限界の果て 4
アッキーとモニカは運急上昇、ユリアンと三人兄弟が敵の手に落ちる。教会を訪れたカタリナ。
「ガタガタガタガタン!」
「ガタ」
「ブゥ―――――ン!」
「ガッガッベリベリ!!!」
商会の屋根から部材である木の板が、揺らされ一枚ずつ剥がれていくような音がした。
また外から家の壁を削る音がする。さらに存在を色濃く映し出す羽音が耳に入る。この自分たちの周囲を塞ぐような、乗っ取るような圧迫感が、二人の心を追い詰めていく。
「きゃあ~!」
「なんだ、どうしたんだテラさん!」
「スミマセン怖くて」
「たしかにここは二人だけしかいない。もしモンスターが中に入ったら襲われて怪我か死ぬだろうが、それは突き破られたらの話。俺はこの商会の中なら、どこでも修理をするから心配はない、壊れた所があったらすぐに呼んでくれ」
アルスがそういうとテラは不安そうに、
「破られないでしょうか?」
と尋ねた。
「これまでの経験からして、家の中ならモンスターの攻撃対象には入らない。だから攻撃して破ろうと思わないから安全だ。だが、あの数で家の上にのられると、いつかは重みで壊れるかもしれない」
「ズッツ、ズッツ、ズズズ、ズズ、ズ」
「ああっ、あそこの屋根が下がっています!」
「すぐ行ってくる。ここで待っていれば街の冒険者がきっと倒してくれる、それまでの辛抱だ」
―少し前のツリーシードの森―
森に住まう狂戦士とされたドローシラは、森の上空の変化にいち早く気付いた。静寂な佇まいを荒らす光と影、その正体を突きとめるため後をついて行く。
「普段、あまり来ないモンスターたちがあんなにいっぱい、どうしたのかしら」
「タタッツ、タタッツ」
少し走ってまた空を見るドローシラ、
「街の方にモンスターが集まっているわ」
「タタッタッタッタッタッ、ザッ」
森を駆けては立ち止まり、ドローシラは街のある方へ向かっていた。
街では、
「パサパサパサパサパサ」
ツリーシードの森に並ぶように建てられた街、そこに下りようとするクリアバタフライ。
「―――――」
「グスッツ・・・・、ドサリ」
寸前、体を貫く鋭利な氷?氷は先になるほど細くなっている。
「もう一匹下りてきた」
「貫け、滴る雫を冷酷な槍と化し!」
「アイシクルランス!!」
槍のような氷の刃が体に突き刺さり、クリアバタフライの体の光を帯びて七色に輝いた。
「来てるのは、分かってんだよ!」
「ここに飛び入ろうとは三世代早いわ!」
パンは魔法使いの両親に育てられ、使える魔術が他より秀でる。
「お見事パンさん、いつもながら華麗な倒し方!」
パルムはヒーラーだが、魔法使いの魔術に魅了されてしまった。
「真面目にやれ!パルム」
アーサーが一喝。
「パン、お前がもっとシンプルに倒さないからだろ!しかもお前まで何見とれているんだ」
「厳しすぎよ、魔術は最も効果的かつ耀く相手に使うべき」
「そうよ」
「それにしても多いな、こんな数に襲われたら街が荒廃するぞ」
「それはない、俺が全て片づける!!」
「ぎゃあ、何であんなに集まってきたの?ここに何があるってのよ」
森に隠れて見えなかった。月が照らす上空には、暗雲が立ち込める程の数のモンスターがいた。
「何に集まってきているのか・」
「ザンッ!!」
「パン、深く考えるな集中が途切れるぞ!」
「跳べ、波紋の水滴!」
「ウォータースプラッシュ!!」
パンのウィッチロッドから空に魔術が放たれた。空に水が現れ、飛び散る。水がモンスターにかかる。
さらに、もう一度あちら側にもウォータースプラッシュ。普通のウォータースプラッシュは地に跳ね水ができるのだが、パンは魔術を応用しそれを空中で成す。
そして、
「吹け、凍てつく息と凍える風!」
「フリージア!!」
「熱を奪って自由も奪う、魔術の最大の効果が発揮できるように先に熱を逃がすの」
「お前たちは逃がさないがな」
落ちてくるボルフライ、モスグリーンを倒しながら身をかわすアーサー。
「多すぎるぞ~、パン!」
「だってー!」
「俺は構わない」
「ズッ、ドッ、シュッ、ダッタタ、ズッ、ビシュッ!」
ノアがモンスターの落下点に合わせダッシュ、ファーストステップを器用に使いモンスターを斬っていく。斬り・倒し・消える、時間差は多少あるものの次々とモンスターは姿が消えていった。
「パルム、そっちはどうだぁー!」
パルムは地の利を生かし、街に上がろうとするサンドワームとリコイルにスタッフで攻撃する。
「な~に簡単よ、高所から低所に、上から下にスタッフを振ればいいだけ。敵はこれ以上、上がってこれない」
「うわぁ~」
「ザスッ!」
他の冒険者が飛び上がったリコイルを突いて押し返した。
「モンスターがあんなにも、ここのモンスターたぁた・た!」
「・・にいてハ・・・ガ、ウガガガッツ!」
「ウガガガガッガガガッ!」
「ウバババァー!!」
「スラッ、シャアー!!」
「ガシッ!」
「ビキッ、ビキキキッキキィイイイッ!!」
ドローシラは襲ってきたシャドースネークを掴み口元を両手で開いて二つに裂き開いた。
イーティングフラワーたちも活動を盛んにする。ドローシラは歩きながら近くのイーティングフラワーの花びらを毟りとり、その花を口に押し込んだ。激しく暴れるイーティングフラワーを尻目にどんどん道を進む。
ラフレシアが飲みこもうとすれば、それを内部から破り千切る。
だが、それだけではない。ドローシラが突然、暴走した。自我が崩壊して制御不可能になったドローシラは森を抜けてしまう。
「チリリン!!」
「リリリリン、リリリン!!」
ドローシラのリングブレスレットの鈴が連続して鳴る。のが街の住人の耳に入った!!
「例の化物だー、鈴が鳴っているぞ!」
「うわぁ~しかも街に出てきたー!」
「狂戦士か?なぜあいつが森を出るんだ、おかしいじゃないか?」
「食われる逃げろー!」
モンスターの侵入防止と砂が入らないようにするため街の地面は木と鉱物によって高く作られていた。
そこに上がってきたドローシラ!
「うがあああっ!」
「タッタッタタッ、タタタバッ!ガタ、カン、カシャン、ジィーーーッ、コロコロコロ!」
ドローシラは街のショップのカウンターにぶち当たり、勢いでそのまま店の中に落ちていった。
もう仕事が終わり、ショップ店員がいないから誰もケガはなかった。
これが昼間なら大変である。
カウンターの中から街の広場に出てくるドローシラ、
「ウバババアァ!!」
「ウババカガガガガアァ!」
暴走する勢いが増すドローシラ、
「ドン、さあどこからでもこい!」
戦士のアーサーがガードの姿勢をとるが、ドローシラは相手とせず暴れ回る。空中にいるボルフライからボルフライを飛び乗って敵味方を区別することもなく鍵爪をたてる。五匹、十匹、その姿はモンスターと戦う姿なので狂戦士と疑いようがない!
しかし、人間にも襲い掛かってくるから拘束することにしたアーサー。
「俺が止める!」
ドローシラの目に映るアーサー、次の標的となった。首を振るドローシラは足を払い上げ全身の筋肉をのばすようにしてアーサーに爪を立てる。
戦士のアーサーはスキル・ガードで受け止める。
さらにドローシラは跳びあがり肩を尖らせアーサーにぶつかる!
これをアーサーは盾を上げガードで受け止める。この攻防した瞬間、アーサーは硬直する。が、
「アウトブレイク!」
アーサーの固まった体がコマ送りに動いてドローシラの左手を抜け真後ろに位置した。そして脇の下から手を通し首の後ろで指を組んだ。次の攻撃ができず抑え込まれるドローシラはアーサーと倒れ込む。
「パン、眠らせてくれ」
「まとめてね☆」
「散らん、星降る眠り!」
「スリーピングスター!!」
「グググッツ」
「ウババババ!ウッツ・・」
「もういいか」
「あれー?なんで眠らなかったの」
「これだ、俺はまだ眠れない」
耳に瓶のフタを詰めるアーサー。
「こんなの私たちだけで・・」
空を見ると森の広さと同じモンスターの森が出来ていた。
「できるかよ」
「いいのか、殺さなくて」
「これを見ろ、なんだこれは?人間とモンスターだ」
「このことは話すなよ」
「もちろんよ」
森の狂戦士の秘密が一つ解き明かされた。街の男にドローシラを繋いでおくように頼む。さあ狂戦士は片付いた、あとはモンスター。
街の男は納屋のような場所にドローシラを繋いだ。
その後、氷と水の魔術により変えられた環境の中で戦闘を強いられた空のモンスターたちは数を減らしていった。ボルフライ、クリアバタフライの動きが鈍くなり白い吐息を吐く、体温が活動限界まで下がる。次々と羽を休めるように地面に下りていくモンスター、それを斬り、突き、刺し、薙ぎ倒す街の冒険者だち。
所詮、環境に依存する街の外のモンスターでは環境の変化についていけなかった。
サンサンドの街は劣勢の状況であるが、ギルドたちの協力の努力の結果か濁った空が少し見えるくらいにはモンスターは減ってきていた。
リコイルは入り口で全て倒されていた。サンドワームは街の中に入るが多くが塀の近くにいた。全部土を掘り起こし先に街の塀を壊す算段なのか。
モニカとアッキーはポーションで傷ついた体を回復し、モンスターと戦う。とはいえ、動きっぱなしで体力が底をついている。つまりHPはあるが疲れて体力がない状態である。
「アッキー、そこ刺さっていないわよ!」
「う、うん!」
「ええい、ええ!」
「ふっ、んっ!」
それでもモンスターが疎らなのも幸いし戦闘は順調に勝利を収めていった。
二人は修業で長期の戦闘には慣れていた。
しかしここにきて、精神や体力の限界が近づいていた。夜までの体力は残されていなかったようだ。
モニカのグレアロッドの攻撃がボルフライの目にヒットする、身をよじるボルフライ、効いている証拠である。しかしトドメをさそうとすると逃がしてしまう。
アッキーの斧がボルフライ二匹を斬りつける、動きがとまるボルフライ。後はとどめを刺すだけなのに次の一振りが出ない。
「はぁはぁ、もう動けないわよ!」
「ぜぇぜえ、ぜぇぜぇ!ぼ・・・」
もうどうなってもいい、そう思うほどに疲弊、疲労して動きたくなくなっていた。
そしてモンスターの攻撃を避けるだけになっていった。歩く足を動かすだけ、時間稼ぎにもならないか、誰か誰か来てくれないか、そればかり考えていた。
「み・・」
「ぎ」
モスグリーンが地上に降りてきて急にとまる。粉が舞い散り目に入る。
「うんんっ?なんか土が目に入って・・アッキー少しお願い!」
「モンスターの鱗粉!」
「えっ、嘘!」
目が開く前にボルフライが襲い掛かる。横からモニカを腕で掴み、空へあがっていった。
「モニカさん!」
力を振り絞り走るアッキーは走った!間に合わない!!
暴れて抵抗するモニカ、
「アッキー!!」
都合よくアッキーの前に下りてくる別のクリアバタフライ、
連れていかれるモニカの姿を見ていたアッキーの目に鱗粉が入った。
薄目にしたくても暗くて目を閉じられない。
「うっっ、ぁあああ」
目を擦るアッキー。こすればこするほど目に絡みつく鱗粉。それでもアッキーは目を開くが、さらに鱗粉を散らして目を潰そうとするクリアバタフライ。
闇に紛れる鱗粉をかわせるほど戦闘経験はなく、急に何かに突き飛ばされ、二人は二匹のボルフライによって上空へ運ばれていった。
「この世に神も救いもはないのか~」
ユリアンを救えず塀の下へ引き摺りこまれたアンク、
「パサパサパサパサパサ」
「ズズズーッ、ズズズーッ」
「あるわよ」
エリスが来た!だがエリスは力も体力もあまりない。そこに塀があり、外ではリコイルたちが群がっている。サンドワームは賢く塀の下に住処を作ってそこで人間を死ぬまでいたぶるつもりだ。
「・・なら」
「目覚めよ、地に眠る竜!」
「アポファイシス!」
竜が起きるように土が盛り上がる、塀は破壊され地面がそのまま上へ隆起した。塀のある所から街の外の奥行50mまでの範囲、幅5m、高さ3mが隆起している。魔術で地形ごと上へあげて、四人を救いだす考えのエリス。
誰かここにいたらわかったであろう、掘るなんて発想ではとても助けられないことを。
しかしエリスから見えたのは、兄弟三人の体だけであった。ユリアンの姿は見えない。
「力を貸せ、地中の土竜!」
「クレイモール!!」
四人の周りの土を削り穴をあける。隆起した土の中にいる四人の周りの土はいらない。空洞ができたことで土が崩れやすくなった。エリスは男三人を引っ張り一人だけうまくその空洞に落とすことができた。
エリスは、その男の顔を平手でたたく。
「ユリアンはどこ?」
「ユ、リ、は上に・・・」
片目を閉じたまま、男がそう言う。見るとユリアンの服の一部が空洞上部に見えた。
「このポーションを体でいいから少しでもあたるようにかけて」
ポンドは急いでユリアンにポーションをかけた。ユリアンは無反応だったが、これもともう一つかける。
「あなたの力で助けて」
力のないエリスが男に言う。
「やってみる!」
サンドワームが土から顔を出す。土の中に刺さる剣を引き抜いてエリスは斬りつけた。
「シュラッ!」
ポンドは土を掻き出しアンクを助けた。
アンクとポンドの二人は土を掻き出しタンクを助ける。
アンク、ポンド、タンクの三人は土を掻き出す。周囲のサンドワームは手で鷲掴みにして次々と外へ投げ捨てる。手から血が出てもお構いなし。
大切な妹の体に刺さったら大変だから、剣で土を掘るわけにはいかない。だから指で土を掘る。
指が擦れて切れて、痺れ痛み、感覚を失っても土を掘る。指が動かないなら手首を動かし、それも駄目なら肘を使う。
「ユリアン!!」
「ユリー!!」
三人は全ての神経を注ぎ、全ての集中力を総動員し、全身全霊を傾けユリアンを助け出した。
手は血と土でボロボロになっていた。
ユリアンは横たわっていた。体力が底をついているようだ。
「このままじゃー危ない、早く傷を癒してもらわないと」
時、わずか遅れ、ライムはショップの男とギルド協会を出た。
「急いで下さい!!俺は仲間の傷を回復をしないとけないんです」
「分かってる、そう慌てるな!」
二人が街の中央通路に差し掛かると、そこで戦うヴィンスさんたちが見えた。俺は近況を知るため辺りをできる限り見渡した。少しモンスターが減った気がするが、まだ・・
「すぐに取ってきます」
と通路近くの家へ入っていったショップの男。
辺りを見回すと何か無性に気になる光景があった。
この中央通路から見える商会、その前に何か落ちているのが目に映った。
「なんだ、あれは?」
アイテムショップの男はまだ出てこない。胸騒ぎがする。そして俺の心を掻き立て始めた!
俺は近くの男に声をかけた。
「あの、スミマセン!」
「なんだお前は?俺はマッドギルドのデメグラムという戦士だが、話しかける時は名を名乗れ!」
「すみません、俺はギルド・テリーヌのライムです。仲間の様子を見たいので、そこのドアから男が出てきたらギルド協会にまで送ってい頂けないでしょうか?」
「俺も忙しいんだが・・」
「お願いします。アイテムショップの方なので」
そう言い、俺は商会まで走っていった。
「おい!」
俺は、そのまま走り出した。これはただ事ではない。それが気のせいであってくれれば・・。
走る、走る。そして商会に近づいてきた。月のような光が空を照らし、台座の炎が街を照らす。
商会に落ちているものは武器だった。
見ればアッキーのグレートアックスとモニカさんのグレアロッドだ、地面に転がっている。
「上か!?」
モンスターがどの位の高さから落とすのかは知らないが、上空に連れて行かれた姿を想像した。
俺は、さっき話しかけた場所に戻る。
「はぁ、はぁ」
「はぁ、はぁ、アッキーとモニカさんが」
ヴィンスさん達が見えた。
「仲間が、仲間が上空に・・」
「今はそれどころじゃないんだ、このままなら全員死ぬぞ」
必死に縋りつくが皆、街を命を守るため戦っている真っ最中、これ以上抜けられない。この場所で戦う一人に俺はギルド協会に送ってほしいと頼んでいる。
「酒場だ、酒場に誰か!」
走って階段をのぼり、酒場に飛び込むように入った。
「誰か、俺の仲間が上空に連れていかれた、助けてほしい!!」
誰に掛け合っても見向きもしない、諦めろと言うように顔を反らす。
・・・
俺は、酒場を出た。
時間軸でやっています。ほんの数十秒の差や、暗いので100m先の仲間が見えない事もある。




