奇跡の一掃 4
ユリアンは三人の兄の元へ帰る。そしてギルドにはカタリナが戻る。それはカタリナの努力と発想の賜物だろう。
エリスが宿屋につくとカウンターにご主人がいて、まだ起きていた。いつもなら交替している時間帯である。
ご主人はエリスを見た。
「深夜遅くまでお疲れ様です。お口は渇いていませんか?」
「大丈夫」
「そうですか」
エリスは、不気味な気配を感じたから急ぎ足で廊下を歩いた。
周囲を確認し魔術を詠唱する。
「アンチロック!」
「カチャリ」
エリスが部屋に入ると、
「す~っ、くくくくかぁ~」
鼾を立てて寝ているモニカがいた。
「・・・」
「カチッ」
「ふぅ」
一度モニカの毛布を直し、エリスはベッドで眠る。
夜は静かにふけていった。
【エリスの守護 残り1日】
「ガラガラララ」
球が転がるような音がした。
「コトッ、コココ!」
「コッコッココトトト!」
そして何人かの足音。入れ替わり立ち替わり音がすると思ったら、いつもの時間がきた。
「コンコン」
ご主人である。エリスとの別れまで今日を含め二日、早起きして少しでもエリスから必要な情報を得るべきである。
質問は答えるかどうかは別として。
俺は体を起こした。
ここ何日かの激しい戦闘で体は疲れ切っていた。HPは最大値まで回復しているけど体は重いといった現象である。
アッキーは起きて食事を済ませ準備万端整った、あちらの二人の支度も整い一緒に宿屋を出た。
「みんな、新しいヒーラーが見つかったの」
「あれ、ユリアンじゃないのか?」
「誰、エリスさん!」
俺たちは話しながらカウンターを通る。
「ぇ」
「紹介するわ。新しいヒーラーのカタリナです」
宿屋から出てすぐ横、宿屋の壁際に立っていたカタリナをエリスが紹介した。
「ええええ、えーっ!」
「エリス、カタリナだろ!あのカタリナ。みんな知っている!」
何、知らっと言うんだ、エリス。タイム~じゃないんだぞ(リープ・スリップ・トラベルだったか)
「カタリナ・・」
アッキーがぼそりと呟く。
「今日からお世話になりますカタリナです。努力の結果、戻れる事になりました。攻撃はできませんがより早く動けるようにはなりましたのでよろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしくカタリナ!」
いいんだ、そんなこと。俺も強くはなったつもりだったんだが今回の襲来で無力なことを思い知った。
「もっと強くなれるように、お互い頑張りましょう!」
「一緒に頑張ろう」
アッキーも言う。
「アッキー久しぶり」
微笑むカタリナ。
「うん、久しぶりだね」
アッキーがそれにこたえる。表情は普通だったが声がいつもより明るい。
「よろしく、カタリナ」
「こちらこそ、エリスさん」
皆、仲良くなった。そしてカタリナが仲間に加わった。
「それじゃー、どこ行こうか?修業か街の手伝いか?」
俺たちは昨日会えなかったアルスに商会へ行った。アルスは商会のカウンター横の資料室?で何かしている。
「アルス!」
「おっライム、そして隣にいるのカタリナじゃないか!?」
「体の調子はどう?」
「もう全く問題はない、ちょっと疲れがたまってな」
(そうは言うけど実は手を痛めてたんだ、自分の手を打ちつけてしまって。ライムだから話すが、カッコいい事言ってこんな失敗したのが恥ずかしくてな。すぐに痛みと腫れは引いてくれたからよかったけど)
耳元でアルスは俺に話してくれた。
「まっ、でも俺はここをモンスターから守ることが出来たから本望だが」
「それなら、ヒーラーに言ったらどうでしょうか?」
「それが探そうにもみんな疲れて休んでいる。アイテムも格納量が必要になるから蓄えないといけないし街の人々は復興で大忙しだから遠慮するのが商会で働く者の心構え」
「そうなんですね」
「教会にはユリアンがいたけど体を休めていたからなぁ」
俺は庇うように言葉を挟んだ。
「いーや、おかげでこの通り」
アルスは元気よく手を振った。
「それでどうしたんだ、これから街の手伝いなのか?」
(手伝いは一応しました、今日明日でエリスがいなくなるのでどうしようか迷っていて)
と今度は俺がアルスに悩みを打ち明ける。
(それなら、何でも聞いておいた方がいいぞ。なんでもな)
一つはアルスが耳打ちし、もう一つは普通に言った。
「それなら俺もエリスさんに挨拶しておこう。
エリスさん、俺を皆をダンジョンから助け出してくれてありがとうございました。この恩は一生忘れません。もしまた、サンサンドの街に来た時はいつでも会いに来て下さい」
そしてアルスはエリスに深々と頭を下げて感謝の気持ちを伝えた。アルスは、エリスが違う街に行くと思っているらしい。
何でもか・・・。
教会でユリアンはお世話になったシスターに挨拶する。
「セイラさん、他のシスターさん、二日間泊まらせて頂きありがとうございました。そのお礼として明日からここでしばらく皆さんのお手伝いをします」
「そんな気を使わないで下さい、ユリアンさん」
セイラが遠慮する。
「いいえ、私はこれまで人の道に外れる事をしてしまいました」
「誰にでもそんな心は芽生えます。その改心があるのでしたら、もう外れる事はありませんよ」
上位シスターが宥める。
「いいえ、私はここで皆さんを見習わないといけません!だから・・」
「まあ早まる気持ちはそれぞれあります。今は街の復興とダンジョンの事でここも忙しいですから、しばらく認めましょう!」
ユリアンの両手をとる上位シスター、喜ぶ皆とセイラとユリアン。
「よろしくっ願いします!!」
やはり慣れないユリアン。
「何してんだよアンク兄さん」
「早くユリアンが待ってるぞ」
「ゴホッ。悪い、朝から調子が悪くてな」
「タンクちょっと肩を貸してくれ」
アンクはユリアンの看病で熱が出て咳をしていた。自然界で鍛えられてはいたが、慣れないことをしたから無理が祟ったのだろう。
それから三人の兄は教会に着いた。
「アンクお兄ちゃんどうしたの?」
「なーに、ちょっと街の復興手伝いを張り切りすぎてな」
「アンク兄さん体調よくないみたい」
ユリアンは魔術を詠唱した。
「ヒーリング!」
「まだ治らない?」
「まだ悪そうだ」
「ちょ、ちょっとユリアンさん良いですか?メディシン!」
上位シスターが魔術をアンクに唱えた。
「おおお?」
アンクが立ち上がった。
「こうやるのですよ、ユリアンさん」
「は、はいっ。すみません、お世話になってばかりです」
「人々のお世話をするのが教会の仕事です。さあ今日は帰って。仕事は明日の朝からお願いしますね」
「はい、わかりました」
アンクの熱の原因はクリアバタフライの鱗粉のせいだった。しかしまだ咳が出たので、アンクは風邪も引いていた事が分かった。
ユリアンが帰宅しようと道を歩いているとライムさんが目に入った。
「お兄ちゃん、ちょっといい?」
「どうした? 」
ユリアンが走っていく。
「ゴホッ、走るなユリアン!まだ完全回復か分からんぞ。もし体に何かあったら、・・」
アンクたちの目にもライムは見えたが、この場合ユリアン一人の方が良い。何より三人の兄は顔を合わせられなかった。
「アンクお兄ちゃん、大丈夫ー!・・」
「みんな~!」
「おお、あれはユリアンじゃないか」
「間違いなくユリアンよ」
「ユリアンもう治ったみたいねえ、ああやって見てるのも兄弟愛ってやつ?」
とモニカさん。
「そんな愛あったか?」
「家族愛よ」
「そうだ、俺たちも仲間愛だ」
「ってことはエリス、ユリアンは兄弟の元へ戻るんだな」
「今気づいたの・・」
ユリアンが来た、開きのローブと痩せている足、小さな顔のユリアンである。
「おおっ、その立ち姿はユリアンだ!」
「ライムさん、心配をおかけしました。私はこの通り!」
一回転して足をのばすユリアン。
「よかった、兄さんと一緒に暮らすんだな」
「はい、でも私は教会でしばらく働きます」
「そうなのか?」
「ユリアンよかったわね」
「はい」
「偉い!」
「良かったな」
「うんうん」
「皆さん、それでは失礼します」
「そうだユリアン!ダンジョンの六階層までの情報、売ってもいいぞ。ヴィンスさんたちもいたから売切れちゃったかもしれないけど」
俺からしてやれる事はこれ位か。
「はいっ!」
「お兄さんと仲良くね!」
「がんばれ!」
「がんばって!」
それから俺たちは、街の復興の手伝いをした。
昼食時間、教会から商会に続く道の横にある広場でオレンジュースを飲んでいた所、ギルドの一行が外へ歩いて行く姿が見えた。馬をつれていたから遠い所に行く事が分かった。
「あれ外に行くんだよな?」
「ええ、馬を連れて行くから街かダンジョン」
「よくやるわ」
「うん」
「あそこにもいるな」
ギルド協会の登録所以外にもアイテムショップに寄ったり武器を新調したりする冒険者ギルドがたくさんいた。
「これじゃー、私たちも街にゆっくりしていられないわね」
「どうする、もうダンジョンへ行くか?」
「どうしよう」
「俺は街かな、ダンジョンは後で」
「私も街を手伝う方をやりたい」
「街」
全員が街で一致した。
「そしたら今日明日ともに午前は街の手伝い、午後は特訓の続きね」
「いいのか?」
エリスの表情は渋々了承してくれている。
「一連のモンスターを一掃するギルドがいるのならいいわよ、本当はダンジョンに行きたいんだけど二日しかないから同じでしょ」
「良かった」
「よくない」
例え、それでも俺はよかった。なぜならまだ喪失感が戻ってこないからだ。できる自分を取り戻してから、俺は出発したかった。
「じゃ~ん!」
「なんだそれは」
「ファーストで~す、アイテムのブラックゴブリンのチェーン。これを戦利品としてダンジョンで手に入れました」
家に着いたユリアンは、三人の兄弟にお宝を見せていた。
「すげー!」
「俺たち三人よりユリアンは凄いぞ!」
「このチェーンはエリスさん達からの報酬として頂きました。ちょっと多すぎだけど・・」
「うわぁ~恐ろしいな!、モンスターの迫力が伝わってきそうだ!それ」
「ユリアンこわかっただろー!」
「トロルに棍棒で叩かれそうになっちゃった」
「なんだって!」
「ガタガタ、ガタタッタタン!!」
急に兄が立つ、テーブルがそれで揺れた。
「どこも何もなっていないんだろうなユリアン」
「兄さん、あんまり興奮しないでくれ」
タンクが体を抑える。
「ヒーラーだから傷は治せる、どこも何もなっていないから席に座って」
「ポンドは腕、俺は足、タンクは首と頭の周りを調べてくれ」
「やめろー」
男のように叫ぶユリアン、ユリアンはシスコン三兄に囲まれて調べられた。
「ここもない、ここもないな」
「ああ、ああ、あっ!」
「ど・こも・何もない」
「何だあったのかと思ったぞ」
「ゴミだった・・」
「ふざけるなポンドお前は明日洗濯係だ」
「ええ~っ、兄さんばかりずるい、あれは雨の時にやらないといけないだろ。しかも息がとまるくらい急いでだ」
「どこも傷はないようだ」
「いい?はぁ~疲れた!お兄ちゃんたち。私、帰ったばっかりで疲れてるとか気にしてよー」
「お前、傷がついたらお嫁にいけないとか子供の時から言ってただろ。だから気にしてるんだ、俺もお前の将来のためにする責任と義務があるんだ」
「それはそれぇ~。それより皆で出かけない?」
ユリアンは家のドアの前に立つ。
「どこにだ?」
「これを早く売ってお金に変えておきたいの。売れば名声も上がるしお金も手に入る」
それから皆でアイテムショップに行き、ブラックゴブリンのチェーンを売った。そして4000Goldを手に入れた。
「これを見なさぃ!」
「おおおぉ~!!」
「すごいザックザクだな!」
「これでやり直せるっ」
「これは駄目、買わなきゃいけない物があるからっ」
「も、もう使うのか」
ポンドが焦る、
「俺もとっておきたいんだけど」
未練がましいタンク、
アンクはユリアンの好きにさせるため、黙っていた。
「泥棒に盗まれたら大変でしょ。だからすぐに使って家と仕事の道具揃えようと思って」
お金で建築を依頼に行ったユリアン、それについていく三兄弟。
「いいのかドレスとか綺麗な服も買えるんだぞ」
アンクも一応、他の選択肢を挙げた。
「そうだ、オシャレしたり、リーフティー飲みに行ったりできるんだ」
「いいえ。最初にギルド協会へ行って建築家ギルドを紹介してもらうの」
それからギルド協会に行って紹介を受けた。
建築家ギルドでは今回の襲来で街のレンガは余分に用意したため余っていた。
―建築家ギルド―
「はい、ああ~アンク三兄弟と妹さんの家ですね」
「何だその言い方は」
「間違えました。ギルド・ルフィアンの方ですね」
「そうだ、もうすぐ変わるが」
「どうしたんですか?もしいなくなるのでしたらお受け出来ません」
「すみません、まだ登録はしていませんが建築家ギルドになろうと思っています」
ユリアンがいきさつを説明した。
「ジャラジャラ」
ユリアンは4000Goldを頭金として手渡した。
「すごいお金ですね、これはどうされたんですか」
眉を上げて聞く受付。
「これはファーストを売ったものです。ギルド・テリーヌに加入していた時に手に入れました。これが証拠です。」
メニュー画面を開き、ブラックゴブリンの履歴を見せた。
「本当、ブラックゴブリンの所持するものと確認できました。これならGoldは受け取れます。ではここにサインを、家はここに立てるんですね」
「そうだ」
アンクがサインをした。
「契約が終わりました。打ち合わせは明日以後に行いますので家にいて下さい」
「あの・・・それと」
「なんでしょうか?」
「ほらっ」
「建築家ギルドに入るには推薦がいるとか聞いたんだが、どうすればいいのか教えてもらえないかと思って」
「俺からもお願いします」
「俺も」
「そうですね、昔からここに住んでいる事も考慮して聞いておきましょう」
「そうか・・」
「お願いします、俺たちは、どこの建築家ギルドでも頑張ります」
必死にお願いする、ポンド。
頭を下げるタンク。
「どうでしょうか?」
ユリアンたちが紹介されたガンガン建築の受付の女性が、親方にこの家の建築依頼について相談する。悩む親方、
「この物件を建てるにはもっとお金がかかるが、依頼者が真面目に働くのならこちらも引き受けよう」
物件の方は良い返事がもらえた。だが働くことに関しては、
「三人が失踪することはないと思うが、冒険者ギルドのことで問題が起きそうだから難しいな」
と否定的な答えだった。
冒険者ギルドはそれぞれ家を持っていて、そこに住んでいます。分け前はその家のお金が払い終わった後に取り分として貰えます。




