第19話 エリスとの別れ
エリスの守護残り1日、前日に復興の手伝いと猛特訓をする五人。三兄弟とユリアンは家を建てるため相談していた。
三兄弟とユリアンは全財産を使い果たした後、我が家へ歩いて行った。始めから、ないようなGoldだ。なくても何も生活は変わらない。
仕事道具は、これまで冒険者で貯めたGoldで揃えようと話し合っていた。
街の塀の下の土は大体埋まってきた。そこでアンクたちは、自宅近くの塀を修理している建設家ギルドを手伝う。岩を切り崩したのか、四角いその塀の角は元の世界の塀と違いはない。模様もなく、その土の地面に食い込ませるように差し込んで固めていった。
そうそう土を締め固まらせる方法として人の体重による踏み固めをしたのは目を引いた。大人が十数人で上にのるから500kgから1tで締固められている。それだけでは不安なのか水魔術も使っていた。サンサンドの街は魔法(魔術)街と言えよう。建築家ギルドに魔法使いが、いらっしゃるとは恐れ入ったぜ、ふぅ。
俺たちは街の資材を運んでいる人を手伝った。二輪車があり、その荷台の上に資材を積む、それを押して工事中の場所まで運ぶ。
「おお~悪いな。これだけ人数がいると労力が減る分、俺たちも多く仕事ができる」
「ははは、俺たちは街が襲われたとき、何の役にも立てませんでしたから構いませんよ」
能無しギルドでもないが、来襲の時は動けなかった。
「おや新人なのか、お前たちは?」
「はい、まあそんな所です」
と俺は答えた。
「親方、この塀は先ほどお話したアンクさん達の家の近くです」
秘書?と思われる女性がその建築家ギルドの髭の生えた男に話しかけた。
「ああ~、あれだな」
みんなでその塀に資材を差し込んでいく。土が多いから沈下していかないのだろう。
「おわぁぁぁ~!」
「おいおいおい!」
「おおぉぅ!」
「おおう!」
塀の部材が倒れかかる、建築家ギルド皆で内側から支えるが、傾いたまま身動きとれなくなった。
「皆、俺たちも手伝おう」
みんなで行くがちょっと力不足なのか、このままでは倒れてしまう。
「さっ」
すっと上に出た巨体な丸太じゃなくてアッキーの手か、その手が出た途端、倒れ掛かった資材(部材)が持ち上がっていく。そして垂直に立てた部材はうまく凹に入り納まった。
「おおおお~っ!!」
建築家ギルドの感嘆の声。
「だ、誰だお前は!」
「あいつ、すげぇ~!」
「あれ、ポーションの兄ちゃんじゃねーか!?」
そこをたまたま、歩いていた街の男がアッキーを指さして言った。
「ああ、そうだ凄腕ギルドだろ!」
「凄腕ギルドだと・・・!?」
ガンガン建設の親方がこちらの方に来た。
「おめえ名前は何というんだ」
アッキーは黙っていた。
内気で恥ずかしがり屋なのは知っているが、街の人との交流は大切だぞ。
凄腕に話しかけた親方だが黙っているので睨んでいた。
アッキーはひきつる顔をして目を反らしている。
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
「なんだ、お前は。ああ手伝ってくれている冒険者ギルドだな」
「彼は私たちの仲間でアッキーと言います」
モニカさんがうまく間に入った。
「そうか、アッキーというのか」
「いや、俺たちの職業に適しているから一度は声をかけておこうと思ってな」
「スミマセン、アッキーは俺の仲間でそちらで働くことは出来ません」
それはできんよ、親方さん。俺は勧誘を阻止した。
「ふぅむ、それは残念だな」
そして親方はアッキーを勧誘するのを止めた。
「親分、あいつはすげぇですぜ!」
「見ていた」
アッキーは街の建築家ギルドから一目置かれた。
それからアッキーの働き?もあり、塀は着々と修復されていった。
午後からは戦闘のための修業をする。
「ライムたちが、どこまで強くなっているか修業の成果をみせてもらいましょう」
「いいけどさ、外のモンスターがめっきり少なくなってない?」
「あんなに一昨日はいたのに、今は全然姿を見ないわね」
「いないね」
「だが!どこにでもいるモンスターが、ほらっ」
ペンタンである。このモンスターはほとんど倒していない。
俺たちは襲ってこなかった最弱モンスター相手にスキルを使って確認し始めた。
ナイトの技の一刀を縦横斜め、斬撃を縦横斜め、、ファーストステップをトトンと走り、ダッシュで一気に間合いを詰めてみせた。
「そんな所ねライム。それでは次の課題を出すわ、剣月とスキルの見抜きを習得すること」
「剣月って何だ?」
名前からして想像つかない。
「メニューに表示されてない?」
「ない」
「どれ~?」
モニカさんは気になって覗き込んできた。
「ライム、私の魔術と同じくらい技が使えるようになったんだー」
「技と魔術を比べてもあんまし・・」
リーダの俺も追い越されないように気を付けておかねば、そのうち負けそう。
「ないわね。剣月は自分で調べて。それじゃダブルキルを覚えましょう」
剣月・・技名だけ言われてもなぁ。具体的にはどんな技か分からないと俺も対処できなんだけど・・。
≪ダブルキル 連続二回斬り。剣で欠けた月の周りを描くようにして二回斬る事。その応用から二重、十字、×字etcとも呼ぶ≫
≪見抜き 即座に相手の行動を読み、それを戦闘に活かす術≫
俺はエリスの隣でメニュー画面を確認した。一体、エリスの履歴は誰が使ったものなのか。尋ねてみたいが、答えてもらえなさそうである。
アッキーの番だ。
「スキルを使って」
アッキーは順番にスキルを使った。
振落、振回、ガード、アウトブレイクをやってみせた。アウトブレイクの相手は俺、しかもダッシュして剣を当てる。練習と言えど仲間を斬りつけるのは嫌だった。
「ほらアッキー、この二つがあなたにおすすめのスキルよ」
トマホーク、パワーアクスが表示されている。まだエリスの全スキルの欄の下に続きがあった。
「二つだねっ」
アッキーは焦った。今使えるスキルも身を呈して習得したスキルだからだ。
モニカさんの番が来た。
「モニカ、あなたはどんな魔術を覚えたい?」
「エリスさんの使える魔術全部、覚えた~い!」
「それで英雄になれるかしら」
「まあ、それは子供の頃の夢、私は女勇者でもよかったの。英雄は国を救いたかったから。懐かしい子供の頃の夢」
「今も心にあるんじゃないの?」
「そうかな。そんなことばっかり思って憧れたから、こんな歳になったのね」
「これだけやれば、英雄に近づけるわ」
とエリスは属性ごとに魔術の課題を与えた。
「火の魔術はクリメート、ヒートバーニング、
水の魔術はアクアウェーブ、レインコール、アシッドレインを、
風の魔術はワールウインド、ウィンドバリア、ティルウィンド、ヘドウイングを、
魔魔術術はマジックバリア、
雷はライトニングとサンダースパーク
これ全て覚えて」
「それ全部ですか・・・。エリスさん、全部上級魔術でしょ。覚えるのに何か月もかからない?」
「いいえ、中級魔術よ」
「絶対無理。そんな事してたら生命力まで持っていかれて死ぬわ!私は魔術一つだけでも放心状態なんだから~」
「いいから練習よ。それに地の魔術クレイモールにサンドストームも忘れないで」
「エリスさ~ん、悪魔!」
悲鳴のような鳴き声が聞こえた。モニカさんの声か。魔法使いの魔術は種類が多い。その上、手本がエリスでその指導者としてあたるものだから出来ないという言い訳は通用しないのだ。
エリス鬼教官は話が終わるとカタリナの方へ歩いて行った。
「さてカタリナ、あなたは攻撃なしで何をするか?」
「私ですか?私は体術を磨きました。特別出来る事はありませんが、自分の身は自分で守れるように回避を特化しました。またローブも黄色の薄いペールローブを装備し素早さを上げています」
「カタリナ、よくそんなローブが手に入ったな」
俺はカタリナに話しかけた。また喧嘩はしないだろうけど心配だった。
「ポーションを寄付していたけど、ローブまでどうやって集めたんだ?」
「そうですね、それはアイテムとして手に入れたんです」
「手に入れた?」
私は知人のおばあさんの家で寝泊まりしていました。私はおばあさんの肩や腰を揉んでマッサージしていました。おばあさんは落ち込んでいた私を励ますために使わなくなったローブを私にくれました」
そうかローブはアイテムとして入手したのか。加齢で痛くなる腰は、魔術では治せないようだ。
「ライムは練習続けて」
「そうーか」
「ヒーリング、マドレヒーリング、レイズヒーリング、マドレレイズヒーリング、ドラグケア、ライティング、アンチドート、メディシン、以上が習得した魔術だったわね」
「はい」
「唱えてみて」
「――」
全部エリスの前で唱え終わる。
「合格よ。それじゃ、これからマクスレイズヒーリングと聖魔術を覚えてもらいます」
「はい、それでどんな魔術を覚えればいいんですか?」
「エクソシストクロスよ、呪われた時に呪いを解く魔術。その胸に光の刻印が入っていき悪の心を焼き刻むわ。実際、傷はないけど悪魔は十字が心に入るから大ダメージを受ける」
「エリスさん良く知っていますね」
「私は使えないけど、以前ちょっとね」
顔を見ないでエリスは答えた。
「さあ練習よ」
そういって俺、アッキーモニカさん、カタリナを四方に分けて俺たちの中央に立つエリスは、指導して回った。
オアシスは、モンスターを一掃した地上の戦士とナイトは足跡を残して消えていた。
「ここは、もういいわね」
「せっかくの砂地があんなに汚れるとは思わなかった」
モンスターから落ちる鱗粉と体毛、落下した事で飛散した砂によって自分たちが住む家が汚れた。ので掃除をするアシュリーとプリンシパル。ゴミは焼べた火で燃やす。
「ふぅ、何度やっても鱗粉が飛んでくるぅ~」
バルバラが嘆く。
「あぁ~、また最初やり直しぃ」
アシュリーもぼやく。
「あ~あぁ、俺は水辺の冷酷なナイト~。一匹残らず虫どもを退治して残ったものはその空虚のみ~。水辺を見ても何も語らない・・」
オアシス湖近くで歌うエウロ。
「あの空は、もうないのに何を唄っているエウロ」
セイロンは飽きれて言った。
「俺たちはモンスターが街を襲ったから全て倒した。だが街と湖は汚れていった、その発生原因は湖は教えてくれない」
「それは美しくないな、でもそれが現実」
「パシャパシャ。もう、いないわ。でもここからしばらくは動かない方が良い」
半漁人の追跡に合い、水の中で逃げ回っていたリトルは湖の底の穴の下にいた。あの頭では、まずここには入れないし隠れ場所も知られていない。水が黒くなったから見にいきたいけど、しばらくは我慢。リトルは呼吸が少ししづらかった。
もうツリーシードに冷気は残っていない。一時的な環境変化は戻っていた。風も吹き、木々が活動するかのように揺れていた。
「パタン、これでいいわ」
パンは、この街を来襲した『モンスターの異常行動』を手帳に記録していた。
「これはね、私たちの家系に代々伝わる手帳で、これを見ることで様々な事件を解明できるのよ」
パルムに説明するパン、
「それ二回目よね」
一度目はダンジョンで見たことがある。
「だって、実際のダンジョンの話をメニューだけで説明しようだなんて出来るわけないでしょ。図書館に行ってもありのままの情報は手に入らない」
「それでもまあ、これから増えるからさー」
「これが必要なくなる日も来るかも」
「そうなればいいけど・・・」
ドローシラは幽閉されていた。別に暴れるわけでもなく正気を取り戻したが、堅牢な牢屋から出られない。
「わ、私どうしてここに?」
「おい、お前」
「わ、私ですか?」
「そうだお前だ。お前はどうしてこの森のいる、そしてなぜ俺たちの街を襲ったんだ?」
「そ、それは話せません。後ずさりするドローシラ」
「言えないのならいい、何も聞くべきではないな。それと街の住人が来ても話すな。奴ら、かなり惨酷なことをするかもしれん」
「住人には、放っておけと言っておいた」
アーサーとノアはドローシラにアドバイスした。
修業が終わり、教会で体を洗う。酒場に夕食を食べに行くと、横のテーブル席に座る冒険者の話が聞こえた。
「街の店は、まだ営業を開始しないのか?」
「たぶん武器屋と防具屋、アイテムショップ、酒場、宿屋以外は全て明日からだろう」
今日は食料がないのか、酒場のテーブル席は人でごった返していた。
「テントさんは手で畑を耕しているからな」
「どうしようか、カウンターに座ろうか?」
「カウンター席しか空いてないわね」
「そうだな」
運良く、俺たちは席に座れた。
「っと」
アッキー椅子大丈夫か、ガタリと音が鳴った椅子はアッキーの体重で設計されていない。
「不安だわぁ~。魔術いっぱい覚えれば大丈夫かなぁ」
「エリスさん、ダンジョン最上階へ行ける可能性はどの位だと思います?」
カタリナがエリスの顔を見て尋ねると、
「このままならゼロよ。なぜならドラゴンにやられるから」
とエリスは答えた。
アッキーはエリスの顔を見た。
「なら、もっと修業だな」
「はーい!」
「はい!」
「ぅん」
エリスは、ぽつんと前を見て考えていた。
食事が終わり宿屋に行く。ご主人が笑顔で
「いらっしゃいませ」
と言った。
ある事を廊下で思い出した。
「そうだった、あれ!」
「なあ、ちょっと女たちの部屋に言っていいか?」
「いいけどライム、信用していないから」
「待ってて、すぐに良い物を渡そう」
「何かしらね・・」
「お別れの品ですかね」
「ココン、コン!」
「どうぞ」
「俺は部屋に入らなくていい。これだけ受け取ってくれ」
「!!」
長い靴下である、しかも黒と肌色。
「ここに長い靴下が二足ある。ファースト売却直後に買ったんだが、カタリナの一件で渡せず俺が預かっていたんだ。カタリナとモニカさんには、これを渡しておかないとな」
「えっ・・・」
「なっ・・・」
「いやぁ~あの時は急に別れちゃうからびっくりしたぞぉ。ガァーン!これは無駄遣いを指摘されリーダー失格!って言われると思ってさ」
「あ、ありがとうライム」
二人は目を丸くしているがどうしてだろう、少し早すぎたかな?
「エリスとお揃いだ、これなら喧嘩にならないし、防御力もあがるだろ、一応履いて見せてくれっ!」
わんわん。それらしい理由を添えれば準備OK、否定も出来ん。続けて言うことが断れない言い方の秘訣だ。
「そうだ!着替えるのに、俺がいては履けないよな」
そういって俺は去ると、モニカさんがロックした。
「何」
「ですか」
う~ん、待てよ。焦る気持ちはわかる。だがここでしくじれば俺は・・ダメだ。もう少し待ってからノックだ。
・・・辛抱?か。
・・・作戦だな。
・・バレた?
・・・全滅してる?
・・ぉぃっ。
「ココンコン!」
「おーい!」
「カチャリ」
「なに?」
「履けたか?」
「まぁね」
「あ、ありがとうライム」
「でどうだった?」
「普通です、ねえエリスさん」
「うん」
「似合うじゃないか」
ほぉ~っ、なるほどなー。防御力が上がり、魅力も上がったな。
「では、前の装備品を回収する」
「回収?」
「当たり前だ、もしどこかいったらどうするんだ!?」
「行かないわよ」
「物騒だぞ、部屋に入ってくる奴がいるかも、あっ装備品余ってるぞーとか言って」
「どうして分かるよのー」
「これはゲームじゃないからな、すげぇ奴モンスターの来襲でいたじゃん!」
「それはいたわよ」
「だろ、あいつらは強い。すげぇ半端ない、マジやるやつだってエリスも言ってたじゃないか!」
「え、ええ言ったけど静かにして。彼らはそんな事・・」
「わかってるよ。つーことだ。持っていく!」
「はいっ」
「おしっ」
「どうぞ」
「んんっ」
「エリスも、以前脱いだ靴下の片方を渡してほしい」
エリスからも回収成功!仕方なく受け取った感じを出すために、面倒な顔をした。まさか演技とは誰も思うまい。そして脱いだ靴下を俺は袋に詰めた。
「戸締りは特に気を付けて」
「ええ、わかってるわ」
「バン、ガチャ」
俺は部屋に戻った。
「ガチャ」
もうお前たちは俺に気を付ける必要はない、なぜなら靴下は俺の手中にあるからだ。だが女三人は自分たちに意識がいっている。
「さあ、アッキー寝ようぜ」
「うん・・!?」
「これか、これはいらなくなった装備品だ」
俺は袋をきつく締めた。
俺は眠ったふりをした。アッキーも目を瞑る、
しばらくして、アッキーの寝息が聞こえた。
俺は結んだ袋を開けてみた。何だ、あかない、くっそ、はぁはあ、やっと開いたぞ。
これだ、靴下だ。この靴下はカタリナか?エリスの靴下を取ろうとしたが薄暗くて色がよく分からない。
どれどれ、何がいいのか触ってみる。なんともない、なんだろう臭いかな?でも・・
この一戦は超えてはいけない。
このままだと俺は変態だ。
だが調べてみたいとご主人が喜ぶ理由が掴めない。どうだ、どうなんだライム。
俺は男だ、人間だ。
普通の事じゃないかー、そう性欲。嗅げばすぐに何ともないとかなって終わるんだ。
変態じゃない、男は皆同じようなもんだぞ、ライム。
俺は自分を擁護して臭いを嗅いだ。
「クンクン」
ふむっ、ふむふむふむふむふむむむ~っ。俺は滑るように鼻に靴下を手繰り寄せた。
(きゃーきゃあっ。ねぇねぇ、これ締め付けない?)
(これはもう少し上に上げればいいの。こうやって~)
(いやぁ~っ。きついからねぇやめてよぉー)
ご主人・・・・・。
素晴らしい。妄想に俺は浸った。
そうか、これが生涯手放さないレア物なのか。
昇天しそうな気分になったライムは臭いを嗅いだまま、疲れで寝っていた・・・。
パタッ・・・。
ライムの不可解な行動にアッキーはたじたじ。




