そこに待ち受けていたのはミノタウロスだった。準備なしで余儀なく戦闘に突入、無惨にもアシュリーが殺され・・・。
力尽くで俺はカタリナを持ち上げた。
「お前は、まだ生きているんだ。カタリナ、アシュリーの分も生きてくれ!!」
俺が掴んだ肩は震えていた。そしてカタリナは自分の足で立つ。
「みんな、目を伏せて!!」
「照らせ、月の光!!」
「ライティング!!」
リコルチェがミノタウロスに魔術を放つ!
ミノタウロスは目を背けるが巨体が邪魔をしてライティングは目を焼くまでの効果は発揮しなかった。失敗は失敗の元、ミノタウロスがリコルチェに襲いかかる!!それを見たエウロはダッシュして間に入った。
これまでは簡単に進めた、何かのイベントのように順調にやってこられた。
しかし、このフロアは簡単に抜け出せない迷宮だった。いま考えてみれば、お宝(火が入ったガラスや金の岩)がある時点で罠に繋がる伏線が張られている可能性に気づいてもよかった。
俺は何を考えていたんだ。既に俺たちの生死は答えが出始めていた。アシュリーがやられた時点で。そしてこの後の全員の死亡フラグは見えている。
それでも俺は諦めない!仲間を守り、元の世界へ戻る!!
「全員で一斉に逃げませんか?」
一か八の選択肢、これなら何人か犠牲になるが助かる可能性があるかもしれない。
「それができないんだ!!」
「行くなら早く行きましょう!」
覚悟を決めているハーゼリア。
「少しずつやられるよりは、その方がマシかもな!」
ゲイルさんが最後の手段のような口調で言う。
「アシュリーは残していく。私たちも順番に殺されるから。生きて戻ったらミノタウロスの存在を皆に知らせて!!」
バルバラは下を見て言った。髪に目が隠れている。だが涙は髪に隠れた所から伝ってきた。アシュリーを見れば悲しさと死と恐怖が押し寄せてきて正常な身体コントロールが出来ないだろう、見ない今でもバルバラは今にも溢れ出しそうな感情を必死に抑えているから。
エウロさんはどこを見ているのか、何も言わずミノタウロスの近くで剣を構えている。感情が動くと体の余計な部分に力が入ってしまう。だから感情も声も表に出さない。
「ウゴォオオオオオッ!!」
雄叫びをあげ、暴れるミノタウロス。攻撃が止まらない!
「おまえたちは向こうだ!」
穏やかそうなセイロンさんが俺とアッキーをつきとばす、強い冒険者ほど敵の強さがわかる、だから俺たちを遠ざけた。
ミノタウロスが斧を振ったのをしゃがんでかわすと、地面を強く踏みつけた。するとドンッと音が立つ。
「悔しがっているんじゃない、振動だ!!」
セイロンさんが言う。
周囲の仲間の体が揺れ、足が竦む。緊張で強張ってしまうのだ。
「今!!」
「バシャ!」
「シュボ!」
「ジジジ!」
ハーゼリアさんのウォーターガンとモニカさんのファイアボール、プリンシパルのサンダースパークを放つ!
「バババァ!!」
「ボフッ!!」
「パシシィー!!」
ミノタウロスに当たるが全く効果が見られない。1ターンどころか数秒の間も埋められない。
セイロンは振動でも揺れなかった、なぜ離れない?
セイロンは足を踏まれていた。俺たちが足を引っ張ったせいで逃げ遅れていた。
ヴィンス、デメグラム、ゲイル、エウロの4人がミノタウロスを囲み助けに入る。
「そぉっ!そぉ!くそぉおおお~!!」
何度も斬りつけるエウロだったが、その足は強靱でかすり傷程度にしかダメージを与えられない。
「おりゃあああ!!」
「はぁっ!」
「せいっ!」
「ブンッ!フッ」
抵抗するミノタウロス。
「ガグッ!!」
斧がセイロンさんの体に当たったのか!!吹っ飛んでいる。防具ごと破壊される威力は骨をも砕く威力なのが見てわかる。生死不明。
戦いを月水晶で見ていたダンジョンマスター
「きゃははははは~足が滑ったのねぇ~え。何て悲しい顔と醜い姿なのぉ。でもそんな女は悔いも妬みも恨みも深く大きぃ~わぁ~。きっと良いモンスターになる、待ち遠しぃいいい~。一度にあんなに沢山の体が手に入るなんて今日は何て素敵な日なのぉ♪
ったく罠なんて知っていても知らなくても、その罠の存在を意識できなかったら避けられないんだからぁ、ほーんとあまぁいわね、甘ちゃんよ。見える一つと見えない一つあるから罠になる」
両手を口につけ笑いをこらえるダンジョンマスター、その二つ目の罠には気が付かなかった冒険者一行。きっと、どこの冒険者でも金の岩を確かめただろう。その岩に近づけば罠(滑ってのりあげる)にかかることも知らずに。
弱いのならダンジョンに入るべきではない、また次に進むべきではない。どんな強者であっても死ぬ事がある。もしここから誰か無事帰れたならば、そう本に書き付けてくれ。
俺は何かに縋るように願いを込めた。
さらにミノタウロスはセイロンを執拗に踏みつけた。跳ぶ、セイロンにのしかかる。
!!
「ゴッ!」
××××××××××××××××!
最後の断末魔を告げるような崩れる音がして・・。
××××××××××××××××
セイロンを助けにヴィンスさんが斬りつける。
「ぶぐっつあぁ!!」
だが、蹴られてアバラ骨を折られ横にとばされた。
逃げようにもミノタウロスはこちらを見ている、エウロさん達の攻撃は通じなかった。
ただゲイル、エウロ、デメグラムさんの3人は防御(回避)だけ上手くなった。動きが見えるのかもしれない。
俺とアッキーは手を出さない。少しでも注意を反らすため、逃げようとフェイントをしかけた。それも4、5歩だけだけ・・。
「ウゴォオオオウッ!!」
「スッ、シィ、ズッ」
ミノタウロスの攻撃を避け、繰り出したヴィンスの斬撃も背中から当てたデメグラムの振回も、エウロの足を斬る一刀も全てミノタウロスに掠り傷程度しかダメージを与えられなかった。
俺はその傷を見ていてよくわかった。
魔術には効果範囲があるため、バルバラさんが命懸けでヴィンスさんに転がり滑って近寄った!
「咲かせ、いやしの大輪!」
「マクスヒーリング!!」
誰も魔力を惜しむことはない。精一杯やってのけるしかない。
「グォオオオオォオオ!!」
それを見てか怒り狂うミノタウロス。
「セイロンさんを直してあげて!」
「照らせ、月の光!!」
「ライティング!!」
モニカが放つ!仲間全員その光を避けた。
バルバラは走ってセイロンの横に近づき、マクスヒーリングを唱えた。
「・・・・・」
反応がない。
ミノタウロスの状態を見てもう一度マクスヒーリングを放つ。
「マクスヒーリング」
「・・・」
「お願い!!」
「――」
反応なし。
「死んでる!」
××××××××××××××××!
既に命の炎は消えていた・・。ただセイロンはそこで倒れているだけ。喉元も脈も全くない。
××××××××××××××××
「っ、ぅぅぅっつ・・ぅぅ」
バルバラが嗚咽する。
ライティングを嫌ったのかミノタウロスは動かなかった。アシュリーの体は入り口から近かった。
「ぅっ!」
俺はセイロンの死体を部屋の奥、角まで運んだ。バルバラさんたちも死体を運ぶ。ここにあったら戦闘で潰される。邪魔になる。もうこれ以上傷をつけられたくない。
一方、女達は入り口に走った。
「グォオ!」
ミノタウロスはその斧を宮殿の入り口に投げた、俺は入り口前の通路横の底に落ちることを願った。だが期待は外れる。
すぐに入り口に走り出すミノタウロス。女達は入り口に行くのを諦めた。
「私がライティングで!」
そう言いリコルチェが捨て身で皆の前に出る。ミノタウロスに近寄らなければ魔術が届かない。
「照らせ、月の光!!」
「ライティング!!」
リコルチェが唱えた。
「集え、身にまとう風!」
「ウィンドサークル!!」
プリンシパルが唱える。
「お返しよ!」
「浸れ、負の思考!」
「ブラッドマインド!!」
ハーゼリアが唱える。
物理攻撃が駄目なら精神攻撃や攻撃補助を唱える仲間たち。
ミノタウロスが魔術を物ともせず入口の方から身を屈め突進する!
エウロ達4人は散って突進をかわす、と今度はミノタウロスは体を回し拳を出す、さらに当たらないとわかると足も出した。
「くっ!」
「ちっ!」
「早い!」
「・・・・」
斧の自重が減るとミノタウロスは軽くなり、速く強くなった。4人は攻撃に対応できなくなっていた。
何か手はないか、俺は頭を走らせた。
また、リコルチェにミノタウロスが襲い掛かる。
「うっぐぁあああ!!」
デメグラムさんがリコルチェの護衛に回る。盾で防御したが吹っ飛んだ。背後のリコルチェに手をかけるミノタウロス、
「ぎゃぁあっつ!!」
髪が掴まれる、立ったまま動けないリコルチェ。
「ブッチッ!!」
ミノタウロスは一気に腕を振り上げた、髪の毛を毟りとられたリコルチェが飛ばされる!
金色の毛の塊が地面に落ちていた。頭ではない、安心した。が、これは。
飛ばされたリコルチェの手は糸人形みたいに変な向きに折れ曲がっていた。それでも言葉を発する。
「逃げて!」
俺たちはその隙を見て走った。出口に向かう。もっと早く出なかったことに悔いが残る。賭けは失敗だ。
「ドゴ!!」
「ぎゃっ!」
モニカの肩に衝撃が走った!
「バキッ!」
プリンシパルの足が折れる、
「ブシッツ!」
「ぐぉ」
鎧が壊れたのか、凄い音がしてアッキーが倒れた。
「あああ!」
少し足が曲がったと思ったら俺は倒れていた。しかも足が折れている。なぜなら足首が左を向いているから。俺は片足で起き上がり、片足跳びして出口に向かう。
「燃える焔壁よ・・」
「きゃああっ!」
ファイアウォールの魔術詠唱を遮られ、肩を握られたハーゼリア。
「あああっ!ああああ!!手はやめてぇ魔術が!」
「ビチビチィイ!!」
左手を差し出して誤魔化す、少しでも時間を稼ぐ、命の体。
ミノタウロスは致死的な攻撃をしてこなかった。少しずつ動けなく逃げれないようにする、いたぶり殺すつもりらしい。
「バキッ、ドサバタッ!」
俺は背中から入った激痛に気力を失い倒れた、あのまま倒れていればよかった。そしたらもっと生きながらえる時間ができたかもしれない。このまま俺は殺されるのか。
「ボゴッ!」
ミノタウロスは、大きな岩のような拳でエウロを殴る。
「ブンッ!」
「バシッ、があ!」
カタリナが振り回す拳を頭に受け流血した。
エリスと別れここまで来たがフロアボスでこれなのかよぉおお。喉を熱くさせる咳で呼吸が苦しぃぃいぃ。
「ぜぇ~、ははぁ」
痛たたたたぁ!この胸の痛みは、骨が胸に刺さっているのか。
「なあぁハーゼリアっ、ここまでかなぁ」
「おいおい冗談言うな、ここで死ぬわけないだろ!」
「デメ、情けねぇなあ」
「こっ、くらいでぇえ!」
「そぉんなのってない、ここまで来て。立ってよ、私の足」
「何でこんな強いんだ、くっそぉ・・」
声を出せない、次は誰だ、次は誰と不安にかられる!
「もう少し生きたかったなぁ」
「死ぬの恐い」
「お姉ちゃん、会いたかった・・」
「ウゴオオォオオオオオ!!」
「ガスッ」
床に寝転ぶヴィンスに蹴りを食らわすミノタウロス。
「ぐはぁああっ!!」
強い奴から殺されるのか、動けない俺は目の前のヴィンスさんがいた場所から聞こえる声に耳を澄ます。
あとは順番になぶり殺されるのを待つだけ。痛みに耐えることに力を使い、目を開くことさえ躊躇う中で、
きらきらと否、昏々とする光が見えた!
それは、あの眩しい太陽を見た後の眩暈のような殺風景な光・・。
「!?」
「ドシィイン!!」
大きな音が聞こえる。
何だ?ミノタウロスが滑ったのか?冒険者とは明らかに違う転ぶ大きな音。
ミノタウロスは目の前の出来事がわからなく混乱した。突然、体が横たわり倒れているから。
!?
これは草木の匂いか?懐かしく優しい香りだ。
「まだ、戦いは終わっていない、心が負けたら終わり。たとえ怖くても震えて剣が折れても、戦意が喪失して考えられなくても、握られ潰され斬られても死んでも勝って生きたいと思ってよ」
「くすっフィア、何一人で唱えてんのよ」
「それは魔術か?だらしのないエルフだ」
「僕はいいと思うけど」
よく聞こえない、意識から音を遠ざけている?話声が聞こえる。
「その声は戦闘不能のギルド、エクセアか?」
「血だらけだな」
2足歩行のドラゴン族はそう答えた。
「俺のマントはこの血を受けてさらに熱意が宿るんだ、こんな姿で悪いがな」
「ほう」
ヴィンスはヘタれこんでいたが戦意を持ち、その闘志の表れを感心するドラゴン族。
「馬鹿なおじさん」
「こらエルドラ、おじさんに口が過ぎるぞ!」
「はぁい」
「死ぬにしても俺はこの目で・」
「タッ、ブワッ!」
「バガッァッ、ドォオオオオオオオン・・・」
「ウォゴゴォオオオ、グハッ、グハッ、グハッ」
呼吸が荒々しくなり歯を噛みしめ、怒りと闘争心マックスで起き上がるミノタウロス。
何だ、俺の位置からは視界に入らない。
「どうなった」
「顔を蹴っただけだ」
トカゲか!?爬虫類のような出で立ちのものが見えたと思ったら消えた!そしてぼやけた視界の中、小さいマントの誰かが剣でミノタウロスと互角にやり合っている。
希来輝来と光る希望が、斬等揮等と光る味方が、そこで戦っている。俺は心から応援した。
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倒して下さい!!
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「ブンッ!ブンッ!ッダダッ、ブンッ!ブワッ!」
「フッ、フッ、タタッ、フッフッ」
風のような動き!人間の動きではない。空中を飛ぶように移動している!
「エルドラ、そこに仲間がいるから気をつけろ!」
みんなの事を気遣って戦う!?近くのアシュリーやセイロンからも離れている。全員の回復をはかる2人のエルフたち、
「大丈夫よ、安心して!」
「さあ今、治してあげるから」
ポーションを傷口にかけている。
「さあ、飲んで」
口に白い手を当て口を開くとポーションを流し入れる。
俺の近くで、また水を吸った草木の匂いがした、白い足はエルフなのか?
「これでいいわ、さあ起きて!」
起き上がり見ると、そこにいたのは俺たちとゲイルさんたちとエウロさんたち。
しかし、アシュリーとセイロンは死体のままだった。俺は死を受けとめられなかった。
「ごめんなさい、遅れてしまいました」
「あんなに迷うとは思わかったの」
「ウゴォオオオオオ!!」
距離を詰めてブンブンと何度も手を出し捕まえようとするミノタウロス、後退するエルドラ。
治った俺たちの方へ走ってくるミノタウロスの前にトカゲいやドラゴン顔が現れた!
本当に酷い内容の展開です。




