第20話 虚ろになる嘘
エリス最後の日、靴下の罠にかかる、エリスに嘘をつかれた?虚ろな朝より。
「コンコン」
ノック音、昨日の場景を思い出し俺は目を覚ました。体を起こして部屋の中を見回す。ベッドと毛布と隣で寝るアッキーと装備品と俺。
昨日の蟠りを感じながら俺はベッドでボーっとしていた。何となくアッキーを見ていると、アッキーが目を覚ました。
エリスを素直に許せたら、こんな感情になっていない。俺についた嘘の事を考えると騙された気分である。
この世界に来た理由はテレビのCMで司祭の女(エリス?)と出会ったからだ。それによってゲームを始めた。選択したと言うが、それはそちらの働きかけがあったから。
エリスが悪いのか、俺が悪いのか、葛藤していた。
アッキーは、どう思っているのか?
「なあアッキーお前はどう思う?」
「なに・」
「ここに連れてこられた事だよ」
「別に何も」
「俺、騙された気がするんだ」
「エリスさんのせい?」
「・・・違うのか」
「かも」
「いいよ」
朝食をとり支度して俺たちは部屋を出た。するとドアの前でモニカさんとカタリナが待っていた。二人は弱った顔で苦笑いする。
「なーに暗い顔してんのよー、お二人さん!」
明るい声のモニカさんは、俺たち二人の肩に手をかける。
「そうですよー、元気出しましょう!私なんて一度ギルド追い出されてもこうやっているんです。それにライムさん、私は自分で来たから関係ありません」
「お前はそういうけど俺は最初から騙されていたんだぞ!!」
「そんなの主を倒して戻ればいいだけなんじゃないの?」
「そうだけど・・・そんな簡単に・・」
「難しく考える必要はない、やってみてダメだった時にまた考えればいいのよ」
「モニカさん、もしかして行動派ですか?」
頭脳派のカタリナがモニカさんに尋ねた。
「両方よ」
なぜ尋ねたのか意味が分からん。俺の気を紛らわすためか。
「でも皆を巻き込んだのは、俺の責任だ」
俺は、とんでもない世界(異世界)に取り残されたことで物凄いプレッシャーが押し寄せた。確かな希望もなく、これからどうすればいいんだ。
俺は廊下を戻りエリスがいた女部屋を開いた。誰もいない、ベッドが三つ。エリスがいたのは確か一番手前。
エリスか・・・。
「エリスさん、いないわよ」
モニカさんが俺に声をかける。
「朝起きたら、いなくなっていたの」
「毛布は畳んであってベッドは冷たくなっていました」
「ずっと前に出て行ったということか?」
「どうでしょう」
カウンターに、ご主人がいたのでエリスの事を尋ねる。
「ご主人エリス見ませんでした」
「はい?エリス様、まだお見かけしておりませんがどこかへ行かれたのでしょうか?」
「いや、いい」
「はて?私は夜に交替しておりましたから朝になるまで分かりません。何です?待て、そうなると・・」
ご主人は走って行った。何か聞けるかと俺たちはカウンターで待っていた。
・・・五分位後、
カウンターに走って戻ってきたご主人は俺の肩を掴んだ。
「エリス様は、エリス様がいないのですか?」
「というかエリスは、もうこの街から出ていった。それでいつ出たのかと思って尋ねたんだ」
「夜の当番の者は誰も見ていないと言っておりました。それなら誘拐犯もいないから、エリス様が消えたことになります。エリス様一体どこへ!? 」
「ご主人、見ていないのならエリスは他の街に行ったと思ってほしい」
「何を言うんですライム様。エリス様に、もしもの事があったらいかがなさるんですか?」
「ご主人!」
モニカさんが声をかける。
「何でしょうか!」
「エリスさんは、昨日で最後なのっ!」
「だから、カウンター前を通り出て行かれるのでしょう?」
「見るにしても見ないにしても出ていくから、きっと声もかけず出ていくわ。魔術でシュツと姿を眩ますように闇に紛れて出ていくわ」
「どうしてそんなこと」
「心配かけないようによ」
「そうですか、エリス様が・・」
ご主人はガックシ肩を落とした。そして元気あふれる目が垂れ下がり疲れ果てた目になった。急に正気を抜かれ年老いたような宿屋の主人は俯いていた。
「さてどうするリーダー?」
「悪い、今は何も考えられない。リーダーはしばらくアッキーに任せた」
俺は、まだ考えがまとまらない。むしろ考えが広がり手の付けようがない、心が乱され落ち着かなくなった。
「僕?」
「どうしますか、アッキーさん」
なんだそれは!カタリナの移り気の早さに呆れた。
「準備とダンジョン」
「それよね、さあ行きましょう」
まずはアイテムショップに行きポーションを買った。さらに酒場で食料を調達し、ラクーダを引き取って旅に出かける。
「魔術書で魔術を覚えている時間がないわね」
「アッキーさん、リーダー厳しすぎます」
「ごめん」
「・・・」
四人で果たしてやっていけるのか。
俺たちはすぐにダンジョンへ向かった。こんな状態でダンジョンにいくのは不適切であるが、ここにいると皆に先に攻略される可能性がある。俺たちの手でクリアし元の世界に戻る情報を手に入れないといけない。
ラクーダに乗って出発しダンジョンに到着、モンスターの気配も姿も少ない。
ここに、図書館の司書らしき人がいるとはそれほど貴重な情報が入るのかと思った。司書が来ているとなると、ダンジョンの発見も時期が来ていたのかもしれない。
なぜなら随分待ちわびていたようだから。
「何かダンジョンについて知りませんか?」
ダンジョンの情報を探る司書。
「俺たちもまだ進めないからなぁ」
俺は答えなかった。答えたら、他の冒険者に先を越されると思ったから。
それから守護のいないダンジョンに入り、道を進んだ。
「ここはゲームの中じゃないか?」
「そんなことエリスさんは言ってないわよ。MMORPGやVRMMOと同じ仕組みだと思っているんじゃないの?」
「MMORPG、VRMMO?」
「MMORPGは皆でオンラインして一つのゲームの世界に入るというものよね。VRMMOの仮想現実にしたってゲームの中で行動するんでしょ。どちらにしたって倒せばいいだけ。私たち以外でいたのはカタリナだけだし」
「だからそれで、この世界の住人にダンジョンマスターを倒されて褒美が与えられた場合、俺たちが戻れなくなってしまうんだよ。そういうのって有り得ないか?」
「そんな」
頭を押さえるアッキー、
「それは困ると思います。私たちの手で倒すべきですから」
カタリナも言う。
「それは短絡的思考よ。それなら死んでも元の場所へ戻るわ」
「確かに復活しない」
俺は一時的に何か答えを見つけたかった。
「カタリナと同じような人は、いなかったし」
「俺もそう思う。ところでモニカさん、その光るアクセサリーは何ですか?」
カタリナのような最初から怪しい雰囲気の冒険者はこれまでいなかった。
「これは輝石。魔法使いっぽくしたかったからアイテムショップでおまけとしてつけてもらったの。恰好良いかなと思って」
そう話しつつ、俺たちは一階層を進んでいった。
フロアを見渡すと冒険者が遠くに見えた。
「これで来たのは四度目か?」
「はい、こんなに早くダンジョンの攻略が再開するとは思いませんでしたが」
「そうよねぇー」
呼んでもないのにモンスターが俺たちを襲ってくる。俺たちはトロリン、ゴーブとの戦いを手早く済まし松明を持って二階層へ上がった。
二階層、ここはいかに雨に合わず進むかがポイントだ。
歩いている途中、雨にあったが、モニカさんはアシッドレインを唱えたので酸性虫のよる酸の攻撃は遮断された。
水魔術が苦手なモニカさんの成功に喜ぶ。
「魔法使いのスキルが問われる階層だ 」
「まあね、アシッドレインが使えないと攻略は難しくなるから」
「雨に濡れるけど」
アッキーも水に濡れていた。
雨に打たれると呼吸が激しくなる。あまり雨は強く降らず、これもモンスター来襲の反動かと思った。
洞窟の円陣から空に上って三階層に到着。二人の足は見えたが長い靴下のせいで想像力が増すだけで終わった。こうなるんだったら買わなきゃよかった、はは。
前を見ているモニカさんとカタリナの表情は真剣だ、俺も気を引き締めていく。
地面にギルドの足跡がいくつか付いていた。俺たちの足跡ではない。なぜこんな場所に立ったのか、俺はそこに立ってみた。
別に変らない・・・。ゲームならここにレアアイテムが落ちているのだろうが何もない。誰も行かない場所に行くことも戦闘の一つである。
レッドスラからもらった地図を使い、このフロアのモンスターを避けて進んだ。
おっと、ここはスライムの寝床だ。まだ昼には少し早いが、もう寝ている。
「起こすなよ」
俺はそう小さく言って横を通りすぎた。
「ザッ、パキッ!」
良い割れ音!木の枝を踏んだのはカタリナだった。俺はてっきりお前を疑ってしまったぞ、アッキー。
スライムの昼寝を起こした!!
「逃げろー!」
「パッチャ!ピッチャ!パッチャ!ベチャ…!」
スライムの群れが跳んできている。周囲を埋め尽くすスライム。
巨大化なんてしない、その数十匹の粘々が体をくっつけてくるだけだ。くっつけられたら呼吸さえ止まってしまいそうな程の粘着性だ!
レッドスラの仲間を倒すわけにもいかない。
囲まれるみんな、
スライム状の粘液が俺たちの体に密着する。水のような柔軟さを持ち、かつ弾力があるスライムは意外と強そうだった。
倒さないと、このままでは。
「ガササッ!」
「ここです、大丈夫この声は人間の声。そのスライムは僕の見方でグリーンライムの敵です。斬っても大丈夫!」
レッドスラだ!木々から声をかけた。
「つまり倒せってことか、復活もあるしそれじゃーお言葉に甘えさせてもらおう」
「せいっ」
縦に、横に、斜めにオルカソードで斬りつけた。スライム真っ二つ。こんな粘性のモンスターでも鮮やかに切れると俺の腕も上がったなと思った。
「ちょっと変態スライムたち、いい気にならないでよ。こっちは大変なんだから!」
モニカさんが背中に入ったスライムを引きずり出した。スライムがびよーんと縦にのびている。
引きちぎれそうな位、伸びて透き透って、
「バシッツ!!」
上空に飛んでいった。
見慣れない武器で攻撃するモニカさん、もう攻撃されるのは嫌なんだろう。何だそれ?
「スタースティック、エリスさんから譲り受けたの」
手に足にくっつくスライムを攻撃し、間合いをとって追い払う。
アッキーが振回をしてスライムを一度に倒し間合いをつくった。カタリナはビショップスタッフで応援パレードの棒回しのように回してスライムを攻撃。
攻撃できた!!攻撃できたといってもスライムを恐れさせるだけ。威嚇か、攻撃を仕掛けてこないスライム。
レッドスラが何故か他のスライムと一緒に出現した。
突然!!
レッドスラは逃げ出した。
それを見た、他のスライムも次々と逃げていった。習性というやつか逃走のオンパレード、気づいたらスライムはほとんど逃げていた。
「レッドスラ、久しぶりだな」
「グリーンライム、久しぶりっ!」
俺にペタペタとくっついて、気持ちビミョー。でもお前が出てきた時は驚いたぞ。
「騙して良かったでしょうか?」
カタリナが深刻そうな顔をして言った。
「仮にバレても僕には仲間がいる。それに仲間も痛い思いをせず倒されず良い事ずくめ」
「そうだな」
俺は、こんな単細胞でないレッドスラが奇妙だと思う。
岩壁の隠し通路前についたライム一行、
中に入る時、一瞬アッキーが倒れかけた。
「わぁ・・」
スライムの粘々か、くっついた感覚が残っていたのかアッキーが足を踏み外す。
「アッキーさん、スライムはもう逃げたので転ばず落ち着いてください」
とカタリナが声をかけた。
「えっ!?」
「ドサリッ!」
アッキーが転んだ。
ここに嫌がらせ列伝伝承者、復活を宣言しよう。カタリナは、かけなくても良い言葉を親切にかけたようだな。
「言ったそばから転んだのねw」
一人の継承者候補か、やるな。
いや前ブレはあったぞ。お前たち・・・そこまでやるとはひどすぎるっ!俺はアッキーを見ていられず、起き上がるのを手伝った。とやかく言わずにはおられない女二人コンビ。
俺は女二人に聞こえないように、こっそりアッキーに話しかけた。
(あいつらの話は聞くな)
「いいんだ」
言葉をかけるのは簡単だ、だがそれは時として誤解を生む。
ましてや嫌みな事を言った二人の性格や趣味・嗜好は逐一俺らの脳に蓄積されていく。俺は対モニカさん、対カタリナのレジスタンススキルを身につけるためにアッキーに言葉をかけたのに、それを断るか、おい頭でも売ったんじゃないのか。今転んだ時やられたか、そうか。
松明を持って四階層にやってきた、ボートに乗る。
「モンスターだ!」
ブレードシャークがさっそくお出まし、その上を跳ぶようにレインボーフィッシュ付きで。
ボートで立ち上がるモニカさん。
「ライム、ちょっとやってみたいことがあるの。剣で突き刺して」
「フロート」
ブレードシャークを宙に浮かせることに成功!なんとそんなことが可能なのか!
さらにその下に俺の乗るボートが着いて下から突き刺した。落ちてこないだろうが急いでオールをせっせと漕いでよけた。
サンダーアークを唱えるエリス。空中で泳ぐブレードシャークは”こいのぼり”のように暴れたが周りにあるのは空気位、移動できるベクトルを作れない。
途切れたフロートで俺の剣も持っていかれるが、剣に雷狐が走り、電弧を纏った。
「ピシッ、バシィッ・・・・ッ!!」
「姿勢を屈めろー!!」
「オールで漕いで!!」
俺はマントで覆い剣を掴み、急いで引き抜いた。水面を跳ねるレインボーフィッシュを潜り抜け、俺たちは洞窟の穴の中に逃げていった。
「アワアワワ?ワアワアワア?」
「いたっ!」
モニカがレインボーフィッシュの毒針に刺された。
「持て、森の解毒力をその手に!」
「アンチドート!!」
カタリナが急いで魔術を唱える。
「魔力持たなさそう」
弱気な言葉を吐くモニカ。
「ソレジャーマタアワナイ?」
ウンディーネは水の中を渦巻いて消えていった。そして水と化して見えなくなった。
多くの感情がある、どうしよう。旅立ちも含めたい。




