第17話 限界の果て
ライムたちは剣×魔術×地形を活かし、鉄球を持つオーガを倒す。
「街へ戻りましょう」
七階層へ繋がる階段に立つエリスが無表情で言った。
「エリス、アイテムもうないぞ」
ポーション、エナジードリンク共に全て使い切った。
「ないわね」
頷くエリス。正直、近くで守ってほしかった。
「帰るんだぁ!」
モニカさんは喜んだ。
「アッキーさん、痛い所ないですか?」
「んぅ~、平気」
腕を曲げて力コブを見せた。前のめりになりながらアッキーは歩いていく。
フロアボスは倒したが、フロア内にはモンスターがまだ沢山残る。身を隠し様子を伺いながら、俺たちは入り口に向かって歩いた。
「次もボスは俺たちが倒すのか?」
「そうよ」
そう言ってエリスはあしらった。
皆、戦闘で疲れ果てていた。
エリスは先頭を歩いた。エリスが振り返ったら止まる、走ったら走る。
達磨さんが転んだ位、集中しないとモンスターに見つかる。
肉体的限界の中で使えるものと言えば精神力しかない。これは、まだ余力があった。それを逃走のために使う。細心の注意を払い逃げ果せれば俺たちの勝利だ。
「ゴブリン一行よ!」
俺たちは草むらで身を伏せた。だが血の臭いがするのか、その場からゴブリンたちは離れようとしない。ずっと止まっている、そして少しずつこちら側に近づいてきた。
(あなたたちはここから六階層入り口まで走って)
そういうとエリスはフロートで空中に浮かび、ゴブリン一行を引きつけた。
「ゴブゴブ、ゴォオ!!」
俺たちはその隙に逃走した。走る、逃げる方向は化物道を抜けて真っ直ぐの道がある所。
草が生い茂るモンスターが出現しなさそうな場所を選んで歩いた。
血の臭いから場所を特定されないように気を付ける。進みながら前後左右の確認を怠らない。
「まだ入り口ないのー!」
(はぁ、はあ、みんな隠れろ)
「はぁはぁ」
「っぅ」
トロルがすぐそこに、あちらにはゴブリン、さらに向こうにもトロルがいた。
倒さないと増えていく感じがする。フロア内の最大出現数とか決まっていないのか?
(よし、そこから行こう)
(うんっ!)
(こんなにいるってことは、違う道を歩いているんじゃないか?)
(そうかもね)
(ここ、来てないよぅな・・)
とユリアンが戸惑う。
「どうして分かるの?」
「草が違うから」
「そうだ!こんな草は来た時なかった」
膝までかかる草が視界一面に広がっている。来たときの風景を思い出すが、そんな記憶はなかった。
「!」
草木で見えなかった。真っ白で透き通る外壁がある。だから遠くで見ていてもその存在に気づかない。ここまで歩いた距離は2km位か。
この先は進めなかった。壁を壊せば外に出られるかもしれないが、地上まで降りる方法が見つからない。
「なあ、これ!」
「外壁ね、ここは塔の中だから行き止まりがあってもおかしくない」
永遠に続くフロア何て作れない事を知る。
「ここが塔の中だって、街の外と同じ広さじゃーないですか?」
さすがに、そこまではないと思う。
「言う通り、かなり広い」
「これは主の魔力の強さ?」
アッキーがユリアンの隣で呟いた。子どものようなユリアンは、ゲームで考えるとシロップと同じ存在なのかも。
「魔力の強さ!?」
「そしたら街の外のモンスターもですか?」
「モンスターもそうねぇ、魔力で召喚する線も否定できないわね」
「召喚?」
「呼び出すのよ。悪い奴は何でも出来ちゃうから」
街のモンスターがどこから来ているのか、主は無関係ではないと思う。
「左右どちらに進むー?」
前は壁である。
「この棒で決めよう!」
「いや、それは棒の倒れる方角が偏っていたりする」
ユリアンの言うことにお兄さんは反対だ。
「じゃあどうするのっ」
ホッペを膨らますユリアン。あの兄弟、こんな可愛い妹に頼まれたら断れないと思う。
「それはだなぁ・・・」
「ここにいたの!」
上空からエリスがフロートで探しに来た。そして俺たちの前に下りる。フロートで探してくれたようだ。
「よく見つけてくれた」
「それより、どうして入り口へ向かわないの!?」
「道に迷ったんだ」
俺たちもこんな筈ではなかった。
「私、方向音痴で」
「子供で」
実際はユリアンは子供ではない、中間位。
「皆の後をついて来た」
アッキーは人任せな返事。
「ボスとの戦闘で地形が変わった?いいわ、私について来て!」
俺たちは空中から来て、地形を把握しているエリスに黙ってついていった。
「五階層に繋がる階段よ」
モニカさんが指を差す、松明をつけ六階層から五階層に繋がる階段を下りる。
階段を降り出口で一時昼食をとった、と言っても飲物だけ。ここはセーフエリアだからモンスターはこない。休憩をとり体を休める。
「他のギルドの人たち、来ないよな」
「確かに、まぁ私たちはエリスさんがいるから来たんだけど」
「うん」
一階層上がる度、危険度が10%位は上っていると思う。ちなみにレベルを上げても5%は残ったままだ。変わらない、普段通りではまず間違いなく殺される。
以前から修業を積んできた冒険者が次々とやられていった。だから手も気も抜けない。
苔は上手くフロートで避けて地上を移動する。体力がないから戦闘はできる限り避けたい、ので空中に浮かんだ時に苔の分布を記憶した。それを地上で描いて出来る限り負担の少ない最短ルートを考えた。行き当たりばったりでモンスターと遭遇全滅死という結末はご免だ。
「ここをこう通って、ここはこの丸でどうですか?」
「いいえライム、ここに行くとポイズンフラワーが出現したでしょー」
「あっ、そうだった」
「復活してるから、ここにいるかもしれないわ」
「ここも駄目?」
「でもあれって、ランダムで出現するんじゃないのか?」
「それも考えられるけど、たくさん歩く道をあえて選び危険を回避する方法もあるわよ」
「運と実力が必要だな」
「ジャンプするのはどうかな?」
「滑るから却下」
「いいんだ、この際何でも」
意気込みは二段、三段ジャンプするつもり。
「準備はいい?」
「はぁ・・また体力勝負だな」
「ええ」
俺たちは走った。
「ほい、ほい、ほいっ」
「えいっ、とっととあれ~」
「うっ、おっ、はっ」
「ぎゃあ~、べちゃ」
五階層と四階層を繋ぐ真珠の階段を降りる、いっそ滑って降りようかとも思ったが勢いが増して体が切れたり、頭を打ったら危ないので用意周到に下りる事にした。
さらにボートに乗り、波に逆らいながらオールを漕ぐ。
不思議と力はいらなかった。モンスターが出現したが、それでもボートは流されず、追いつかれないように逃げ切った。
「アワ、アワ、アワ、アワ」
と声が聞こえた気がした。
四階層を簡単に通り抜け、三階層の入り口に到着。
「急いで戻って!」
エリスが声をかけた。
「何かあったのか?」
「いいから」
もう走れないから競歩のように歩いていく。ああ、何てダンジョンってきついんだ。ゲームの時はあんなに迷っても疲れるのは手だけだったのに。
魔法陣に乗り二階層につく。ああ座っているだけで楽チンだったのにもう終わってしまった。洞窟を抜け、雨にだけ気を付ける。だがここも急いでいかないと雨で服が溶かされる。
「はぁはぁはぁ」
「っぁ、っぁ」
「はは、ははぁ~」
息が上がる。階段を下り、一階層につくとモンスターの行動が激しかった。
テリトリーがあるのか、やはり階段まで上がってこない。
しかし怪物道にモンスターの群れが集まっていた。
「待ってて!」
とエリスは空中を移動、ファイアボールを遠くでぶっ放しモンスターを誘き寄せた。
その隙に俺たちは移動した。周囲に他の冒険者は誰もいない。
「誰もいないぞ」
「そうですね」
異様な緊迫感に包まれる。この雰囲気は何かあった時の空気や感覚である。
「入り口前に気をつけろ、ドラゴンがいるかもしれない」
「え-っ有名なあのドラゴンですか?」
「ユリアン、見たら死ぬわよ」
「そんな危ねぇ奴なのか!?」
また緊張したユリアン。
「うん」
ユリアンは神の使いとしてドラゴンを見ているようだ。
「爆ぜろ、消えた竜巻を集めて重ねて!」
「エアブラスト!!」
遠くで強い魔術が放たれた。暴風がこちらにも吹きつける。
「何よぉおーっ!!」
「助けてカタリナ―」
「お兄ちゃーん」
「プリセラー」
アッキー今の誰?小声で聞き慣れぬ名前を言うのが聞こえた。
ダンジョンの入り口を出る。辺りは暗く静かだったが、すぐに状況は一転した。風が騒がしく森の木々を揺らす。
「バサバサバサササ!」
木にモンスターがいる!?俺たちは顔を見合わせた。
「ササササッ!」
「スプレッドクローズで頭を覆って」
とエリスが言う。
「顔!?」
エリス以外は布で頭を覆った。
「ガサァガサャ、バサバササァ!!」
「トサトサ、トサ・・」
モンスターが急速に近づく気配!
「舞い上がれ、まわる大地と砂!」
「サンドストーム!!」
竜巻が砂を地面から掬いとる。さらに風に混ざった砂は辺り全てに飛散した!
揺れる手と足、パシパシと俺たちの体に当たる砂。俺は布をぎゅっと握りしめ、その風に耐えた。横でユリアンと思われる体が足に当たる。
ほんの少しの間だが、疲労感で負けそうになった。でもここで我慢しなければ俺は誰も守れない、そう思って頑張る。
「布をとって!逃げるわよ!」
走った、川の水の流れる音が耳に入る。月のような光球が空にある。僅かな光が水面を照らす。川を跳ねる音がした。一難去ってまた一難。不利な状況を狙うモンスターに、
「うちおとせ、空より雷電柱!」
「サンダーボルト!!」
遠慮なくエリスは魔術を放った。ぷかーと川に浮かんで消えていくモンスター、
岩の下のトンネルを抜けると、ほとんどラクーダがいなかった。いたのは俺たちが乗ってきたラクーダだけ。みんな帰ったのか?
「ラクーダ少なくないか?」
「どうしたんだろう皆」
もう夕暮れすぎで暗かった。
「焦げ臭くない?」
「あの方向は、オアシス湖!」
「オアシス湖!?」
「エリス、このままオアシス湖に行くか?」
「いいえ、サンサンドの街に急ぎましょう!」
街の上空がオーロラに包まれたように神秘的に輝いていた。暗いのでこの距離からでもわかる。俺たちはラクーダに乗ってサンサンドの街へ急いだ。
「ライム、私はフロートで行くからこのラクーダも連れていって」
「エリス、魔力があるのか!?」
「私は大魔法使いよ」
エリスは魔術を詠唱し放った。その数は三つ。
「ティルウィンド」
「ウィンドサークル!!」
「フロート!!」
「それじゃー街で待っているから」
「お、おい!」
風魔術をいくつか多用し、街へ飛んで行った。
「できるじゃねーか、ビヒューンって飛んでいくの」
「あれは、一つの魔術じゃないわよ」
「うわぁ~すごい、エリスさん人間じゃないみたい」
「実はエリスさん、レベルが五十以上あるみたいよ。これは秘密なんだけどぉ」
「そ、そんな高いんですか!」
ユリアンはアッキーの方を見た。
「んぅー、そうだよ」
アッキーは成り行きでそう答える。
エリスの正体は俺たちも未だに分からないが、実際のレベルは五十以上ありそうだ。そのエリスがあれだけ急ぐとはただ事ではない、嫌な予感がした。
それから1km程ラクーダで移動した。
「ぅん~、モンスターがいないよ!」
アッキーが異変に気付いた。
「そりゃーいないだろ。夜は視界が悪いから見えないし」
そう言えば、夜盛んに行動するモンスターが、ここまで一匹も出現していないな。
限界を超える修業で死ぬことはないか?無理は禁物、日々鍛錬と努力の積み重ねが大切。それでダンジョンからエリスは引き返した?




