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奇跡の一掃 2

 空のモンスターが一掃後、地上も制圧された。ユリアン復活という奇跡に三人の兄とセイラ、カタリナが喜ぶ。

 しばらく五人で話をしていたがアンクは目を覚まさない。


「ほら、ヨダレを垂らして寝ているぞアンク兄さん」


「ふふふっ」

 手で口を押さえ、笑いを堪えるユリアン。


「これだけ噂しても起きないとは、夢で会っているのか」

とタンクが顔を覗きこんでいる。


「カランカラン」

  朝の教会の鐘が鳴る。教会の内部にある鐘と言っても良い、それ位小さい音。


「私は時間がきましたので教会の仕事を始めます。皆さん、ご用がありましたらいつでもお呼び下さい」

 セイラは横の通路を杖をつき手探りで歩いていった。



「パン!パン!それはそうと皆さん、街の片づけが残っていますよ。他のギルドにお世話になったのでそっちの方はお願いしますねぇ」

 やってきた別のシスターが聖堂の皆に言う。


「おーそうだった」


「ユリアンはアンクの隣で座っていてくれ、心配するから」


「うんん。もし怪我をした人がいたら教会に来てもらって、冒険者たちは疲れているでしょ」


「そう言うよ」


「それじゃー私も外の手伝いをしてこようかな。その前にライムたちに報告しよう」


 そう言うとポンド、タンク、カタリナは教会を出ていった。




 カタリナが商会の方まで行くと、教会に向かっていたエリスと顔を合わした。


「あっ、エリスさん今そっちに行こうかと思っていました」


「奇遇ね、それでどうしたの?」


「ユリアンが目を覚ましました。そのご報告に」


「ユリアンが・・・・」

 手を顎に当て、腑に落ちない顔をしたエリス、


「どうかしたんですか、エリスさん」


「別に。それで彼女は元気なの?」


「はい、元気です。すぐにユリアンに会われますか?お兄さんたちは街の手伝いに出かけましたが、ユリアンは教会で休んでいます」


「今日はユリアンに休んでもらって。私はライムたちが起きたら一緒に会うわ」


「そうですか、それでは私も手伝いがありますので」


「ええ、またね」


 エリスは教会の方へ歩いていった。

 エリスは他に気がかりな事があった。

 それは昨晩起きたモンスター襲来の件の事だ。何の目的だったのか調べるため街の被害を確認していた。街の修理が終わったら手がかりが無くなってしまう恐れがある。

 まずは教会の横のモンスターが一掃された場所から調査を始め、ユリアンがモンスターに襲われた塀、外を隅から隅まで歩き回った。




「昨日はすごかったなー!」


「何だか空を飛ぶ新種のモンスターが空に飛んでいたような感じがする!」


「そんなのいたか?」


「そんな気がするだけだ」


「あれは魔術なのか、炎の羽の生えた馬鹿でかい化物はいたよな!」


「それは俺も見た!」


「光の鳥もいたよな!」


「いたいたぁ!」


「あれはどこからやって来たんだ!?」


「ダンジョンだけでなく、街でも凄い事になったな!」


「冗談じゃない、惨すぎだろ!」


「これからしばらくは、修理の毎日だ」


「そうだな、話していないで俺たちも街の修理を手伝うか」


 被害のなかった街の住人は昨晩の話をしていた、だが被害が大きい建物は見ていられない状態だった。街の住人は通路に座り込み途方に暮れている。






「コンコン!」

 ご主人のノック音が耳に入った。俺が無意識に聞きたく音としてそれをシャットダウンした。また眠りに就く、それからしばらくの事。


「パタン!」

 音・・。


 俺は全身が筋肉痛で動けない状態だった。ベッドから目を覚まし、汗の臭いと新しいベッドのシーツの匂いが混ざった臭いを嗅ぎとり、生きている事を実感した。

 身をフルフルと微動だにすると温もりが色濃く肌に伝わる。それだけで疲れが押し寄せ、静止すると、流れていくように疲れがベッドに染みわたる。

 動くと全身がジンジンと痛み、信号のように火照りと揺らすような反響が起こった。

 俺は昨晩の事を思い出した。それも含めて、ご主人は俺たちのために金と手間をかけている。何かお礼をしなければと思う。

 だが気づいたら、俺は離れられない温もりの中で寝入っていた。

 俺は感情を遠ざけた、そして起き上がる。


 今、昼だろうか?時計がないので、街の住人の行動か教会の鐘で把握するしかない。とりあえず私服のまま外に出る。


 ご主人である、こちらに気づいたが見ない。


 宿屋から一歩外に出ると、迂闊だった、こちらを見る何人か。片づけをしている者もいれば朝市に行っている人もいる。


 俺の物珍しい格好に違和感を抱いた住人の視線が集まった。

 そこで俺は飾り気のない態度をとり自然を装って宿の中に入っていった。着衣で判断するタイプか動きや話し方で判断するタイプか、千差万別だろう。

 まだ住人の戦闘は冷めやらないようだ。昨日のモンスターの襲来の原因が分かるまでアンテナを張っている人々、些細なことでも情報として収集・蓄積される。

 ここで異世界の人間だと知られるわけには絶対にいかない。


「くっ!」

 部屋で鎧を見てみると臭かった、ツーンと汗の臭いがして思わず声を上げてしまった。ここ何日間か洗っていないから、脱いで初めて臭いに気づいた。こんな臭い奴らなのに住人・冒険者誰一人俺たちに何も言わなかった。

 俺は助けに行けなかった罪悪感から、もう少しアッキーを眠らせてあげようと待っているとエリスが部屋に呼びに来た。


「コッ」


「カチャリ!」


「よぅ、起きてるぞ俺は」


「話があるわ」


「カチャリ!」


「怒られるのか?」


 俺が部屋から出るとエリスが俺に耳をかせと言ってきた。俺は臭いから耳だけをエリスに向けた所、耳を触るもんだからこちょがしくてたまらない。


「ああっ、こちょがしい」

と悶えてしまった。


「いいから聞いて」

 エリスの口が俺の耳元に来ると、すごいエロチックで俺の体は性欲全快だった。それでも話を聞かないわけにはいかない。寒気すらする、こちょがしさに耐え俺はエリスの口元に耳を寄せた。


「さっき、カタリ・・」

「ふふっ、ふふ」

 俺は笑いがこみ上げた。そして体の力が抜けて腰が落ちた。


 この吐息とくすぐりに快楽を感じていたが残念、もう耳を掴まれることはなかった。はっきり言おう!エルフにウサギ、犬猫よりも俺が一番耳感じやすい。


「準備はいい?」

 距離をとって焦らすエリス、その俺の耳を掴むのか。


「い、いぃぞっ」

 そうくるか耐えてこそ男。

 戦闘がないなら、この世界にモンスターなんて存在しない。

 俺だけ戦闘なしで今回終わるわけにもいかない。この戦闘だけは俺が引き受ける。

 このマゾヒズムに勝つことができた時、俺は初めてナイトと言えるはず・・だ。


「あのねっ、ユリアンが目を覚ましたの」


「なにーぃ、何て言った?」

 相槌は間違えていない、言う前からそれを決めていたから。だが俺は耳掴みに心が囚われていたので何を話したのか頭に入ってこなかった。


「あのままなら・・ユリアンは死んだ」


「ユリアンが死んだ・」

 俺は絶句した。


「ねぇ、ライム」


「ユリアン・・」


「パシッ!!」


「何っ?」


「話を聞きなさい。ユリアンは息を吹き返したわ」


「ほんとかぁ!それで状態は?」


「ちょっと、掴まないで。復活して、何ともないみたい」


「そうか!助かったのなら何でも受け入れよう」

 窮地を乗り越えたユリアン、そのままの内容で吉報を皆に報告したい。


「そう・・ね、いい」

 エリスは何だか言葉が詰まってやめてしまった。

「まだアッキーは寝ているの?」


「ああぐっすりと」

 俺は右手を出し、どうぞした。


「起こしましょう!」


 エリスが部屋に入っていく。快眠を中断させ、朝のお迎えが決まった。元々エリスは甘くはない、だから休憩や睡眠など必要なものでも必要以上には取らせない。逆を言えば絶対とるのだけれど。


「私はモニカを、あなたはアッキーを、二人とも疲れているけど支度させて会いましょう!」

 そう約束して別れた。


「アッキー早く早く!ユリアンが起きたんだ!」

 俺はアッキーの周りで騒いでみた。


「ん~、んん!」

 うなされるアッキー、でも起きない。


「ユリアンだ、ユリアンが目を覚ましたから見に行くぞ」


「う~ん」


 ・・・・それから。


 アッキー、モニカさん共に半開きの目をしながら部屋を出た。


 今やご主人の存在は大きい。また、この宿屋が俺たちの拠点と言えるくらいの存在になっていた。


 そういえば宿屋で気になったことがあったのでご主人に話しかけた。

「この宿修理していませんが被害がなかったんですか?」


「私の宿屋は硬い素材の鉱物を屋根に使っております。それにすぐそこで、冒険者の方たちが戦っておられましたから被害は受けませんでした。ラクーダも元気にしております」


「ラクーダの事忘れてた。急に預けスミマセンでした」


「ゴメンナサイ」


「ありがと」


「ありがとう」



「もちろんです。あのラクーダはフタコブに移動させてありますから、いつでもお引き取り下さいエリス様。

 それと戦っていた冒険者はじめ、他の様々な冒険者がこの宿をご利用されています。夜外で寝るのが嫌なのでしょう。私どもとは昔から良いお付き合いをさせて頂いておりますので、当宿はいつも安全でございます」


 朝食は何も持っておらず、食べる物なし。




 四人でトボトボと教会に歩く。

 遠くに見えるのはサンドワームが掘った空洞を埋めるため土を運んでいる人々。人足がいる仕事でスコップを持って土を運んで穴を埋めている。

 街の家々はリコイルがぶつかって割れたレンガの修復と屋根の木の張り替え、鉱物でてきた窓を取りかえていた。



 教会に行くと椅子には誰もいなかった、シスターに尋ねるとユリアンは寝室に移動した話を聞けた。


「ユーリ、アン!」


「ああーっ、ライムさん!皆さんも心配かけちゃってゴメンナサイ」

 起き上がりペコリと頭を下げて謝るユリアン。


「そ、そんないいんだユリアン、俺は何も出来なかった。エリスか別の誰かが助けてくれたんだ」

 俺は照れてしまった。


「エリスさんですか?」


「えっ、土の中からは助けたけど、力尽きたのを戻したのは私じゃない」


「そうですか、エリスさん助けて頂きありがとうございました」


「いいわよ」


 一緒に笑うアッキー。


「ユリアン、私なんて空に連れられてドスンってやられてこの様よ。ほらこんな腰が痛いの!」


「どこですか、私のヒーリングで治しますっ」


「これは怪我じゃなくて勝利の勲章よぉ。それに大したことないから治さなくていいの」

 体力を心配するモニカ。


「そうですか?」

 怪しげな顔のユリアン。不安が残るその勲章、放っておくからだ。


「ユリアン、ゆっくり休んでね」


「もう行くんですか?」


「まだ、街が大変そうだから」


「そうですか・・」

 寂しいユリアン。


「じゃあ」


「じゃあな」

 まだ疲れてそうだ。


「また」


 教会を出る。




 商会に勤めるアルスに会いに行く。被害状況を確認しなければいけないと思う。外観はいつもと変わらない商会だったが、ドアを開けると中は真っ暗だった。


「何か暗くないですか?」


「お化けがいそう~」


「あれっ」


「あっ~これですか、これはですねモンスターからの防塞というやつですよ」

と受付の女性に語られた。見るからにチグハグな補修板、つまり中から打ちつけたらしい。


「アルスはいますか?」

と尋ねると、


「ただ今、疲労で休んでおられます。ずっと片腕で仕事をされていたので動けません」

と言われた。


「それならまた来ます」

と帰ることに。戦士なのでプライドがあるのか、エリスの守護最後まで日はある。次、来たとき会おうと思った。


 商会の中には作業をしている人が何人かいた。だが簡単に打ちつけたものの外すのは手間がかかる。道具も、そんなに便利な利器がないのだろう。屋根の方にも一人いるみたいだ。




 商会を出て時間が来ていたので昼食をとる。昼食はサンドナンとチッキン、ヤシの水を市場で買った。


「いつもと違い何か美味しくないわね」


「こんな空腹なのに美味しく思えない」

 本当味気なかった。


「鱗粉かな」


「?」


 エリスは一生懸命サンドナンを食べていた。




 街の片づけは住民でやって修理は建築家ギルドが行う。火をくべる台座はギルド協会に戻していた。


「へぇ器用にレンガを抜いて差し込んで固めていくんだな」


「あれって魔術使うのかな?」


「ヒートバーニングとか?」


「そうそう」


「そうね」

 エリスは俺たちが話していても、ほとんど聞いていなかった。


「そう」

 アッキーは変わらないか。



「ヴィンスさんに、お礼言わないといけないのに」

 俺は、お礼を言いたいが本人が見当たらない。


「冒険者たち、誰もいないわね」


「それよりテントさんの所でも見に行く?」


「そうだ、それがいい」

 俺たちはテントさんに会いに行った。


「大丈夫かなテントさん」


「もしやられていたら大変だぞ」


「食料なくなっちゃう」





 テントさんは畑を耕していた。ご家族も一緒である。


「畑は大丈夫でしたか?」


「心配せんでええ、わしはなーんも思っとらん」


 そう言っていたが目が悲しそうだ。畑は、モンスターの落下で潰され毒され作物がほぼ全て廃棄処分になったようだ。

 また、畑を耕し新しい苗を植えている。


「市場に出す食料は家の中で貯蔵していたから残っているが、このままではなくなってしまう」

 そう言ってまた畑を耕していた。急いでいるし忙しそう、家族総出であっちにいったりこっちにいったり俺たちは忙しそうなので他へ行くことにした。


「それでは、失礼します」


「失礼します」




 俺たちは街の塀の下を埋める作業を手伝った。土は三兄弟の家の近くにたくさんあった。なぜなら(しき)りに三兄弟が家の中を行ったり来たりしている。


「エリス、この土の山って昨日の謎に関係ないか?」


「それは私がユリアンを助けた時に作った山よ」


「そうなんだ」

 そこまで考えていたのかエリス、それで三兄弟もここを手伝っていた理由がわかった。


「私たちも手伝いましょう」

 エリスがそう言うもんだから、俺たちの一日はその仕事で終わっていった。

 戦闘後の街の修理と片付けの手伝いがライムたちの本日の修業となります。

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