限界の果て 5
三人の兄と妹を救うエリス。アッキーとモニカはボルフライに捕まり空に急上昇、それを知るライムは助けを求める。
アンクはユリアンを背負い、手当たり次第ヒーラーに話しかけた。
「ユリアンの意識がないんだ、頼む魔術で治してやってくれ」
「ごめんなさい、傷の回復魔術しか使えなくて」
他をあたる、
「それは皆できないと思うな。この戦況の中、仲間の回復だけでも魔力が足りないし」
「そうか、次行くぞ!」
「おう!」
少し進むと、アンクの前に冒険者がいた。
「ヴィ、ヴィンスヴェルタ!」
「どうしたアンク、それはユリアンか?これは大変だ!おいリコルチェ!こっちだ、おーい!!」
ヴィンスベルタは両手を振り、リコルチェの名前を叫んだ。
ぎこちなく走るリコルチェ、
「なん、なんなのヴィンス!?」
「アンクの妹ユリアンちゃんだ!」
「誰?それで、これは生死の境にある状態ね」
「お前の魔術で治せないか?」
「ううん」
首を横に振るリコルチェ。
「そぉ・・かぁ。アンク、お前はどうしたい?」
「俺はユリアンを絶対に助ける。悪いヴィンス他を探す」
「分かった、力になれなくてすまん」
そういってアンクは弟の二人と、どこかに走っていった。
「どこ行くの!?」
エリスが呼び止めるが声が耳に届かない。
「せいやぁ、はっ!」
再び戦闘は始まった。リコイルと塀の下を掘るサンドワームを連続して倒すヴィンスヴェルタ。
「アンクとヴィンスはもともと同期なんだ」
ヴィンスベルタと同じギルドの戦士、デメグラムがエリスに話を始めた。
「ギルド協会で職業選択の時、二人はそれぞれ冒険者を選択した。
ヴィンスはギルドにも恵まれ、戦闘もうまくいき上位ギルド三位にまで上りつめた。
一方、アンクは今のルフィアンに入る前に他のギルドに入っていたが、そのギルドが突然、アンクを裏切り殺そうとしたんだ。
裏切りや他の冒険者を襲撃するのは、今は禁止行為とされているが昔は平然と行われた。
そしてアンクは、普通の冒険者を見限り荒くれ者の冒険者へと落ちていった。
どこのギルドに行っても自分ではないのに殺しの悪評が付きまとい除名された。
そしてあいつも人を襲うように・・・。
ただアンクの弟とユリアンがいたから、ここまで何事もなく生きてこれた。
俺はヴィンスとアンクのやりとりを傍で、ずっと見てきたから分かる。
ダンジョンのお宝を回収後、あの兄弟たちはギルド冒険者から退くつもりだ。ギルド協会を訪ね、道具も買い、街の建築家ギルドに入るつもりだろう」
「それで」
エリスが長々しい話を聞いて一言いう。
「え、何だ。だからヴィンスはあいつを・・その」
「分かったわ」
エリスはそういうとアンク達を追いかけていった。デメグラムを目をぱちくりしていた。
アンクたちはユリアンを抱え走った。酒場に行くがヒーラーは全員、戦闘に出ていた。ギルド協会にも走ったが不在だった・・・。
「ユリアン、しっかりしろ。おいポンド、タンク、どこかに良いヒーラーがいないのか!?」
「それが手分けして探したんだが見つからない。見つかってもすぐ断りの返事だ」
「それよりユリアンの様子は大丈夫なのか?」
「ありったけのポーションは使ってみたが微かに息があるかないか、鼓動の音もほとんど。脈も段々と小さくなっていて!!」
「残すは教会だけか、しかし空にこんな沢山モンスターがいるんじゃーこれ以上は進めない!」
夜でボルフライの姿は見えにくいが、クリアバタフライと共に姿は視認出来た。
「なんだこれは、空から・・・」
目に見えにくいが鱗粉がふわふわと落ちてきていた。
「いや、よく見ると、ボルフライもいやがるぞぉー!」
ギルド協会から教会へ近道しようとしたアンクたちは広場にいるモンスターの多さに尻込みする。
一旦戻り、ギルド協会から商会までを路地裏を通っていった。さらに商会から教会へ真っ直ぐ走っていった。
エリスが三兄弟と背中のユリアンを発見!
「あなたたち、どこにいたの!そんなことしてたらユリアンが死ぬわ。安静にしなくちゃ、さあ教会に!!」
「おれたちも今そこへ向かう所だ!」
望みを託す教会だが、エリスはそこに疲れ果てたシスター達とセイラ、カタリナしかいないのを知っていた。それでも、まだ動けるヒーラーのカタリナに預けるのが最善だと思った。
――教会――
寝室までセイラに付き添ったカタリナは、教会を守る冒険者の傷を治していた。ただカタリナの魔力でも、使えてヒーリングが約二十数回。冒険者たちは全快とは言えないがHPを回復させ外に出て行った。
「すまない、また回復を頼む」
「はい今、治しますね。それでモンスターたちはどうなりました? 」
「全然、あいつらどこから来ているのか」
「はは、元を絶たないとずっとこのままですか?」
「俺たちは、きっとやられていくな・・」
「さあっ治りました!明日を信じて頑張って下さい」
「明日か・・、来るといいな明日」
そして時間もそんな経っていないが、その回数が三十回を超えた頃に教会に入ってきた見覚えのある五人。
「あれ!?」
「カタリナ!!」
「エリスさん、その方は新しいヒーラーですか?」
「そうだ。冒険で疲れ果てた所をモンスターに襲われ、生き埋めにされた俺の妹」
「それは大変でした、傷の具合は?」
「ああ、ポーションをありったけ使った。でも意識が戻らない。呼吸も微かだけ、鼓動も小さくなり、また遅くなっている」
「ちょっと貸して、HPの回復はこれ以上しなくていいから・・」
カタリナは魔術を使った。
「与えよう、煎じられし薬草を!」
「メディシン!!」
・・・。
「起こせ、目覚めの心気!」
「ドラグケア!!」
ありったけの魔術を気持ちを込めて唱えたカタリナ。
その場の全員がユリアンの目覚めを願うが、目が開かないユリアン。
エリスは一度教会を出た。そして外に垂れた血痕の跡を見て知った。カタリナが何度も冒険者の回復を担っていたのを察する。それでもまだ魔術を唱えるカタリナに、
エリスは言った。
「カタリナ、あなたまで無茶したら死ぬわよ」
「平気です、エリスさん。だって私にはポーションがありますから」
「!?」
エリスは教会を出る前に、カタリナにポーションを五つ貰っていた。
それはユリアンを助けた時に使った。残りはユリアンの兄弟にあげたわけだが、まだカタリナはポーションを持っているのか?それで教会を守る冒険者のHPを回復させていた?
「見て下さい!私は街とギルドで働いて、お代替わりにポーションを頂きました。またアイテムショップで毎日買いました」
教会にある寄付の中にはポーションが沢山入っていた。
ポーション、最初に手にするアイテムを集め、最大MPを無視して回復できる唯一無二のヒーラーになったカタリナは、セイラたちシスターの職の一翼を担っていた。
エリスは言葉せずに、へぇ面白いじゃないと笑った。
「まだ意識がありませんか?私の使える魔術は全て試みましたが」
カタリナはユリアンの兄三人に頭を下げた。
そしてエリスを見る。やはりギルドから抜けて良かったと、目を伏せ毛布をとりにいった。
カタリナが戻ると、三人はユリアンを教会の長椅子に寝かせた。
「危なくなったら俺たちも外で戦おう」
「ああ」
「それまでは、ユリアンをここで守る」
エリスが深刻な顔をして教会を出て行った・・。
「命が危ない、私に力さえあれば・・」
空に連れて行かれたモニカとアッキー、
モニカは微かに目を開いた。キラキラと光るクリアバタフライに、羽を激しく動かすボルフライが目の前にいた。腕と体毛にがっしりと掴まれたまま上空にいるモニカは動くことができない。動けば落ちる、動かなくても落とされる。
まだ、上げるのぉ!?と思っても、ボルフライは他のモンスターよりさらに上空へ上る。
「カシャカシャカシャカシャ!」
と目を動かす、前にいるボルフライ。
そして手をバッと開く!
「シュコ」
「トスッ。あぁっ・・」
モニカは落ちていった。
――――。
アッキーは二匹のボルフライに掴まれていた。両手をそれぞれ一匹が持つ。触感だけでチクチクしブンブンとする音が大きくなり羽が顔に当たりそう。
死の予感が恐怖となってアッキーに襲いかかる。
「ぁぁ、僕は」
「ブウウウウウウン!」
音が鳴るのか鳴っていないのか、それさえも分からないほど頭を埋め尽くす羽音と、七色のクリアバタフライがその毒気を象徴するかのように、互いを擦り合い鱗粉をまき散らしている。
震える。だが・・アッキーは自暴自棄からだろうか、
「どうせ死ぬのなら!!」
片方のボルフライの体を足で挟んだ。そして手を離すボルフライの羽根を引きちぎった・・
「カシャカシャシュゥ―――」
抵抗は空しく下に落ちていった・・。
「――・・ゴッ」
俺は、とりあえず宿屋に行った。もしかしたら皆がいるかもしれない。
「あの、ご主人」
「おやライム様、どうされたのですか?」
「エリスたち戻ってきていないか?」
「エリス様ですか?まだ泊まりに来ておりませんが一緒では?」
「いや」
「しっかりして下さい、ライム様ー!!」
「ああ」
俺は腰に力が入らず床にへたり込んでしまった、さっきまでの記憶は現実だったかすら判断できなくなってしまった。俺は何を妄想したのか、宿屋にいるかもと思い込んでいた。
ご主人は急いで水を持ってきた。
俺は水を一杯飲んで、もう一度考えた。
心当たりのある人はそうだ、ユリアンとエリス。彼女たちはどこに行ったのか?
アッキーとモニカさんが街からいなくなったなんて、みんなに合わす顔がない。
リーダーは一人遅れて、何もできず仲間が死んでいたなんて無責任すぎる。
ご主人がこちらをみるので、俺は恥ずかしくなり顔を隠してしまった。そしてこれからの行く末を考えた。
主人は外の様子を見に行った。
「ガシャッ!がシャッ!」
空からモンスターがふってきた。見ると巨大な氷の塊のように固まっていた。主人は、まだ冒険者がモンスターと戦っている最中なのを知った。
「せめてこれくらいは・・ライムの仲間なんだから」
教会の左側、広場とは反対の位置で、エリスが空に向かって魔術を唱えた。
「飛べ、ゆらめく不死の炎よ!」
「ファイアバード!!」
「吹き飛べ、爆裂の熱!」
「バースト!!」
夏ではないが、飛んで火にいる夏の虫。のごとく火で否応なしに焼け死んだ空のモンスター、それを二つ目の魔術で吹き飛ばしていた。
「みんな生きていて」
エリスは手を組んで空に祈りを捧げた。
ギャスパピロッチは自分の射った矢を見ていた。するとクリアバタフライの光る体が突如揺れ動く。
「なんだ、何か光り方が変だぞ」
「どうしたギャスパピロッチ!」
「空に誰かいるみたいだ」
「モンスターか?」
「魔術・・・」
広場の空に朱い炎が揺らめいて火の切れ端がたくさん空中を飛んでいる。その炎はボルフライ、クリアバタフライの羽を焼く。その途端、燃焼が大きく広がり絨毯のような朱い鳥となってモンスターたちに燃え移っていった。
「ああ、街の終りだ!」
「これは一体!」
爆風と共にモンスターが粉々になり、吹き飛んでいた。広場に落ちていくモンスターの体の一部が草や家に燃え移る。
「火が燃え移るぞ!」
大半のモンスターが落ちたあと雨が降ってきて全てを消火していった。
「何だ、あれは?」
さらに一筋の光が教会の上空に現れた。黄色か青色か綺麗な光、その光はクリアバタフライより眩しく強く、美しく輝く。
「ドドドド、ドドドド、ドドドシュウ!!」
「ババババァン!!」
「おい、あれを見ろ!」
「何だ、魔術かこの光は!?」
街の外へと飛んでいった光はどこかに落ちて消えていった。
教会の中でユリアンの看病をしているカタリナと意識が戻る事を祈る三人の兄弟も、この光の振動を感じ取った。
「なんだ!この振動と音は!?」
「俺たちも外で戦おう!」
「ユリアン、行ってくる!カタリナさんユリアンをお願いします!」
「お願いします!」
「はい!」
そういって三人は武器を取り外へ出て行く。
「待て、空から何か落ちてくる!」
アンクが何か見つけた。
「モンスターだ!」
ポンドが気づいた。
光が通り過ぎてしばらくの間、一掃されたモンスターたちが空から大量にサンサンドの街に落ちていた。そのままの体、散った体、裂かれた体。
「上位ギルドがやってくれたか!?」
タンクが言う。
「よぉおおし!空のモンスターが全て倒されている!!」
アンクが中にいるユリアンとカタリナに声をかけた。
中からカタリナが出てきた。そして空を見る。
「はあ、よかった・・。これでみんな助かる」
カタリナは安堵の息をついた。
「ライムさん、外が空がモンスターが!!」
外を見ていた主人が俺を呼びに来た。
「えっ」
俺はご主人の驚く顔を見た。
「早く皆さんの所に!!」
ご主人が俺の手を取って引っ張った。俺は仕方がなく立ち上がった。
「さあ、行って下さい!!」
俺は走った、何でも受け入れる。これまで仲間のために・・・ちくしょう!!
宿屋、商会、広場にモンスターの死体が転がっていた。そして消えていく。まだ空から降ってくる。教会も?
走りながら見ていると、商会の前の家の軒下に誰かが倒れていた。モニカさんとアッキーである。
俺は二人の腕に手を当てた。
「脈がある!」
連れていく?いや、まだモンスターがいるかもしれない。助けを呼ぼう、俺は二人を家の間に隠した。
「教会ならいる!」
地上のモンスターは、まだいるので頼んでもヴィンスさんたちに断られる可能性が高い、俺は教会に急いだ。
途中、大量のモンスターの死骸が街中に横たわっていた。それとモンスターの間に防水オイルの空の容器アが転がっている事に気付いた。こんなに大量に・・こんなもの何に使ったのか。
モニカさんたちか。今は考えないで急ごう。
限界突破した皆が起こす行動とそれぞれの道。




